kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

黄禹錫と小保方晴子「禍福は糾える縄の如し」

STAP細胞」と「Muse細胞」がどう同じでどう違うのか、という件、私は最近になって「STAP細胞」の特許出願について調べたことをきっかけにして知ったばかりである。この件は、テレビや新聞は全然報じないのだが、ネットにおけるもう少し専門的なサイトはおろか、『週刊ポスト』あたりも、「小保方晴子は『Muse細胞』の追試をやっていたことがあるらしい」などと報じていたようだ。テレビや新聞の役立たずぶりには呆れる。

彼ら(テレビや新聞)はよく「学者」たちのコメントを伝えるが、受け手として肝に銘じるべきは、分子生物学とは畑違いの分野の学者のレベルは、われわれ一般の素人と何も変わらないということだ。たとえば、「資源材料工学で、機能材料構造を研究テーマとしている」らしい武田邦彦は、地球環境問題や原発に関してはまるっきりのど素人であり、武田が地球温暖化論に関していかにひどいトンデモを垂れ流していたかを、私は5年前に「きまぐれな日々」のコメント欄で「地球温暖化陰謀論者」と論争した時に調べて知ったのだった。

先日の朝日新聞オピニオン欄で、「STAP細胞」騒動についてコメントしていた東大教授ロバート・ゲラーのインタビューに説得力を感じなかったのも、ゲラー教授が「地震学」の専門家であることが一因だ。「地震学」といえば、原発問題で「トンデモ」発言を連発して注目を浴びた「火山学」(地質学の一分野)の早川由紀夫を思い出すが、早川とて原発の専門家ではない。『院長の独り言』とかいうブログを書いている九州の藪医者・小野某などは、早川某よりももっとひどい、論外中の論外である。彼らは極端な例だが、一般に、研究者が専門とする領域は、われわれ一般ピーポーが思っているよりもずっと狭く、みんながみんな「井の中の蛙」に過ぎない。だから、物理屋電気屋や機械屋に「STAP細胞」を論じることなどできるわけがない。畑違いの大学教授など、そこらの床屋政談ならぬ床屋科学論議と何も変わらないことしか言えないのである。「火の玉教授」はプラズマのことにしか詳しくないし、「きくまこ先生」その他も同じ。彼らが揃いも揃って東電原発事故の収束の見通しを誤ったのも当然なのだ。なぜなら彼らもわれわれと同じど素人だから。われわれは、そんな人たちの言葉をありがたがって真に受けてはならないのである。余談だが、ロバート・ゲラーは大阪・読売テレビのあの悪名高い極右番組『たかじんのそこまで言って委員会』にしばしば出演しているらしい。

いずれにせよ、分子生物学全体における「STAP細胞」や「Muse細胞」の位置づけに関しては、今後、意欲を持つ科学ジャーナリストの働きに期待したい。朝日や日経の科学記者たちに対しては私は何も期待しない。なぜなら、彼らもまた、自らの地位にあぐらをかく「特権階級」の人たちだからである。彼らの無能さは、現在に至る「STAP細胞」騒動の報道によって、十分すぎるほど証明された。

で、「Muse細胞」は少しハードルが高そうなので、9年前、小保方晴子らと同じように「捏造」が指弾された、韓国の黄禹錫が、最近米国特許を取得したらしいと知ったので、その関連を少し調べてみた。下記の2件の記事は、いずれも小保方晴子理研が名声の絶頂にあった時期に、韓国の中央日報によって報じられた。

黄禹錫元教授が米国で特許登録「研究再開させてくれれば…」 | Joongang Ilbo | 中央日報(2014年2月12日)

黄禹錫元教授が米国で特許登録「研究再開させてくれれば…」


黄禹錫(ファン・ウソク)元ソウル大学獣医学部教授が作ったNT−1幹細胞株(1番幹細胞株)が11日に米国で特許登録された。細胞株自体(物質特許)と製造方法(方法特許)が対象だ。

黄元教授は2003年にソウル大学の研究陣とともにこの細胞を作った。2005年にサイエンス誌の論文に載せられた黄元教授の他の幹細胞が最初から実体さえなかったのに対し、NT−1は実際に存在する。だが、2006年にソウル大学の調査委員会はこの細胞が「複製ではない自然発生的な処女生殖で作られた可能性がある」と明らかにし、事実上技術的成果を否定した。黄元教授側は今回の米国特許登録で「これまで議論を呼んできたNT−1の実体を認められた」と主張した。これに対し韓国幹細胞学会は、「特許は方法的な独創性を問うということだけで技術的検証を受けたものと拡大解釈する必要はない」とする立場を明らかにした。イデアを評価しただけで実際に細胞を作ったと認めたものではないとの意味だ。

米特許商標庁(USPTO)はこの日、ホームページに「ヒト体細胞核置換で作った胚性幹細胞株」が特許登録(第8647872号)されたと公開した。発明者は当時の研究員ら15人になっており、黄元教授は2番目に名前が出ている。

この特許は2006年にソウル大学産学財団がオーストラリアやカナダなど20カ国余りで同時出願したもの。2008年に黄元教授が代表のHバイオンがこれまでかかった費用1億4000万ウォンを払う条件で出願権を譲り受けた。2011年にカナダでNT−1に対する初めての物質・方法特許が認められ、今回が2番目だ。韓国では特許庁ソウル大学の調査結果を基に、「再現ができない未完成の発明」と通知した後、黄元教授側がこれに対する反論意見提出を先送りしている状態だ。特許登録を代行するチョンジン国際特許法律事務所のキム・スンウ弁理士は、「米国の特許資料を整理し近く韓国での特許手続きを再開するだろう」と話した。

