kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

物理学者・大槻義彦の「老醜」

さるSNSで、老物理学者・大槻義彦副島隆彦ばりの「アポロ月着陸捏造説」を唱えていることを知った。Wikipediaには下記のように書かれている。

  • 2003年末にテレビ朝日系列で放映の超常現象特番で、アポロ月着陸捏造説を取り上げた際に「アポロ11号の持ち帰った月の石を世界中の物理学者が研究しても何も画期的な成果は出てきていない。アメリカの砂漠で拾ってきたものではないか」という事実とは異なる発言を行い、問題視されたこともある*1。この発言の後「物理学会から総スカンを食ってえらい目にあった」というが*2、2008年末の同じ超常現象特番でも同様の主張を繰り返しており、持論は変えていないようである。
    • ただし、月着陸そのものが捏造であるかどうかについては「唯一の物証である月の石が捏造だ」と断言しているにもかかわらず、「科学者である立場上、社会的制約もあるから、どうしても(月着陸が捏造とは)言えない」と、明言を最後までしなかった。自らのブログでは、番組を見た読者からの質問に対し「その他の手段で採取されたという石について同じ疑問を持っているわけではありません」「また、アポロ月面着陸について明確なでっち上げと断定しているわけでもありません」と月着陸自体を全否定してはいないことを主張しているが、番組での発言とは矛盾が見られる*3
    • 同じ番組内で「アポロが月に置いてきたとされるレーザー反射鏡実験が今は行われていない」とも発言しているが、2000年代でもレーザー反射鏡による実験は行われており、これも事実と反する発言である*4


大槻義彦については、昔から(80年代頃から?)タレント教授として知られていたが、私はこの男をずっと嫌っていた。テレビでは「火の玉教授」として宣伝されていたが、何でもかんでもプラズマが原因だと決めつけていて、断定できるとはとても思えない事柄を断定調で語るのは学者にふさわしい態度と言えるのだろうか、テレビ局と視聴者に対する媚態ではないかと感じていたのだ。

案の定、90年代半ば頃から出版された「と学会」の「トンデモ本」で、大槻は「何でもかんでもプラズマのせいにするトンデモ学者」と判定されていた。ところが月刊誌『噂の真相』はそんな大槻に「オカルト批判」の連載を持たせていて、私は「大槻自身がトンデモなのに、こんな男に『トンデモ』批判をさせるとはなにごとか」と憤っていたものだ。だが、そんなことももうすっかり忘れていて、SNSで思い出させていただいた次第。

SNSで取り上げられ、問題されていたのは、そんな大槻が書いた下記のコラム。

http://ohtsuki-yoshihiko.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-ddd5.html

以下の記事は、大槻が月刊誌『パリティ』(丸善出版)に書いたものですが、このブログの読者のみなさまにもお読みいただきたく、転載いたします。

 九州大学理学部数学科は入試定員に女性枠というものを設けることを2010年春に発表、2012年春の入試から実施する予定であった。これに対して、大学には多くの反対意見が寄せられ、ついに九州大学はこの入試方式を断念したことを、今年5月に発表した。
 断念の理由は、大学に寄せられた意見の多くが、このような女性枠の導入は“男性差別”になる、というものだったからだという。入試の後期日程の定員9人のうち5人を女性枠にあてれば、残りは4人で、このうち正規に女性が1人合格してしまえば、男性は3人ということになる。つまり、後期日程9人のうち、6人は女性、3人が男性ということにもなりかねない。たしかにこれは、公平であるべき入試に性差による差別を導入することになる、という意見もうなずけるし、中止になった理由もわかる。
 これでは能力のある男性に対していわれのない差別となって、九州大学数学科で学ぶことから排除される。しかしよく考えてみると、このような入試制度は真に女性差別の解消につながるものだろうか?かえって女性差別を助長することになりはしないか。
 たとえば大学院入試はどうなるのか。九州大学数学科には、男子学生より成績の悪い女子学生を選んでしまったとしても、学部の教育で男子学生と同じくらい成績が上がるという教育プランがあったのだろうか。実際にそのようなものはなかったとしたら、大学院入試では女性は振り落とされてしまうではないか。また、数学科の卒業生の多くは高校教員の採用試験に臨むが、この場合も大学院入試と同様、女性志願者が振り落とされる結果となる。
 しかしこれらは、女子学生が在学中に自らの立場を自覚して男子学生よりよく努力し、勉学に努めればすむ話かもしれない。実際はもっと深刻なことがある。それは一種の“風評被害”である。つまり、「九州大学の数学科の女子学生はもともと女性枠で入ったものだから、成績はよくない」という風評である。先に述べた高校教員採用やIT企業などでの採用にあたって、このような風評が立つのだ。こうなると、女性枠入試は男性差別どころか女性差別である。つまり“女性差別解消”をめざしているといっても、実際には女性差別の助長になりかねないのだ。
 数学や物理の分野での女性の活躍が少ないことは事実である。しかし、これを解消するのに安易に女性枠などを導入して、何の役に立つのか。逆にそのことが新たな女性差別になりかねない。この分野での女性の活躍をうながすためには、社会の構造を根本的に改めなければならない。それにはもちろん子育て支援、家事支援も入るが、それ以上に社会が女性を必要とするよう、社会構造を変革しなくてはならない。
 それにしても、数学人はなんと単純な人たちか。上に述べたような国の社会改革のことなど考えもせず、たんに入試の女性枠をつくろうとしたのだ。しかもそれを批判されると、やる前にあっさりと中止してしまった。これこそ社会を混乱させる“2重の誤り”ではないか。誤った入試を導入しようとし、実施もしないうちにほとんど何の説明もない間に中止したのだ。


