またぞろ自民党から武藤貴也なる新たな極右のスターが現れたらしい。何もなければ武藤について書くところだったが、朝日新聞(8/4)オピニオン面に掲載されたジョン・ダワーのインタビュー記事が胸のすく卓論だったので、今朝はこれを紹介したい。
記事の一番上、紙面の横幅いっぱいにとった見出しには「戦後70年 日本の誇るべき力」とある。さらに上段に「国民が守り育てた 反軍事の精神 それこそが独自性」、下段には「郷土思うゆえ 過去を反省し 不寛容と一線を」との見出しがついている。
以下、なんとかデジタルから無料・無登録でもアクセスできる記事の冒頭部分を引用する。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11897005.html
(戦後70年)日本の誇るべき力 戦後日本を研究する米国の歴史家、ジョン・ダワーさん
あの戦争が終わって70年、日本は立つべき場所を見失いかけているようにみえる。私たちは何を誇りにし、どのように過去を受け止めるべきなのか。国を愛するとは、どういうことなのか。名著「敗北を抱きしめて」で、敗戦直後の日本人の姿を活写した米国の歴史家の声に、耳をすませてみる。――戦後70年を振り返り…
(朝日新聞デジタル 2015年8月4日05時00分)
ダワー氏の写真についたキャプションには
とある。もちろん紙面も同じである。
記事の紹介に入る前に、ジョン・ダワーに関する思い出話を書くと、2008年10月に、当時住んでいた高松からわざわざ大阪まで聴きに行った辺見庸の講演会で紹介されたのがジョン・ダワーの名著『敗戦を抱きしめて』だった。
今ならこの日記に感想を書くところだが、当時は『きまぐれな日々』をメインに書いていたので、そちらに記録していた。その記事ではジョン・ダワーには言及していないが、下記に引用する。
きまぐれな日々 新自由主義のあとにくるもの - 国家社会主義を阻止せよ(2008年10月27日)より
(前略)
ところで土曜日(25日)、大阪まで辺見庸の講演会を聴きに行ってきた。辺見さんは、病を得て体が不自由な上、風邪を引いているとのことだったが、休憩を挟んで3時間、熱のこもった講演を聴くことができた。自宅に帰り着いた時には午前1時を回っていたが、大枚をはたいて大阪まで行った価値があったと思えた。会場にはNHKのカメラが回っていたし、11月末には毎日新聞社から辺見さんの書き下ろしの新刊が出版されるそうだ。
だから、講演会の内容を長々とブログで紹介したりはしないが、印象に残ったことの一つは、今後これまでの新自由主義に代わって、国家による統制をよしとする言論が支持されるようになり、それに伴って国家社会主義の変種ともいうべき者が、「革新づらをして」現れるだろうという辺見さんの予言だった。
当ブログも10月16日のエントリで世界大恐慌突入(1929年)の2年後、1931年の満州事変を引き合いに出して、「歴史に学べない民族」の汚名だけは着たくないと書いたが、辺見さんの講演でも、まさにその満州事変への言及があり、過去に学ぶしかない、自分たちの手で日本人の自画像を描くべきだと力説されていた。
ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)も、その正式名称が示す通り、出発点は社会主義だった。現在でも、反新自由主義が国家主義と結びつく傾向は一部に見られるし、「右も左もない」という言い方でそれにすり寄る「左」と思われている人たちもいる。これも辺見さんの指摘だが、戦前はナショナリズムの高揚とともに転向の時代がきた。同じ誤りを繰り返してはならない。
(後略)
「国家社会主義の変種ともいうべき者が、『革新づらをして』現れる」。佐藤優のことを言っているのだろうという論評が当時あったし、私もそうかも知れないと思った。しかしナショナリズムに依拠する「反体制派」ぶりっ子は何も佐藤優に限らないし、当時「『右』も『左』もない」と標榜して平沼赳夫や城内実を熱心に応援していた市井のブロガーなどもそれに数え入れられるだろう。
そして、2008年当時はまだ「リベラル」の間に名前を知られていなかったが後に台頭した孫崎享なども、特に経済政策について語っているわけではないけれども、戦前から統制経済を唱えていた岸信介に対する「リベラル」のネガティブな評価をひっくり返そうとしたことを考えれば、「『革新づらをした』国家社会主義者の変種」に数え入れて良かろう。
何が言いたいかというと、今朝朝日新聞に掲載されたジョン・ダワーのインタビュー記事は、その孫崎享、特にその迷著『戦後史の正体』に対する胸のすく反論になっているのである。
前振りを延々と書いているうちに時間切れが迫ってきたので、ジョン・ダワーのインタビューの中から、岸信介と安倍晋三について語った部分のみ抜き出して以下に引用する。
「過去を振り返れば、安倍晋三首相がよく引き合いに出す、祖父の岸信介首相が思い浮かびます。岸首相は確かに有能な政治家ではありましたが、従属的な日米関係を固定する土台を作った人だと私は考えています」
「同様に、孫の安倍首相が進める安全保障政策や憲法改正によって、日本が対米自立を高めることはないと私は思います。逆に、ますます日本は米国に従属するようになる。その意味で、安倍首相をナショナリストと呼ぶことには矛盾を感じます」
(朝日新聞 2015年8月4日付オピニオン面掲載 ジョン・ダワー氏インタビュー「日本の誇るべき力」より)
安倍晋三にはいざとなったら対中戦争を引き起こす恐れがあると私は考えているし、ジョン・ダワーはそれには言及していないが、平時においては安倍晋三が対米従属を続けるかそれを強めるであろうことは、安倍晋三自身がアメリカに盗聴されていたというウィキリークスの暴露に何ら安倍が反発を示さないことから明らかだろう。
それよりも何よりも、孫崎享が「アメリカと敢然と対峙した『自主独立派』の政治家」と賞揚した岸信介の像をジョン・ダワーが正しく描き直したことに溜飲を下げた。もちろんこれはインタビューの本論ではなくごく一部なのだが、この件を読んで、このインタビュー記事は孫崎享や孫崎に悪影響を受けたとおぼしき「小沢信者」たちに読ませてやりたいと強く思ったのである。
私が念頭に置いている人間の一人が、ブログ『反戦な家づくり』のブログ主である。彼は、かつて(2006年か07年頃だったと思うが)『きまぐれな日々』に辺見庸のことを教えてくれるコメントをくれたことがあるが、その後完全に道を踏み外してしまった。今では彼のブログで孫崎享の名前を目にすることはあっても辺見庸の名前を目にすることはない。
いい加減に目を覚ませよ、と言いたい今日この頃なのである。