kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「連用制」に言いがかりをつける産経の「トンデモ」記事に呆れる

もう2週間前の記事だが、あるきっかけで選挙制度に関して産経新聞が「トンデモ」記事を書いていることを知った。


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120131/stt12013123330012-n1.htm

数々の矛盾点 比例1議席あたり得票数、格差は「最大42倍」 比例80減+連用制 産経新聞試算
2012.1.31 23:30


 衆院の「一票の格差」是正に向けた選挙制度改革で、中小政党に優先的に議席配分する小選挙区比例代表連用制の導入が現実味を増している。だが、選挙区で議席を得た政党の比例票が極端に圧縮され、公明、共産両党などが「漁夫の利」を得るなど比例代表選挙での「投票価値の平等性」を著しく損なう制度だといえる。連用制を詳しく分析すると他にも数々の矛盾点が見つかった。(小田博士)

 産経新聞では、平成21年衆院選の結果に基づき、比例代表全国11ブロックの各党の得票数を合算し、獲得議席数で単純に割り、各党の「比例1議席あたりの得票数」を試算した。

 民主党比例代表で計2984万票を獲得し、現行の小選挙区比例代表並立制度で計87議席を得た。1議席あたりで34万票となる。

 ところが、比例定数を80減らし、連用制を導入した場合はわずか3議席となり、1議席あたり得票数は995万票に激増した。

 これに対し、現行制度で21議席だった公明党は比例だけで34議席を獲得。1議席あたり得票数は23万7千票で民主党との格差は42倍。現行制度で9議席共産党も18議席に倍増する。

 比例定数を180のまま連用制を導入しても民主党の比例議席は11議席のみ。公明党は49議席共産党も29議席と激増する。

   × × ×

 全国11ブロックごとの各党の獲得議席を分析するとさらにおかしな結果が浮き彫りとなる。

 比例定数80減で連用制を導入した場合の試算では、民主党議席を得たのは中国、四国の2ブロックのみ。ほかの9ブロックで民主党に投じられた計2716万票は比例代表得票総数の4割に相当するが、まったく議席に反映されないことになる。

 第2党の自民党も、中国と四国の2ブロックで議席配分がなく計210万票が事実上「死に票」となる。

 このため連用制では、有権者が、選挙区で議席を獲得できる政党への比例での投票を回避する傾向が表れる公算が大きい。

   × × ×

 九州ブロックでは、中小政党間でも投票価値の不平等を生む結果が出た。

 九州ブロックは比例定数を80削減すると定数は21から12に減り、民主党は0議席自民党は1議席のみ。ところが得票率15・2%(122万票)の公明党は7議席、得票率5・3%(42万票)の共産党も2議席を得る。

 社民党村山富市元首相の地元・大分などで強い基盤を持つこともあり、48万票を得たが、ブロック内の選挙区で2議席を得たことにより比例は1議席のみ。連用制下では、中小政党が選挙区に候補を擁立する意味が薄れることが裏付けられたといえる。

 また、「新党大地・真民主」など地域性の強い政党に不利な制度でもある。何よりも「一票の格差」是正の根拠となる「法の下の平等」(憲法14条)を侵しかねない。


開いた口が塞がらなかった。この記事についた「はてなブックマーク*1より(時系列順)。

bogus-simotukare 公明と共産の議席が増えるからいやだってただの党利党略を堂々と記事に書くなよ。 2012/02/01
kyo_ju 政治, 選挙, これはひどい 小選挙区比例区の合算で得票率比例に近付ける制度だというのを無視して言われましても。/合算するなら1票制にするのが筋とか、小政党間で有利不利が生じないよう比例は全国1ブロックにすべきとかいうなら解るが。 2012/02/02
hokusyu 政治, これはひどい 「一票の格差」は特定の選挙制度においてのみ問題となるということなんてちょっと考えればわかることなのに、こういうのがまかり通るのは「一票の格差」って言っていれば選挙について考えたことになる風潮のせい。 2012/02/02
quix_que これはひどい 共産党議席を取るのがそんなに許せないのか、というのが非常にわかりやすいです。得票率と議席占有率が限りなくイコールに近づくのが正しい選挙制度だと思っていたけど、産経にとっては違うようだ。 2012/02/02
ktakaki これはひどい, 選挙 この主張は明らかに少数政党に議席を取らせたくないという下心見え見えで見苦しい。いちいちこんなことを恣意的に主張するのは見苦しい。 2012/02/02
coleo 政治 連用制は、小選挙区もふくめた全議席を、比例代表の得票数に応じて配分する場合と結果はほぼ等しいのでその限りで民意に近い。産経は、(連用制での)「比例の1票の重み」という視点を誇張しているにすぎない。 2012/02/02
Shin-JPN シンプルに全国1ブロックの比例代表が素直とは思うが、連用制は現行制度に比べれば選挙区格差を縮小して、より民意を反映する方向。それが民意であっても公明党共産党が伸びるのは気にくわないという結論ありき。 2012/02/02
kechack これは無理矢理な批判だと思う。裁判所も比例1議席当りのという切り口での平等を担保するような判断はしにでしょう。連用性にもそれなりに問題点はあるが、制度より少数政党が乱立するのがいいのかという結果の問題 2012/02/03
flagburner Politics, これはひどい 連用制導入で公明党JCPの獲得議席数が増えるって言い張りたいだけかと小一時間ほど(略) / むしろ、3K新聞的には連用制導入でDPJの獲得議席数が減るからいいんじゃね〜の?(毒 2012/02/03


