kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「そんたく」によって広がるファシズム(毎日新聞・辺見庸インタビューより)

http://mainichi.jp/feature/news/20130509dde012040020000c.html より。

特集ワイド:息苦しさ漂う社会の「空気」 辺見庸さんに聞く


 ◇今の日本は自己規制、ファシズムの国

 高い支持率を誇る安倍晋三政権。膨らむ経済再生への期待。なのに、この息苦しさは何だろう。浮足立つ政治家や財界人の言葉が深慮に欠け粗くなる傍ら、彼らへの批判を自主規制しようとする奇妙な「空気」が漂っていないか。何が起きているのか。作家の辺見庸さん(68)に聞いた。【藤原章生


 「イタリアの作家、ウンベルト・エーコファシズムについて『いかなる精髄も、単独の本質さえもない』と言っている。エーコ的に言えば、今の日本はファシズムの国だよ」。「ファシズム」とは大衆運動や個人の行動がコラージュのように積み重なったもの。独裁者の言葉に突き動かされるのではなく、そんたくや自己規制、自粛といった日本人の“得意”な振る舞いによって静かに広がっていくということだ。

 ファシズムと聞くと全体主義、ムソリーニ独裁やヒトラーナチスが浮かぶ。「そういう、銃剣持ってざくざく行進というんじゃない。ファシズムはむしろ普通の職場、ルーティンワーク(日々の作業)の中にある。誰に指示されたわけでもないのに、自分の考えのない人びとが、どこからか文句が来るのが嫌だと、個人の表現や動きをしばりにかかるんです」(後略)

毎日新聞 2013年05月09日 東京夕刊


上記はファシズムについて言い尽くされたことではあるが、「そんたく」という言葉に反応してしまった(笑)。

(前略)安倍首相は靖国問題で「国のために尊い命を落としたご英霊に対して尊崇の念を表するのは当たり前のこと」と言い、「どんな脅かしにも屈しない自由を確保していく」と中国や韓国に反論した。

 「英霊でいいのに、ご英霊と言う。一言増えてきた」と注意を向けたうえで、辺見さんはこう語る。「安倍首相の言葉や閣僚の参拝に対し、国会でやじさえ飛ばない。野党にその感性がない。末期症状です。新聞の論調も中国、韓国が騒ぐから行くべきでないと言うばかりで、靖国参拝とはなんぞや、中国が日本にどんな恐怖感を持っているかという根本の議論がない」

 この空気を支えるものは何か。キーワードとして辺見さんは、哲学者アガンベンが多用する「ホモ・サケル」を挙げた。「古代ローマの囚人で政治的、社会的権利をはぎ取られ、ただ生きているだけの『むき出しの生』という意味です。日本でもホモ・サケルに近い層、言わば人間以下として放置される人たちが増えている。80年代までは、そういう貧者が増えれば階級闘争が激しくなると思われていたけど、今は彼らがプロレタリアートとして組織化され立ち上がる予感は全くない。それどころか保守化してファシズムの担い手になっている。例えば橋下徹大阪市長に拍手をし、近隣諸国との軍拡競争を支持する層の多くは非受益者、貧困者なんです」

 政治を野放しにするとどうなるのか。「安倍首相は官房副長官時代、官邸に制服組をどんどん入れ、02年の早稲田大の講演で『現憲法下でも戦術核を持てる』と語った。その考えは今も変わらないと思う。今の政権の勢いだと、いずれ戦術核の議論までいくんじゃないですかね。マスコミの批判は出にくいしね」

 言語空間の息苦しさを打ち破れるかは「集合的なセンチメント(感情)に流されず、個人が直感、洞察力をどれだけ鍛えられるかにかかっている。集団としてどうこうではないと思うね」と辺見さん。まずは自分の周り、所属する組織の空気を疑えということか。(後略)

毎日新聞 2013年05月09日 東京夕刊


これもまあ辺見庸の言う通りだと思うが、安倍晋三や橋下の支持者は言うに及ばず、安倍や橋下を批判する立場に立っている人たちの間でも「そんたく」だとか「集合的なセンチメント(感情)に流され」ることは日常茶飯事である。A級戦犯容疑者として従来強く批判されてきた元首相を英雄視する史観を、安倍・橋下らを批判してきた人たちのイデオローグが打ち出すや否や、かつての新左翼たちが雪崩を打ってこのトンデモ妄論に「目からウロコが落ちた」と感激し、その中の少なくない者が改憲派へと転向したという事実がある。つまり、体制を批判する側も体制を翼賛する側と何ら変わらないセンチメントによって行動している。

そもそも彼らが信奉する首領様自体、革新政党議席を議会の3分の1以下にするために(つまり改憲を容易にするために)「政治改革」を言い出して小選挙区制を導入した人物である。「保守化してファシズムの担い手になっ」た「非受益者、貧困者」たちは、何も安倍晋三や橋下の支持者に限らない。宮沢喜一を最後とする保守本流の政権から、首領様が二度までもなしとげた「政権交代」を経て、橋下が熱狂的な支持を集めたのちに、やはり二度までも政権を握った安倍晋三改憲まっしぐらという流れは、あとから支持を得る者ほどより強く反動的であるという点で、元祖・ポピュリストとされるナポレオン3世がクーデターで第2帝政を始めるまでのフランスとよく似ているのではないかと思う今日この頃である。