kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「STAP細胞事件」は「日本の科学教育のあり方の問題」の表れなのか

STAP細胞」の件、小保方晴子笹井芳樹の両氏や理研に対しても多くの疑念を持つが、それ以前にマスメディアの報道や「日本の科学教育のあり方の問題」を賢しらに口にする「専門家」に対する疑念が先に立つ。

たとえば、小保方晴子の「研究ノート」を上司である笹井芳樹が「見たこともない」と言ったことが批判されているが、私が以前から持っている認識によれば、博士号を受けることは、一人前の研究者としての免許を受けたと同じことだ*1。いわば自動車の運転免許証のようなものであり、免許を取ったドライバーの横の助手席に、教習所の教官が居座り続けて、いちいちドライバーを指導することがあり得ないのと同様、博士号を持った一人前の研究者、それも笹井芳樹の言によれば「直属の部下ではない」小保方晴子の「研究ノート」を見たことがなくても当然ではないかと私は思う。というより、上司がいちいち博士号を持っている研究者たちの研究ノートを見て回る光景の方がよほど信じられない。

今回の件で気持ち悪くてたまらないのは、「30歳の若いお嬢さんが」云々という議論であり、満30歳といえば坂本龍馬シューベルトが死ぬ前の年、つまり最晩年に当たる。日曜日(4/13)のTBSテレビ『サンデーモーニング』で、普段は私の大嫌いな大宅映子が、小保方晴子を「30歳の若いお嬢さん」扱いするのも、小保方晴子だけを悪者にするのも、両方とも気持ち悪いと言っていたが、私も同感である。

それと同様に、私も笹井芳樹を「胡散臭い『大科学者』だなあ」と思っていたにもかかわらず、笹井氏の会見の当日及び翌日、「科学者から『疑問の声』続出」とかなんとか言って、全く畑違いの学者たちが笹井氏を批判するコメントを伝えるマスメディアの報道に接して、極めて強い違和感を持った。だから、黄禹錫と小保方晴子「禍福は糾える縄の如し」 - kojitakenの日記(2014年4月18日)に、

彼ら(テレビや新聞)はよく「学者」たちのコメントを伝えるが、受け手として肝に銘じるべきは、分子生物学とは畑違いの分野の学者のレベルは、われわれ一般の素人と何も変わらないということだ。

と書いたのである。

特に反発を感じたのは、これは笹井氏の会見より前の話だが、4月15日付朝日新聞に掲載された東大教授ロバート・ゲラー(地震学)のインタビュー記事だった。この記事の冒頭で、ゲラー教授は

 STAP細胞をめぐる問題は、日本の科学技術研究が非常に危険な状態にあることを明らかにしたように思えます。

朝日新聞 2014年4月15日付オピニオン面掲載記事「STAP 逆風の科学界」〜ロバート・ゲラー教授インタビュー「『小保方さん問題』で終わりか」より)

と言っている。しかし、それは果たして「日本の」科学技術研究に限った問題なのか。

小保方晴子は、まだ博士号を取得する前、つまり一人前の科学者としての免許をとる前の早稲田大学大学院博士課程在学中に、2年間アメリカに留学し、ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授の教えを受けている。そして、小保方氏に博士号を授与したのは確かに早稲田大学だが、彼女の博士論文を審査したうちの一人が他ならぬバカンティである。

つまり、小保方晴子を一人前の研究者に育て上げることができなかったにもかかわらず、小保方氏に博士号を授与した件には、ハーバード大学そのものとは言わぬまでも、少なくともバカンティ教授及び彼の研究室に責任の一端があるのは確かだということだ。それなのになぜ、ゲラー教授は自信満々に「日本の科学技術研究が非常に危険な状態にある」などと言ってのけられるのか。てめえら自身の問題を棚に上げて何抜かしてやがる、と私は強い反感を抱いた。何が「日本では、そうした(註:ゲラー教授の恩師リチャード・ファインマンが教えたような)科学の基本姿勢を必ずしも十分に教えていない」だよ、アメリカだって同じじゃないかと思ったのである。しかし、世の中にはこのようなゲラー教授の傲慢な言説を、お説ごもっともと感心する人たちばかりしかいないようで、そのことに深く失望した。しかも、ゲラー教授について調べてみると、教授がしばしば大阪・読売テレビの「故・たかじんの極右番組」に出演しているらしいことを知って、なんだ、その程度の俗物なのかと呆れてしまったのである。

