イチロー(鈴木一朗)は野球選手としては偉大だが、政治経済を語らせたら、かつて「社会党政権ができたらプロ野球ができなくなる」と言ったという長嶋茂雄同様のダメダメのようだ*1。
なんでも、2月に日経新聞のインタビューで安倍晋三にエールを送っていたらしい。日経の記事*2は書き出しの部分しか読めないが、ネットに流布するインタビューの内容*3は下記。全文ではなく、途中の部分のようだ。
「米国に行ってから、日本語の深さや美しさを自分なりに感じるようになり、
日本語をきれいに話したいと思い始めた。
日本語でも自分の感覚や思いを伝えることは困難だと感じている。
それが外国語となれば、不可能に等しい。英語で苦労する以前に、僕は日本語で苦労している」
野球以外でも、経済や日本企業の動向などにも高い関心を持っている。
「日本の製品は安心感が抜群。
外国メーカーの技術も、実は日本人が開発していることが多いのでは、と想像している。
技術が外に出ていく状況をつくってしまった国や企業に対して、それはいかがなものか、とは思う。
いま、安倍(晋三首相)さんのこと、めちゃくちゃ応援しているんです。頑張ってほしいです」
「初めて株を買ったのが、中学生の時。それで、中学のころから株価分析の本を読んでいた。
任天堂の簡単な株のゲームなんかも好きだった。
今もホテルでリクエストしているのは、日経新聞。
応援したい企業の現物株を買って、ちょっとだけ配当をもらうというスタンスだ」
2ちゃんねらーは「イチローは右翼」(ポジションがライト=右翼手=であることをもじっている)などと大喜びしているが、右翼というより新自由主義者というか、日経新聞にリップサービスするビジネスマンの観がある。そのあたりが、古い右翼のイメージのある星野仙一、長嶋茂雄、野村克也らとは印象を異にする。
ところでイチローは「技術が外に出ていく状況をつくってしまった国や企業に対して、それはいかがなものか、とは思う」と言っているが、それを言うなら90年代の自民党が推進して日経新聞が後援した政策に対する批判が欠かせないはずだ。
日本の新自由主義政策を小泉純一郎や竹中平蔵らのみの罪に帰する論調がよく見られるが、これはもちろん誤りであって、少なくとも中曽根康弘の時代に遡れるし、90年代にそれをさらに推進したもう一人のイチロー(小沢一郎)の罪も重い。「技術が外に出ていく状況をつくってしまった」状況については、企業経営があまりに利益重視に傾いて、不採算事業をすぐに切り捨てる体質に変わったことと関係があるのではないかと私は思っているが、その源をたどれば、「企業は株主のためにある」という思想に行き着くのではないか。そういう風潮を煽って、たとえば村上世彰が台頭するやすぐさま彼を絶賛した日経新聞の罪は重い。あと、日経新聞とは関係ないが、日経連(現在は経団連に併合)の「新時代の日本的経営」(1995年)なる妄論の悪影響にも触れておく。
企業の技術流出で私が思い出すのは、確か2000〜01年にかけてITバブルが崩壊した頃だったと記憶するが、ソニーなど日本の大企業の技術者が韓国の三星(サムスン)電子などに流出したことだ。これも90年代に顕著になった企業経営のあり方の変化を措いて論じることはできないと私は考えている。
また、技術立国日本の没落を象徴するのが特許出願件数の推移だろう。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2012/honpen/1-2.pdf
上記pdfファイルの最初の頁(45頁と付番されている)にグラフが出ている。これを見ると、2000年をピークに内国人による特許出願件数が減っていて下げ止まっていないのだが、2000年といえばITバブルがピークを迎えるとともにこれが弾けた年だ。
さらに2005年を境にして出願の減少傾向が強まっているが、グラフの吹き出しに「特許戦略計画」と書かれている。2005年は、あの「郵政総選挙」で小泉自民党が大勝した年だが、この年に特許庁(経産省の外局)特許出願抑制政策をとることを決めたのである。この政策にどの程度小泉政権の意図が反映されていたかは知らないが、2005年の36万8千件から2011年には28万8千件にまで減っている。他の先進国には類を見ない惨状といえる。一方、近年急激に出願件数を増やしているのは中国である。
実は、「鍋パーティー」(再分配を重視する市民の会)で、リーヌス・トーバルズのLinuxを引き合いに出して、特許制度など止めてしまってはどうかという意見が出たのだが、私はこれに反対した。ソフトウェアの開発は、設備産業のような大がかりな設備を必要としないし、デファクトスタンダードであるマイクロソフトのお粗末なOSが市場を支配しているから、Linuxのようなオープンソースソフトウェアの意義は高いと思うが、それを工業全体に当てはめてしまうと、特許のタガがなければそれこそ規模の大きいサムスン電子などの天下になってしまい、日本企業は全く太刀打ちできなくなる。日本の優秀な技術者は皆韓国の財閥メーカーか、さもなくば中国で働くしかなくなってしまうだろう。そう直感したから上記の意見に強く反対し、特許制度の意義を強調したのだった。中村修二が青色LEDを開発した徳島の日亜化学工業が今日あるのも、青色LEDの特許のおかげだろう。なお、この件をめぐる中村修二と日亜化学の訴訟における中村修二の要求は過大であり、成立した和解における程度の中村氏の取り分がほぼ最適なのではないかと私は思っている。もちろん、当初の日亜化学の主張もひどかったとは思うが。余談だが、中村修二は例の「一人一票国民会議」の発起人・賛同者に名を連ねている*4。
イチローと日経新聞、安倍晋三に話を戻すと、「技術が外に出ていく状況をつくってしまった国や企業に対して、それはいかがなものか、とは思う」のなら日経新聞など読まない方が良いし*5、一国一制度が原則の特許制度*6をTPPでアメリカに蹂躙されかねない無能な安倍晋三を応援するなどもってのほかと言うほかないだろう。
もっとも、野球選手の政治経済に関する発言にケチをつけるのも野暮な話かもしれないが。
*1:野村克也や星野仙一も同様である。総じて、野球選手はスポーツ選手の中でも特に右翼的傾向が強い。
*2:http://www.nikkei.com/article/DGXNZO51622410S3A210C1UUT000/
*3:http://military38.com/archives/23476964.html
*4:http://www.ippyo.org/hokkinin.html
*5:もちろん朝日や産経(笑)などが良いなどとは口が裂けても言わないが、NYTでも読んでた方が良いんじゃないか?