kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

内橋克人『新版 匠の時代』第5巻(岩波現代文庫)

読み終えた本。


新版 匠の時代 5 (岩波現代文庫)

新版 匠の時代 5 (岩波現代文庫)


このシリーズは70〜80年代に内橋克人が『夕刊フジ』に連載した技術開発物語の復刻版。全6巻のうち第1〜3巻に次いで第5巻を読んだ。4巻を飛ばして5巻を先に読んだのは、第I章「倉敷物語」のタイトルにひかれたため。かの地の住民だったことがあるのだ。この章で取り上げられているのは、倉敷中央病院とクラレの人口補助肝臓開発物語。同病院にお世話になったことはないが、病院の中に入ったことはある。2001年には台湾の李登輝元総統が治療を受けるために同病院を訪れたことがニュースになった。

倉敷中央病院は、倉敷紡績クラボウ)創業者二世でクラレ*1を創業した大原孫三郎が1923年(大正12年)に創設した。病院創設の動機となったのは明治時代に倉敷紡績の寄宿舎で起きた腸チフスによる従業員7人の死亡だったという。大原社会問題研究所労働科学研究所を設立した大原孫三郎は政府当局ににらまれたこともあったというが、かつては大原のようなスケールの大きな企業経営者がいた。この倉敷中央病院とクラレの物語はなかなか読ませる。難は神戸出身の著者による岡山弁の描写に、著者と出身地が近い「非岡山人」の私が読んでもちょっとおかしなところがあるんじゃないかと思えることくらいか。

続く第II章は東京女子医大の「腎センター」と東レ人工透析装置開発記である。本書194頁に「"命もカネ次第" に開発者の怒り」という小見出しが付されているが、当時保険の適用除外であった人工透析は、金がなければ治療が受けられず、治療を受けられない患者には死が待つのみだった。そんな状態に憤った開発者たちは、少しでも安い人工透析装置を多く作れないかと腐心したのだった。現在、当時とは逆に「金がなければ治療を受けられない」方向へと、日本政府は政策の舵を切ろうとしている。

最後のやや短い第III章では松下電器(現パナソニック)が取り上げられている。

*1:倉敷絹織から倉敷レイヨンを経て現社名。