kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「液体のりが白血病治療に有効」という話を調べていたら、植民地支配と核開発の話に行き着いてしまった

 「はてなブックマーク」が多数ついたこの件、朝日の見出しを見た時には「アラビックヤマト」の「液体のり」が、白血病で異常増殖して人を死に至らしめる異常白血球をやっつけるのかと思ってしまったが、記事本文を読むとそうではないことがわかる。

 

https://www.asahi.com/articles/ASM5X6HTMM5XULBJ01H.html

 

市販「液体のり」、白血病治療の救世主に? 専門家驚嘆

合田禄 

 

 

 白血病の治療で重要な細胞を大量に培養することに、東京大と米スタンフォード大などのチームがマウスで成功した。これまでは高価な培養液でもほとんど増やせなかったのが、市販の液体のりの成分で培養できたという。白血病などの画期的な治療法につながる可能性があり、専門家は「まさにコロンブスの卵だ」と驚いている。

 白血球赤血球に変われる造血幹細胞は、0・5リットルで数万円するような培養液でも増やすことが難しい。このため、白血病の治療はドナーの骨髄や臍帯血(さいたいけつ)の移植に頼る場面が多かった。

 東京大の山崎聡特任准教授らは、培養液の成分などをしらみつぶしに検討。その一つであるポリビニルアルコール(PVA)で培養したところ、幹細胞を数百倍にできたという。マウスに移植し、白血球などが実際に作られることも確認した。

 PVAは洗濯のりや液体のりの主成分。山崎さんは実際、コンビニの液体のりでも培養できることを確認した。共著者で理化学研究所で細胞バンクを手がける中村幸夫室長は「結果を疑うほど驚いた。研究者はみんな目からウロコではないか」と話した。

 大量培養できれば、臍帯血移植に使う造血幹細胞の不足が解消できたり、骨髄移植のためのドナーの負担を軽くできたりする可能性がある。別の幹細胞も培養できそうだといい、山崎さんは「再生医療や基礎研究に大きく貢献できるかも知れない」と話す。

 論文は30日に英科学誌ネイチャー(https://www.nature.com/articles/s41586-019-1244-x別ウインドウで開きます)に掲載される。(合田禄)

 

朝日新聞デジタルより)

 

 下記は朝日新聞デジタル編集部のツイートより。


 

 上記ツイートに反応した下記ツイートが、この発見の「すごさ」の核心を突いていると思った。

 

 

 

 ポリビニルアルコール(略称PVA、一般名ポバール)というのは日本発の合成繊維として戦前から宣伝されたビニロンの原料として知られる水溶性の合成樹脂。合繊は日本発だが、クラレのサイトを参照すると、PVAは1924年にドイツのヘルマン博士が初めて合成したとのこと*1。現在では化学工業で量産されるありふれた人工の合成樹脂が、白血病治療に使われる造血幹細胞の培地の一部となる成分として適していた。この新発見が、「コロンブスの卵」として医療の専門家に驚嘆されたということなのだろう。

 ここから話を脱線させるが、ビニロンが「国産初の合成繊維」だというのは、遠い昔に小中学生向けの学習百科事典か何かで知ったようなおぼろげな記憶がある。それは1970年代のことであって、当時は戦後民主主義の全盛期だったが、それでも誇らしげに書かれていたから、今でも国粋主義的右翼の琴線に触れる話で、もしかしたら「日本スゴイ」ネタにもとりあげられているのではないかと思った。しかし、概して科学が苦手であろう国粋主義的右翼たちにはなかなかビニロンには気がつかないらしく、「ビニロン 日本スゴイ」でググってみたが、下記が目についた程度だった。

 

 

・液晶偏光膜用フィルム「クラレビニロンフィルム」
世界シェア100%。世界全ての電卓、ノート型パソコン、携帯電話、カーナビ等のLCD(液晶表示装置)に素材として使用されている。
世界シェア世界一

 

 そう、このクラレ(旧倉敷レイヨン)が、大日本紡績(現ユニチカ)などとともにビニロンの量産技術を確立して同製品を商業ベースに乗せた企業だった。倉敷レイヨンは中国地方、大日本紡績は関西の企業だが、これはビニロンの合成に初めて成功したのが京都大学だったためだ。

 

www.kyoto-u.ac.jp

 

 以下引用する。

 

化学研究所所蔵「ビニロン」の資料が化学遺産に認定されました。(2012年3月26日)

 

 化学研究所所蔵の「ビニロン」に関する資料が、公益社団法人日本化学会の「化学遺産」に認定されました。化学遺産は、日本の化学と化学技術に関する歴史資料の中で、特に貴重なものを認定するものです。今回認定された資料は、ビニロンを工業化するための計画書とビニロン紡糸実験装置です。計画書の表紙には桜田一郎教授の直筆で「羊毛様合成一号製造工場計画書」と書かれています。

 ビニロンは国内技術で初めて作られたポリビニルアルコールを主体とする合成繊維で、桜田一郎 教授(当時工学部、化学研究所兼任)らによって発明されました。その基礎研究は当時大阪府高槻町(現高槻市)にあった化学研究所において行われ1939年に完成し、工業化に携わったユニチカ株式会社所蔵の工業化試験記録資料153点と試作糸資料5点、株式会社クラレ(当時倉敷レイヨン株式会社)の所蔵する日本で最初に工業化された初期の糸(トウ)も同時に化学遺産に認定され、両者にも認定証が贈呈されました。

