kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

繰り返すが、差別の不可視化こそ差別を助長するのだ

週刊朝日出版が橋下徹に謝罪した。


http://www.asahi.com/national/update/1018/OSK201210180160.html

朝日新聞出版が「おわび」 週刊朝日の橋下市長連載で


 朝日新聞出版は18日、同社が発行した「週刊朝日」10月26日号に掲載された橋下徹大阪市長に関する連載記事「ハシシタ 奴の本性」について、河畠大四・週刊朝日編集長によるおわびのコメントを発表した。コメントの全文は以下の通り。

 記事中で、同和地区を特定するような表現など、不適切な記述が複数ありました。橋下徹大阪市長をはじめ、多くのみなさまにご不快な思いをさせ、ご迷惑をおかけしたことを深くおわびします。私どもは差別を是認したり、助長したりする意図は毛頭ありませんが、不適切な記述をしたことについて、深刻に受け止めています。弊誌の次号で「おわび」を掲載いたします。

朝日新聞デジタル 2012年10月18日22時11分)


実を言うと、「ハシシタ 奴の正体」の連載が、朝日新聞出版が出している『週刊朝日』に載ったのを目撃した時、こういう事態になるのではないかという思いが一瞬脳裏をかすめた。いやいや、連載を始めたからにはそれなりの覚悟があるのだろうと思い直したが、甘かった。

私が実際に記事を読んで、記事に部落差別を助長する意図は全く感じなかった。佐野眞一自身、自ら選んでヤクザな世界に身を置いた経歴を持つフリーランスのノンフィクション作家であり、沖縄のヤクザ(つまり、自ら選び取って極道の道を選択した人間)にまで熱く思い入れする人間だから、自ら選び取ることのできない被差別部落の人たちを差別しようなどと考えるはずもないのである。世の大勢は「佐野眞一批判、週刊朝日批判」であり、「佐野眞一も堕ちたものだ」「佐野眞一の凋落が激しい」などとしたり顔で語る人間もいるが、おそらく佐野眞一の本をろくに読んだことがない人だろう。佐野は、中内功の評伝『カリスマ』を初めとして多くの作品で同じタブーに抵触する文章を書いている。週刊朝日の新連載は、いつもの「佐野節」以外のなにものでもないのである。


本件に関して、被差別部落出身のノンフィクションライター・上原善広が書いたブログ記事の中で、特に強く共感した部分を以下に引用する。

http://u-yosihiro.at.webry.info/201210/article_8.html

まず佐野氏の連載の趣旨は、「橋下氏の出自を徹底して暴くことで、そのDNAを解明する」云々といったものです。それに対して橋下氏のツイッターでの反論の概要は以下のようになっています。

  1. 政策批判もしないで出自を暴くことは部落差別につながる
  2. この連載は血脈主義そのもので、ヒトラーなみだ

まあ、あとの細かい点は面倒なので橋下氏のツイッターを読んでいただくとして、こうした動きについてのぼくの考えを書き込んでおきますね。

まず佐野氏の連載は、えげつないことは確かですが、いまもっとも話題の政治家・橋下氏の記事としては許される範囲でしょう。心配される路地(同和)への偏見については、しっかりフォローすることも大事ですので、今後の佐野氏の書き方次第だと思います。しかし、こうして一般地区出身の作家が、路地について書くことは、とても重要な意味をもつ画期的なことです。

まず差別的にしろ、なんにしろ、ぼくは路地について書かれるのは全て良いことだと思っています。それがもし差別を助長させたとしても、やはり糾弾などで萎縮し、無意識化にもぐった差別意識をあぶりだすことにもなるからです。膿み出しみたいなものですね。それで表面に出たものを、批判していけば良いのです。大事なのは、影で噂されることではなく、表立って議論されることにあります。そうして初めて、同和問題というのは解決に向かいます。解放教育のときも、共産党からは「差別を助長する」と批判されましたが、だからといって隠してばかりは良くないということです。


リンク先はたいへん良い記事なので、是非全文をお読みいただきたいと思う。

上原氏は共産党から批判を受けたと書いているが、私が今回の橋下の反応から思い出したのは70年代の部落解放同盟だった。あの頃の過激な解同のやり方は、部落差別を助長しただけだと私は考えている。今回の橋下の対応もそれと同じだ。

私は、橋下は自らが受けた差別に対して復讐したいだけであって、「差別」自身はむしろ温存したいのではないかとさえ私は疑っている。

繰り返すが、差別の不可視化こそ差別を助長するのだ。


[追記](2012.10.20 11:56)
本文に赤字部分を追記しました。最初の文章が、「暴力団には被差別部落出身者が多い」という誤読をされてしまったためです。これは、私の文章の表現が克くありませんでした。従って、真意が伝わるように追記をしました。