上に見るように、「はてブ」にコメントをつけた方々は、産経の主張の荒唐無稽さを十分理解されている。しかし、世間一般はそうではない。

この産経の記事は、Yahoo! Japanに、「選挙制度改革 連用制 ここがおかしい!! 本紙試算」というタイトルで掲載されたらしいのだが、これを検索語にしてググると、産経の記事にコロッと騙されている人が実に多いことがわかる。その中には、民主党寄りの「保守リベラル」的なスタンスをとっていてその点では私と意見が合わないものの、日頃から敬意を払っているブログも含まれるから頭が痛い。

ここで、極端な例を考えて産経の論理のおかしさを説明してみる。
政党はL党とD党しかないとする。300ある選挙区はそのすべてで両党の支持率は2:1でL党の方が多く、有権者の投票行動は、小選挙区比例区も自らの支持政党とその公認候補に投票する。以上のように仮定すると、小選挙区制での選挙結果はL党300議席、D党0議席となる。これを、全体の議席数が2:1になるように180ある比例区議席を割り振ると、最終的にL党320議席、D党160議席になるから、比例区議席数はL党20議席、D党160議席となる。

以上に産経の屁理屈を当てはめると、L党の得票率はD党の2倍なのに、比例区議席数はD党がL党の8倍だ、これでは「一票の格差」が16倍になり、D党に異様に有利だ。産経はこう言っていることになる。要するに、小選挙区で第一党が大部分の議席(上記の例だと全議席)をかっぱらってしまう不公平を是正するための補正分である比例区議席配分に理不尽な言いがかりをつけているだけである。

この「連用制」は公明党が熱心に推進しており、最近は民主党がこれに理解を示す一方、自民党が猛反発している。これは、現行制度のまま今選挙をやると、民主党より支持率の高い自民党が圧倒的に多数の議席を獲得すると見られていることと関係する。一方、連用制にすれば少数政党、特に公明党共産党議席数が増える。公明党によって自民党の「右寄り」の政策がブレーキをかけられるのではないかとして以前から公明党を嫌っている産経が、「連用制」の実現を阻むためにこんなことを言い出しているのである。

小沢一郎はこの「連用制」に反対らしいが、小沢の理想はもともと「単純小選挙区制」なのだ。だから原理主義的に反対しているだけであり、現行制度のまま次回の選挙を行なえば、民主党は壊滅的な惨敗を喫することは絶対に間違いない。現状は、「連用制」にした方がまだしも民主党議席減に歯止めをかけられるくらいだ。民主党はそこまで追い詰められている。

なお、自自公連立政権時代の当時の与党内での小沢一郎公明党の駆け引きについては、下記を参照されたい。森喜朗の発言の引用である。


たむたむの自民党:森 喜朗元総理 約束した「中選挙区制の復活」(語る 第4回) - livedoor Blog(ブログ)

 平成12年の自自公連立の時代、僕が幹事長だったのですが、500あった衆院の定数を、比例代表を20削減することで480にしました。なぜ、480になったかというと、当時、自由党党首だった小沢一郎さんから連立の条件として、比例をやめて単純小選挙区制にしてくれという要請があったのです。
 しかし、その案を公明党がのめるはずがありません。それで、妥協案として480になったのです。

 しかし、その条件を公明党が受け入れるにあたり、実は一つ条件が出された。それは、中選挙区制の復活です。それを認めるなら賛成するということで、3党の間で了解ができていたのです。それで比例代表を20減らしたんです。その約束がいまだ果たされず、そのままになっています。


産経新聞小沢一郎に騙されてはなるまい。