kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

榎木英介『嘘と絶望の生命科学』を読む(予告編)

少し前に榎木英介『嘘と絶望の生命科学』(文春新書)を読んだ。


嘘と絶望の生命科学 (文春新書 986)

嘘と絶望の生命科学 (文春新書 986)


日記に書かなきゃなあと思っているうち、朝日新聞(9/14)の読書欄に取り上げられた。評者は佐倉統東京大学教授で、五島綾子著『<科学ブーム>の構造』(みすず書房)と一緒に取り上げられている。

以下、佐倉教授の書評の前半部分、つまり『嘘と絶望の生命科学』に言及した部分を引用する。

 ピペド。
 この耳慣れない言葉が、今の日本における生命科学の研究現場を象徴していると、榎木英介は言う。
 「ピペット奴隷」の省略形だ。大学院生や大学院を終えた後の研究員<ポスドク>たちが、朝から晩まで、黙々と実験道具のピペットを使って実験にいそしむその姿を、奴隷になぞらえた表現である。
 国からの多額の研究費を獲得することに血道を上げる教授。その下で成果を出すために奴隷のように使い捨てられていくピペド。生命科学は労働集約型の研究活動なので、手を動かせば動かしただけ、成果が出る。だからピペドたちは、朝から晩まで、酷使される。実験室には監視カメラが設置され、トイレに行くのも申告制。
 もちろん、こんな研究室ばかりではない。良心的に知的活動に邁進している教授も大勢いる。だが、今の日本の生命科学を取り巻く構造そのものが、産業化という名の金もうけのタネを見つける作業に堕していると、榎木は喝破する。
 捏造と剽窃と自殺で世の話題を呼んだSTAP細胞騒動は、この業界の闇の深さを垣間見せてくれた。だが、あれは決して例外ではない。鬼子かもしれないが、このような構造の産物のひとつに過ぎない。そして、製薬会社と大学医学部の癒着事件など、もっと根深い悪を体現している事例も存在する。

(2014年9月14日付朝日新聞読書面掲載・佐倉統氏(東京大学教授・科学技術社会論)の書評より)

私もこの本を読むまで「ピペド」という言葉を知らなかった。小保方晴子捏造事件には何度となく言及してきたが、2ちゃんねるの「生物板」を覗くまでにはのめり込んでいなかったからだ。そう、「ピペド」とは2ちゃん生物板発祥の言葉だ。

その語源は「ピペット奴隷」ではなく「ピペット土方」であって、少なくとも「ピペド」は2007年8月、「ピペット土方」は2006年2月に用いられていた例を確認できた。

私自身の言葉による書評は、今後(いつになるかわからないが)改めて書くことにするが、この本は多少なりとも「STAP細胞騒動」に関心のおありの方は必ず読むべき本だと思う。「世界が違うから」と敬遠している文系の方(特に政治や経済に関心をお持ちの方)や、理系であっても畑違いだからと同様に敬遠している方は必読である。

今は時間がないのでこれ以上書けない。