理研CDB・笹井芳樹副センター長の自殺には、誰しもがショックを受けたに違いない。
笹井芳樹死す - Living, Loving, Thinking, Again(2014年8月5日)より
彼の死が事件の真相解明に大きなダメージを与えたことは否定できないだろう。〈死者に口なし〉をいいことに、真相解明を怠ったり、チープな陰謀理論を量産したりということは、あってはならないだろう。
その通りだと思う。笹井芳樹自殺の9日前のNHKスペシャルは、小保方晴子とともに笹井芳樹を厳しく指弾する内容だったが、研究不正を問う、ジャーナリズムとして当然の報道だった。
私は、2012年の「STAP細胞」米国仮出願の発明者に「笹井芳樹」の名前はなかった - kojitakenの日記(2014年4月13日)で、http://d.hatena.ne.jp/shamada/20140323(2014年3月23日)を参照しながら、
昨年(2013年)の「STAP細胞」国際特許出願には、優先権主張がされていたのだが、それは一昨年(2012年)に米国特許庁に提出された仮出願であり、その仮出願の発明者には「笹井芳樹」の名前は入っていなかった
と書いた。
NHKスペシャルはこの理由をクリアに説明していた。特許の取得は、国から予算を引っ張ってきたり、スポンサーの企業をつける上で効果が大きい。もともとその研究に自らは加わっていなかった笹井芳樹は、着想が本人によるものかどうかは別にして(本人による可能性が高いと思うが)、「STAP細胞」をネタに国の予算とスポンサーを引っ張ってくるために、「STAP細胞」の研究を指導することになり、STAP細胞の論文に大幅に手を入れて "Nature" の受理を引き出し、出願特許の発明者にも名を連ねた。そして小保方晴子の売り出しも手がけた。言ってみれば小保方晴子とはAKB48のようなもので、笹井芳樹は秋元康に相当する*1。そしてこの秋元康ならぬ笹井芳樹は、政治力も抜群だった。
昨夜(8/5)のテレビ朝日・報道ステーションは「再生医療」が安倍政権の「成長戦略」の目玉の一つだったことを伝えていた。従って、安倍政権の責任が厳しく問われるべきであることもまた当然だ。
普段は反感を持つことの方が多いくらいの山本一郎氏のこの件に関する論評は、いたって正当で納得できるものだ。
理研の笹井芳樹さん自殺と政治責任(山本一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース より
(前略)物事を客観的に判断し、然るべき対応を促す政治判断というのはとても重要だったと思うのです。確かに小保方晴子女史を引き上げた責任は笹井さんにあり、また微妙な捏造論文を科学誌に掲載させてしまうような後押しをしたにせよ、その事情を評価し事後処理を行う責任を持つのは紛うことなき行政と理研トップ、ひいては全体の方針を決定付ける文部科学省の大臣が責務を負っていたと思うわけです。
一口に研究組織のガバナンスの問題と言うのは簡単でしょうが、STAP細胞の再現実験に小保方女史を参加させるの、論文不正がどうだのといった、戦線が拡大してしまった理由と言うのも、人生を捧げている研究者の皆さんや、研究費を事実上負担している日本国民納税者が納得のいく厳正なる対処を進めることこそが唯一の解決方法だったのに、それを採らなかったことだと思うからです。留保つきでもいいから、いったん小保方晴子女史の研究者としての資格を停止する判断をしていれば笹井さんだけが責任を感じることなく死なずに済んだだろうに、という点で、原因究明や小保方処分に逡巡したすべての関係者に責任があるんだろうと考えるわけですね。
「小保方女史をうっかり処分すると、他の問題にも飛び火するかもしれない」という躊躇が、結局メディアの関心を呼び起こして関係者の自殺にまで結びついてしまうわけですね。誠に残念なことですし、一時期はノーベル賞候補を京都大学山中教授と争ったとまでされる俊英笹井さんの無念を考えると、もっと早く手を打っておけばと強く感じるわけですよ。もちろん、情愛交じりのメールを公衆の目に晒したNHKのドキュメンタリーも、その後痛い腹状態で出てきた経費の不正使用疑惑も、すべては「3月4月ごろに論文の取り下げを行い、関係者の処分を迅速に行っていれば、これ以上のダメージもなく問題を処理できていたであろう」という点で、やはり理研執行部や監督官庁である文科省と、何よりも下村博文文科相のリーダーシップが発揮されていれば回避できたことだろうなあと感じるわけであります。
下村文科相「小保方さんを活用して細胞の証明を」(産経新聞 14/6/17)
あくまで結果論ではありますが、いま思えば、この辺のすったもんだでいたずらに時間稼ぎをされてしまい、然るべき処分が遅れて問題の幕引きができなかったというのは大きいと思うわけですよ。
慎重にやった結果が、疑いが疑いを呼んで収拾がつかなくなるというスキャンダルのダメージコントロール問題は、今回のガバナンス不全の対応と併せていろんなものを浮き彫りにしたと思います。
これまた何度も書くが、どこかのブログが書くような「下村博文は『カルト極右』だから小保方晴子に入れ込んで助けているのだ」という推測はさすがに正しくなく、いったん決まった動き(惰性)を止めたくない(=余計な仕事はやりたくない)という官僚特有の行動原理で動く文科省の官僚の意を受けて、あのように動いた、つまり下村博文自身も事なかれ主義に走ったと私は推測する。さらにいえば、下村博文の上司である安倍晋三も、「私の内閣」の「成長戦略」とやらを止める気など毛頭なかったに違いない。