黄元教授はこの日、本紙の取材に対し、「米国での特許登録が他の国の特許登録にも影響を与えないか期待する」と明らかにした。続けて、「韓国政府が『特許まで出てきたのでまた研究をするように』と前向きな措置をしてくれればありがたい」と述べた。黄元教授は論文ねつ造問題後、胚性幹細胞の臨床研究許可を受けられずにいる。黄元教授は「米特許庁が最初は幹細胞を再現するよう要求したが、昨年米オレゴン保健科学大学のチームがわれわれと同じ方法で胚性幹細胞を作った後に姿勢を変えた」と伝えた。これに対しキム弁理士は、「発明は技術的アイデア。出願者(黄元教授)は技術を再現できなかったが第三者が実際に実現できるという点を立証したもの」と話した。

黄元教授は2006年にソウル大学を離れた後、ソウルのスアム生命科学研究院で犬の複製研究などを継続してきた。NT−1幹細胞の登録を拒否した疾病管理本部を相手に訴訟を提起して1・2審で勝訴した。現在3審が進行中だ。スアム研究院は昨年北京ゲノム研究所(BGI)とともに絶滅したマンモスを復元するプロジェクトを進めていると公表したりもしている。

中央日報日本語版 2014年02月12日10時53分)

この件に関しては、赤字ボールドで示した韓国幹細胞学会のコメント「特許は方法的な独創性を問うということだけで技術的検証を受けたものと拡大解釈する必要はない」が正しい。日本の特許庁の審査官は、理系の学部は出ているけれども、研究開発の実務の経験など全く持っていない人が大半で、ただ書類のみを審査して特許査定なり拒絶査定なりを下しているだけだが、アメリカでもおそらく事情は同様であろう。つまり、特許登録と技術的検証とは縁もゆかりもない。

【社説】黄禹錫の米国特許…後退した「幹細胞」振り返ってみよう | Joongang Ilbo | 中央日報

【社説】黄禹錫の米国特許…後退した「幹細胞」振り返ってみよう


黄禹錫(ファン・ウソク)元ソウル大学教授が作った「ヒトの胚性幹細胞(NT−1)」が米国で11日(現地時間)、特許登録されたという。研究論文のねつ造とは別に、米特許庁がNT−1を体細胞複製方式の胚性幹細胞として受け入れたものと分析されている。2005年「サイエンス」誌に発表された論文が操作されたという報道があふれ出て、ソウル大調査委員会が「人間の体細胞の複製胚性幹細胞の培養は虚偽」と判定した後、9年ぶりの反転であるわけだ。

いわゆる「黄禹錫事態」でこれまで韓国の幹細胞研究は致命的な打撃を受けてきた。一時は世界最高を誇った幹細胞研究はしばらく後退していた。予算支援は減り、あらゆる倫理的規制が固く締めつけられた。この前は幹細胞分野のトップランナーに挙げられていたR&Lバイオのラ・ジョンチャン会長が株価操作疑惑などで拘束もされた。

これに比べて米国・日本などの幹細胞研究は目覚ましく発展してきた。日本の山中伸弥教授はハツカネズミの皮膚細胞を利用してすべての組織に分化できる誘導万能幹細胞(iPS、逆分化幹細胞)を作ることに成功して2012年にノーベル生理医学賞を受けた。この前は日本理化学研究所の30歳の女性化学者である小保方晴子博士が、ネズミの血液細胞を弱い酸性溶液で刺激して幹細胞のようなSTAP細胞を作り出し世界を驚かせた。倫理論議から抜け出してオーダーメード型細胞治療の「世の中を変える技術(game changer)」があふれ出る時代だ。

この前、「ネイチャー」誌が「複製の帰還」という記事でファン・ウソクの復帰の兆しについて報道した。また米特許庁がNT−1に対する権利を認めただけであってNT−1の基礎固有技術を認めたものではないとの論議もある。再び韓国社会での熱い賛否論争が予想される部分だ。明らかなのは、これ以上胚性幹細胞の研究を先送りすることはできない私たちの現実だ。すでに世界のあちこちで幹細胞治療剤の商用化が試みられている。誰が最も簡単で安く幹細胞を作るのかをめぐり主な先進国が総力を挙げて競争している現実から目をそむけてはいけない。

中央日報日本語版 2014年02月13日11時43分)

この社説を読んで、「禍福は糾(あざな)える縄の如し」という諺を思い出した。韓国紙の社説が、黄禹錫の捏造が招いた韓国の幹細胞研究の低迷と、小保方晴子が浴びた脚光を対比させた直後に、小保方晴子にもまた捏造の疑惑が発覚したからだ。だが、

「ネイチャー」誌が「複製の帰還」という記事でファン・ウソクの復帰の兆しについて報道した。

と言われても、"Nature" が「STAP細胞」の論文を掲載したこととあわせて、"Nature" の権威自体が疑われるだけの話だし、社説の最後に置かれた結論の部分は誤った認識であるとして批判するほかない。韓国にせよ日本にせよ、「金になる研究」にばかり異様なまでに国家の科学技術関連予算を傾斜配分してきた「新自由主義の政治」こそ、「黄禹錫事態」や「STAP細胞騒動」を招いた元凶である。韓国も日本も、政府やマスメディアや世論はこのことを早く認識し、十分反省すべきだ。