 認定証贈呈式は、3月26日に慶応大学日吉キャンパスで開催の日本化学会第92春季年会で行われ、時任宣博 前所長とユニチカ株式会社、株式会社クラレの関係者に手渡されました。

 

 ところが、この発明にも戦前の日本が行った朝鮮半島の植民地支配が影を落としていることを知った。京大の研究には李升基という朝鮮人研究者がかかわっていたのだ。ネット検索で、10年前に書かれた下記ブログ記事がみつかった。

 

blog.goo.ne.jp

 

 以下、上記ブログ記事を引用する。

 

『ある朝鮮人科学者の手記』 李升基博士の生涯

2009年04月25日 | 世の中を良くしたい!
 
 
●『ある朝鮮人科学者の手記』
この本と出合ったのは1974年、大学1年生の春だった。
私は小中学生時代は”チョウセン”と言う言葉を聞いただけで、体中から汗が噴出しそうな恥ずかしさがあった。

高校生になったら、差別、社会に対する苛立ちが加速し、三無主義⇒生活が乱れ始めた。
酒、タバコ、パチンコの日々・・・。
そして新聞部に入り、信州大学の学生との学園紛争の真似事に足を突っ込んだ。
当然成績はガタ落ちで、入学時には10番以内だった成績は下から数えて数十番にまで崩れた。

■何の目的もなくモラトリアムとして、どこでもいいから入れる信州大学繊維学部に入学。
そこで”同胞⇒トンム(同務)”たちと知り合った!
まるで暗闇で光明を見つけたように走り始めたのです。
本を読み漁り、議論を戦わし、ハングルを覚え・・・。
まさに水を得た魚のごとく寝る間を惜しんで勉強と活動をした!

◆そんな時に出合ったのがこの本。
   
    【私の人生に大きな影響を与えた本です】

李升基博士は、1905年に韓国 全等北道で生まれ、植民地時代に日本に留学し京都大学工学部で合成化学を学んだ。
優秀な成績ながら就職差別にあい、零細企業で糊口をしのぐ。
アメリカでの世界初の合成繊維ナイロンの発明に続き世界で2番目の合成繊維ビニロンの発明を行なう。
しかし、それは日本人の発明とされ、愕然とし虚しさを感じる。
大阪憲兵隊に拘留されるが終戦の8月15日に釈放される。

1945年11月に希望を胸に韓国に渡るが米軍の支配下では研究はまったくできなかった。
1950年の朝鮮戦争でソウルが開放された数日後”北”からの要請で家族と共にすぐに北朝鮮に向かった。
北朝鮮では素晴らしい環境の元で、研究を行いビニロン工場を建設し国民的英雄となった。

◆35年前にこの本を読んで大きな感動を受けた。
李博士を尊敬し、少しでも近づこうと必死だった。
そして李升基博士と共にビニロンの開発を行なった桜田一郎先生の弟子の松澤秀二先生に師事し、何とかビニロンに続く繊維を発明し、帰国して祖国に貢献しようと真剣に考えていた。

◆しかし、それは陽炎のごときうたかたの幻想だった。
北に渡ったトンムは収容所で変死し、親戚は栄養失調で病死していった。
チュチェ思想””理想の国”は儚い砂上の楼閣でしかなかった。
28歳の時に”ラングーン テロ事件”が起こり、これは絶対におかしい!
そう考えて”転向”したのですが、そこにはかつて共に戦った先輩がすでにいたのです。
「過ちを改めるのに遅い事は無い!」
彼はそういって慰め励ましてくれました。
そして現在に至っているのです。
亡くなった先輩、生き別れた親戚の為にも絶対に泣き言を言う事はできないのです。

★長くなりましたがこれからが本題です。
最近の「テポドン」について検索していたら、核開発のリーダーは元在日の4人の科学者です。とある。
しかも李升基博士は「核開発の父」でトップリーダーとされている。

参った。こんなところで李博士の名前が出てくるとは!

李升基博士はまさに数奇な運命を歩んだといえるでしょう。
その穏やかな笑顔と性格から人民のためにと言う思いから苦労されたことが伝わって来ます。
そんな方が最後には人類の終焉を招く核兵器の開発をしなければいけない胸の内ははどうだったのでしょう?

博士は1996年に享年91歳でご逝去されています。
 
(『PARK'S PARK』 2009年4月25日)

 

 北朝鮮ではビニロンは自国の発明品とされ、金日成が名づけた「ビナロン」という名で呼ばれているという。しかし「日本スゴイ」にかまけるこの国の排外主義的右翼にそれを笑う資格などない。いや、一部の右翼だけではない。今の日本人の大多数は、安倍晋三が自ら選んだと誇示した新元号に浮かれ、改元の瞬間には愚かしいカウントダウンをやるなどの馬鹿騒ぎに興じたり、その1か月前には新元号をいち早く自らの政治団体の名称に冠する政治家も現れるなどした。そんなカウントダウン騒動や政治団体名への批判さえろくすっぽなされないのが今の日本だ。
 とはいえ、ビニロンの原料であるポリビニルアルコールが白血病治療に大きな進歩をもたらしそうだとのニュースは、世の中悪いことばかりではないとの救いを久々に感じさせてくれた。