笹井芳樹自殺の報じられた日、こんなニュースが報じられた。
http://www.47news.jp/CN/201408/CN2014080501001955.html
自殺した笹井氏、3月に辞意 理研センター長へ申し出
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の竹市雅俊センター長は5日、センターで取材に応じ、自殺した笹井芳樹副センター長が「副センター長を辞めたい」と3月に竹市氏に申し出ていたことを明らかにした。
竹市氏は「STAP細胞の論文問題が調査中だったため(笹井氏は辞任を)思いとどまったが、本人は強い責任を感じていた」と説明。笹井氏について「一緒にセンターを築き上げてきた。彼なしではセンターはできなかった」と話した。
(共同通信 2014/08/05 18:26)
竹市雅俊もまた、惰性を止めたくなかった人間の1人だろう。
笹井芳樹は辞意を表明したあと、4月9日に小保方晴子があの「STAP細胞はありまぁす」の記者会見を行うと、その1週間後の4月16日、一転して朝日新聞の取材に答えて「STAPは有望で合理的な仮説と考える。(ES細胞の混入では)説明がつかない」とコメントしている。笹井芳樹は小保方晴子に宛てた遺書に、「あなたのせいではない」「STAP細胞を必ず再現してください」などと書いていたというが*2、小保方晴子とは笹井芳樹にとって、自らの命と引き替えにしても庇いたい存在であったらしい。しかし、「STAP細胞の有無」については、3月の理研CDBの副センター長辞意表明、それに何よりも今回の笹井芳樹の自殺が真実を雄弁に物語っていると思われる。その結論を先送りしてきた理研の責任は重い。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20140805-00000048-nnn-soci
STAP細胞論文の著者の一人で、神戸・理研の笹井芳樹副センター長が5日、理研に隣接する建物で死亡したことを受け、関係者がコメントを発表した。
理化学研究所・野依良治理事長「この度の訃報に接し驚愕しております。衷心よりお悔やみを申し上げます。世界の科学界にとってかけがえのない科学者を失ったことは痛惜の念に堪えません」
改革委員会の委員長として理研に改革を提言していた岸輝雄・東京大学名誉教授は、「理化学研究所の責任は大きい」と指摘している。
岸輝雄・東京大学名誉教授「『理研の中で笹井さんが他に移るように』と我々(改革委員会)は提言したんですが、もし笹井さんがその延長で責任を取って理研も辞めたりしていれば、事情は随分変わっていたかなという気はしています」
岸輝雄・東京大学名誉教授「(Q理研にとどまって)責任を負い続けたゆえの悲劇であった可能性も?)そうなんですね。理研のここに対する責任は非常に大きなものがあるという感じ方をしております。(STAP問題の)ある種の幕引きを笹井先生が先導してしまったかなと」
(日本テレビ系(NNN) 8月5日(火)18時50分配信)
今朝(8/6)の神戸新聞より。
http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201408/0007210514.shtml
STAP細胞問題、再調査難航は必至 笹井氏自殺で
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市中央区)の笹井芳樹副センター長(52)が5日自殺したことで、多くの疑問点が指摘されている一連のSTAP細胞問題は、全容解明が困難な見通しとなった。理研は論文の再調査を進めているが、笹井氏が鍵を握っていただけに調査の難航は必至だ。小保方(おぼかた)晴子研究ユニットリーダーが取り組むSTAP細胞の検証実験にも支障が生じる可能性がある。
笹井氏は2本のSTAP論文の執筆に指導的な役割を果たし、補完的な「レター論文」では小保方氏らと共に責任著者も務めた。3月末の主論文の不正認定以降にレター論文で指摘された新たな誤りについて、理研はしばらく新たな調査を拒否し、6月末になって予備調査を開始。調査に消極的だったのは、笹井氏が責任著者を務めていたためとの指摘もある。
再調査に伴い、小保方氏や笹井氏らに対する懲戒委員会の審査は中断。5日、文部科学省で開かれた記者会見では、「処分の先延ばしが一因ではないか」と、解決への道を長引かせたことが笹井氏を追い詰めたとの見方に対し、理研の加賀屋悟広報室長は「そういう一面もある。しっかり受け止め対応したい」と無念さをにじませた。
理研では共著者らがSTAP細胞の有無を調べる検証実験を続けているが、順調ではないとみられる。間もなく中間報告をする予定だが、加賀屋氏は「実験の内容について笹井氏には報告していなかったはずだ」とし、理研再生研で取材に応じた竹市雅俊センター長も「笹井氏は実験に参加しておらず、影響は基本的にないと思う」と説明した。
しかし、これとは別に小保方氏が参加している検証実験があり、笹井氏の自殺に小保方氏は「非常にショックを受けていると聞いている」(加賀屋氏)という。理研再生研の職員2人を付き添わせ、今後は家族の協力も仰ぐ必要があるとするなど、影響は相当大きそうだ。
笹井氏の研究室に所属する研究員については、加賀屋氏は「別の研究室に移ってもらったり、誰かがグループディレクターを兼務したりするなどして、しっかりサポートしたい」と述べた。
(神戸新聞 2014/8/6 07:00)