あと、失笑ものだったのが日本の、というか「小沢信者」が運営していると思われる「陰謀論」系ブログの醜態だ。

たとえば、下記ブログ記事に私は呆れ返った。

http://saigaijyouhou.com/blog-entry-2278.html(2014年4月15日)

STAP細胞の論文を巡って未だに騒動が続いていますが、2013年10月に理研STAP細胞の国際特許を出願していた事が判明しました。国際特許を出願するためには様々な調査で存在を確定させて無ければいけないので、この時点でSTAP細胞の存在が証明されている可能性が高いです。この特許出願を受けて、国際公開公報が「国際調査報告」という資料を発表しました。この国際調査報告には、「米国特許出願に記載されているからSTAP細胞は新規性に欠ける」と書いてあります。

つまり、STAP細胞と類似する技術が前に認可されていたということなのです!これは東北大学教授の出澤真理教授が発見した「ミューズ細胞」と呼ばれている物で、皮膚細胞からIPS細胞のような万能細胞を作り出す技術となっています。細胞にストレスを加える事で万能細胞へと変える点は、ミューズ細胞もSTAP細胞と同じです。

正確には細かい点でSTAP細胞とミューズ細胞には違いがあるのですが、基本的な流れや仕組みは似通っています。ですので、ミューズ細胞が認められているということは、STAP細胞のような細胞は実在しているということになるのです!
現にミューズ細胞は特許として認可されています。だからこそ、小保方氏さんについては色々と言われていますが、STAP細胞のような細胞が実在するのは事実だと言えます。

(後略)

「ミューズ細胞が特許として認可されている」(2013年に日本特許が成立した)のは事実だが、「国際特許を出願するためには様々な調査で存在を確定させて無ければいけない」というのは大嘘である。世の中の特許出願はそんな大層なものではなく、きわめていい加減に出願されている。また、「ミューズ特許の認可」がなぜ、

☆【アメリカにSTAP利権をあげた理研小保方晴子さんバッシングはSTAP細胞特許と論文の強奪が目的

であるとして、「米にSTAP細胞の特許と論文が奪われる」(←の煽り文句がデカデカと書かれた画像にリンクを張られている)ことにつながるのか、その論理がさっぱり理解できない。仮に陰謀論を仕立て上げるにしたところで、普通は、ハーバード大の関連病院であるところのブリガム・アンド・ウィメンズ病院が筆頭出願人となり、チャールズ・バカンティが筆頭発明者になっている「STAP細胞」の特許出願は、日本の東北大学の研究者が出願した「Muse細胞」の特許のパクリだとかなんとか、そういう論理展開になってしかるべきではないかと思うのだが、彼らは決してそういう方向には持って行かない。

邪推だが、彼らは小沢一郎小保方晴子とを同一視しているのではないか。ともに「小(お)」で始まる姓であることも、彼らの琴線に触れるのかもしれない。悲劇のヒーローと悲劇のヒロインというわけである。「なんとかペンタゴン」がまたぞろ登場しそうだが、ここまで書いて思い出したので調べてみたところ、植草一秀STAP細胞不正を安倍政権が切込めない裏事情: 植草一秀の『知られざる真実』(2014年4月17日)と題したブログ記事に、「STAP細胞」を理研が大々的にブチ上げる直前の1月11日に、安倍晋三が神戸にある、理研の「発生・再生科学総合研究センター」(小保方晴子の勤務先)を訪問して、笹井芳樹野依良治山中伸弥の3人が見守る中、安倍晋三が顕微鏡を覗き込んでいる画像(神戸新聞のサイトに掲載されていたらしい)を載せ、

STAP細胞発表は安倍政権ぐるみの、いわば「やらせスクープ発表」だったのだ。

安倍政権は理研を「特定国立研究開発法人」に指定する方針をすでに定めており、こうした国費ばら撒きを正当化するうえで、STAP細胞ニュースを利用しようとしたわけである。

と書いている。相変わらず下らないことを実によく知っているものだと感心するが、当ダイアリーも繰り返し書いているように、「金になる研究」にばかり国家予算を傾斜配分する安倍政権の行き方が間違っていることは確かだし、植草お得意の陰謀論も、ことこの件に関しては「当たらずといえども遠からず」かもしれないとは思う。

最後は例によって脱線したが、今後もこの件に関するニュースには、何かとフラストレーションを溜めながら接していくことになるに違いない。

*1:蛇足ながら、私自身は博士号など持っていない。