パリティ』は丸善が発行している科学雑誌(主に物理学)であり、大槻が編集長を務めていたことは知っていたが、いまだに編集長を続けているとは思わなかった。だって大昔からやってたからね。それはともかく、大槻は積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を批判しているのではないか、新自由主義的な論者といえるのではないかという批判である。

テレビに出て人気者になれる才能を持った人間が新自由主義的な思想信条を持つに至るのはよくある話だと思うが、他に気になるのは大槻が「原発推進」論者であることだ。

光をめざして : 原発事故をめぐっての楽観論と悲観論について(大槻義彦氏と広瀬隆氏) - livedoor Blog(ブログ) より。

この大槻氏がある高校教師から氏のブログに寄せられた「先日の東北関東大震災による福島原発のトラブルについてブログでコメントしていただけないか」との投稿に下記のように答えている。

(大槻からの回答)
 私はもともと、日本物理学会の『放射線分科』に所属する専門家です。同時に国際放射線影響学会の会員でもあります。この点もふまえて、ご回答いたします。Iさんのおっしゃることはほとんど正しいことですね。(1)福島原発30キロ範囲であっても直接人体の健康が害される危険はない(2)この範囲外なら日常の普通の生活で放射線の影響は問題にならない(3)まして東京の市民が放射線の影響を受けることはない。(4)食品、水道水などからの放射線の影響はない。
 現時点でもっとも正確で正しい見解は国連WHOが出しているものです。政府や東電の発表が信用できないと思うかたがたはWHOを信じてください。もちろんWHOは国際放射線影響学会などの研究の成果を踏まえて見解を公表しています。
 さて問題の原発事故ですが、私の見解は一言、『これだけの、有史以来最大の大地震、大津波でよくぞこれだけ持ちこたえてくれた』、というものです。
 今、3月21日午前11時の時点で言えば、これから1週間ぐらいで原発からの放射能の放散は止められ、収束に向かうでしょう。原発の問題はしばらくしてから総括しますが、ことここにいたっても私は強調します。『車は安全ではありませんが必要です。同じように原発は安全ではありませんが必要です』と。


以上の引用から大槻氏は「福島原発からの放射能拡散は原発よりも30キロ範囲であっても、直接人体の健康が害される心配はなく、その範囲外であれば日常生活に何の支障もない」と考えていることがわかる。
また、大槻氏は「原発事故は今後一週間で放射能の拡散は止められ収束に向かう」とも述べている。

大槻氏は事故が起きてからはTVなどに出まくって、根拠の怪しい「大丈夫論」を垂れ流す原発推進勢力の一員の御用学者とは一味違う研究者であると筆者は思っている。
ゆえに大槻氏の「事態はひとつひとつ収束に向かってすすんでいるの」という楽観論には一定の信頼感を感ずるのである。


ここで引用されている大槻の元記事は、東日本大震災および東電福島第一原発事故が起きた9日後、3月21日に書かれている*5

残念ながらブログ主の期待は裏切られ、大槻の予想は外れた。大槻は、「根拠の怪しい『大丈夫論』を垂れ流す原発推進勢力の一員の御用学者」と何ら変わるところはなかった。

それよりも何よりも私が問題視するのは、大槻が「私はもともと、日本物理学会の『放射線分科』に所属する専門家です」と書き、自らの権威を誇示している点だ。

私の認識では、大槻は確かに放射線物理学の専門家だが、放射線が人体に与える影響に関する専門家とはいえない。それなのに上記のように自分で自分に権威づけをして「安全幻想」を撒き散らす行為は「犯罪的」と言わざるを得ないのではないかと考える。

大槻とは逆サイドの「リスク厨」武田邦彦についても言えることだが、テレビへの露出度が高い自然科学系の「学者」は、やはり信用できない。大槻義彦は75歳、武田邦彦も68歳のご老体。いい加減老醜を晒すのはおやめになってはいかがか。

*1:実際には地球で見つかった最古の石よりはるかに古いことが判明するなど、地球の石とは全く違う組成であるとの分析結果が公表されている。=Wikipediaの注釈

*2:『感涙!時空タイムス』(テレビ東京系で2006年11月20日放映)での発言。=Wikipediaの注釈

*3:番組内では共演者である山口敏太郎に「(アポロの持ち帰った月の石が捏造ということは)月に行っていないということを、認めざるをえないですよね」と確認された大槻が「そういう結論になるでしょうね」と、言外に月着陸が捏造だと認め、「文部科学省との関係や学会での立場とかがあるから言えない」「私が何を考えているかは類推してほしい」と、歯切れの悪い発言に終始した。=Wikipediaの注釈

*4:http://en.wikipedia.org/wiki/Apache_Point_Observatory_Lunar_Laser-ranging_OperationWikipediaの注釈

*5:http://ohtsuki-yoshihiko.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-090a.html