kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

白血病の話、文章は穴だらけで不正確な記述もあったが、主旨は正しい

12月5日に公開し、『きまぐれな日々』としては久々に多くのアクセス数を得た記事 きまぐれな日々 東電原発事故や白血病を「娯楽」として消費する人々の醜態 は、頭から湯気を立てて怒り狂いながら書いた文章である。

5年以上ブログを書いてきた経験上、そういうエントリにはある程度以上のアクセスがあり、しかも非難を浴びることが多いことを知っていた。特に、「はてなブックマーク」が多くつく記事は、ネガコメが圧倒的に多くなるのが通例だった。

特にこの記事は論敵を挑発して書いたつもりだったので、思いっきりバッシングを受けるだろうと思っていた。ところが、当該記事のコメント欄にいただいたコメントに反論は少なく、

『東電原発事故や白血病を「娯楽」として消費する人々』とは、言い過ぎではないでしょうか。

と書かれた最初のコメント*1を除くと、id:meditation2011さんからいただいたもの*2が、最初の批判らしい批判のコメントだった。

これには正直言って拍子抜けした。どういうことなのだろうと思っていたが、偶然、菊池誠氏のTwitterに下記のような記述を見つけた。


http://twitter.com/#!/kikumaco/status/144191567471710208

白血病放射線の影響ではないと書いた人が非難されているらしいので


これをたどってみると上記『きまぐれな日々』の記事のことだとわかった。そこで、まず「はてブ」を見に行ったが、意外なほどネガコメの比率が低かった。次いでTwitterを見たが、こちらもネガティブな引用は思ったほど多くなかった。しかし、いろいろ調べてみて、菊池誠氏が言っていた意味がやっとわかった。それは、牧野淳一郎という学者による批判だった。


http://jun-makino.sakura.ne.jp/Journal/journal-2011-12.html#6

  • 引用:誤解を与えやすいのは、「急性白血病」という病名である。名前こそ「急性」となっているが、決して「急に」発祥*3する病気ではない。
  • 引用: 「血液のガン」と言われる急性白血病は、その大半の症例において、病気に罹患していることがわかった時点で、最初に骨髄で異常が発生した時点から年単位(2年以上)の時間が経過しているのである。
  • 引用:つまり、「急性白血病」は「早期」に発見されることは現実的にほとんど考えられない(自覚症状もないのに非常な苦痛を伴う骨髄検査がなされれば早期発見もあり得るが、現実的な想定ではない)。
  • 引用: だから、上記のようなネットで広まるうわさ話は「根も葉もないデマ」と断定して100%間違いない。
  • 大半→ほとんど→100%と一文毎に表現が進化していくのがすごい。
  • 「大半」が99.9% 以上とかそういうのなら100% でなくて「99.9%」間違いないといえなくもないが、大半ってどれくらい大半なんだろうね?


ああ、そんなふうに学術論文式に採点されたらあのブログ記事はもちろん0点だ。

問題はもちろん私にある。私が犯した最大の誤りは、最初に「その大半の症例において」などと控えめに書いてしまったことだ。

当該ブログ記事にも書いたように、骨髄検査とは大の男でもあまりの激痛に悲鳴を上げるといわれている検査だが、それにもかかわらずその検出感度はさほど高くない。白血病細胞の数が10の12乗個以上程度になって初めて「白血病」と診断されるが、化学療法によって10の10乗個未満になると「完全寛解」と診断される*4。この状態では骨髄検査では白血病細胞の数が少な過ぎて形態の異常が検出できないが、『NATROMの日記』が書いたダブリングタイム4日の例でいうと、1個の白血病細胞ができてから10の10乗個に至るまでの日数が100日を超えている。つまり、病気が100日以上も潜伏していても診断されないのに、そこからわずか20日弱で白血病の発症に至ってしまうのである。従って、いわゆる「急性骨髄性白血病」の患者は、診断が下された時には100パーセント、普通のガンでいう末期の患者なのである。

つまり、「その大半の症例において」とか「ほとんど」というのはあまりに遠慮し過ぎた表現であって、正しくは最初から「100%」の記述で統一すべきだった*5。それをつい遠慮した書き方にしてしまったのは、白血病にかかった患者さんやそのご家族、ご友人たちの目に記事が触れた時にショックを受けはしないかと考えてしまって、ついつい筆が(正確にはキーボードを打つ指が)鈍ってしまったからだ。実際には化学療法や骨髄移植などで社会復帰される患者さんは多数いるのだけど。

私が言いたいことは、文章の表現については私に非はあるけれども、記事の主張は全く変わらないということだ。『NATROMの日記』に書かれているダブリングタイムの見積もりは非常に単純であり、2の40乗が10の12乗(=1兆)にほぼ等しいと言っているだけだ。実際には、白血病細胞の数が十分少なければ、人体の持つ免疫力によって白血病細胞は殺されるから、潜伏期間の初期においては進行はもっとゆるやかだ。そうでなければ「トータル・セル・キル」という白血病の化学療法には効果がなく、抗がん剤の投与を止めれば白血病は必ず再発することになってしまう。しかし現実にはそうではなく、過去に白血病にかかったことがあっても、治療を経て何十年も元気で生活している人たちが多数いることは周知である。白血病に限らず、人体においてはいつでもガン細胞ができては殺されることが繰り返されている。

科学者のとるべき態度は、最初に話題になった東電の職員のように、1〜2週間でそれまで白血病細胞を持っていなかった人が東電原発事故に起因する放射線のせいで白血病に罹患して亡くなったと仮定したら、そのダブリングタイムはいったいどのくらいだったかを考えることではないだろうか。数時間で白血病細胞の体積が2倍になるような白血病があれば、そんなことも起き得るのかもしれないが、そこまでたちの悪い白血病の話を私は聞いたことがない。


以上は医学の素人が書いた話に過ぎないが、下記のようなTwitterもある。


http://twitter.com/#!/thryk/status/144074627189186561

リンク先、表現にはトゲがあるけれど、内容はなるほどと思う。 RT @DrTerraKhan 端くれでも白血病治療の一担い手として、これらの愚行は絶対許さない。きまぐれな日々 東電原発事故や白血病を「娯楽」として消費する人々の醜態 http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1230.html

*1:http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1230.html#comment13202

*2:http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1230.html#comment13244

*3:もちろん「発症」の誤りだが、私が書いた記事中にあったtypoがコピペされたものであり、これを読んで気づいたのでこっそり訂正しておいた。

*4:この段階で治療を止めてしまったら白血病はほぼ100%再発するので、苛酷な化学療法がさらに続けられる。

*5:例外の事象が起きる確率は、もちろん「数学的ゼロ」ではないが、「物理学的ゼロ」とまでは言わないまでも、それに近いくらい可能性は低い。