kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

産経と毎日の世論調査バトルは完全に毎日に軍配が上がる

この日記でも二度にわたって取り上げた*1 *2、産経と毎日の世論調査をめぐるバトルに関して、その後も論争の当事者である毎日新聞に記事がいくつか出ているようだ。

http://mainichi.jp/shimen/news/20151012ddm004010068000c.html

安保関連法と世論調査:賛否で国論二分、内閣支持率と相関 菅原琢・東京大客員研究員の話


 ◇見識を深める契機に 菅原琢・東京大客員研究員(政治過程論、現代日本政治)

 安保法制やデモに関して特定の結論に誘導するような世論調査報道が散見された。世論は複雑であいまいなため、政策を肯定的に説明して質問するか、回答を賛否2択にするか、別の選択肢を加え3択にするかで意見分布は大きく変わりうる。一つの方法によって得たデータをもとに、世論の傾向を結論付ける報道は危うい。

 デモについての世論調査を巡って、産経新聞毎日新聞の論争があったことは、調査結果の読み解き方について見識を深める契機になるだろう。産経はデモ参加者には野党支持者が多く、「一般市民」主体のデモではないという。政権与党が進める安保法制に反対する以上、野党支持者が多いのは当然である。政党の支持者は「一般市民」ではないとの主張には読者も驚いたのではないか。

 産経は1000人中の3.4%、34人を分析している。このような少数からデモ参加者全体の実像に迫ることは統計学的に無理が生じる。デモ参加について質問する試みは評価できるが、世論調査の基本がおろそかでは有意義な分析はできない。

 一方、産経は適切な批判も行っている。毎日は7月の内閣支持率について「不支持率が逆転した」と報じたが、わずか1ポイント差だった。わかりやすい紙面づくりとの葛藤があることは理解できるが、誤差の範囲内の差や変動を強調することは各社とも慎まなければならない。

 世論調査は誰かをたたくためのものではなく、人々の意見を調べ、伝えるものである。この基本を各社とも忘れないでほしい。【聞き手・石戸諭】

毎日新聞 2015年10月12日 東京朝刊)


このインタビュー記事に関して、コメントした菅原琢氏は下記のようにつぶやいている。

https://twitter.com/sugawarataku/status/653640485420986368

SUGAWARA, Taku
@sugawarataku

こういう紙面で一般読者向けに書いているのでこのように書きましたが、毎日か産経かで言えば産経のほうが遥かに酷いです。再反論のデモ参加者の支持政党の「誤差」についての記述など、扱う能力のない人間が世論調査をぶん回していることが明らか。

北田暁大 @a_kitada
産経も毎日もどっちもどっち。とにかく標本サイズと誤差。視聴率2%増で一喜一憂するてれびまんの真似を大新聞社がしちゃいかんという話。/安保関連法と世論調査:賛否で国論二分、内閣支持率と相関 菅原琢・東京大客員研究員の話 http://mainichi.jp/shimen/news/20151012ddm004010068000c.html


11:36 - 2015年10月12日


専門家だから当然ではあるが、「社会科学」を僭称するどっかのゴロツキブログと違って、まっとうな意見である。北田暁大氏はうっかり(?)、菅原氏のインタビュー記事を「産経も毎日もどっちもどっち」とまとめてしまったが(その後の北田氏のつぶやきを参照すると、上記のつぶやきは勇み足のようなものだったと思われる)、毎日に載った菅原氏のインタビュー記事だけからでも、菅原氏が暗に「産経の方がはるかにひどい」と言っていると私は読み取った。

毎日にも「誤差の範囲内の差や変動を強調」した過誤は確かにあった。私も10月2日の記事に

この産経・酒井記者の長文の反論記事のうち、毎日の世論調査について「お前らかて似たようなことをやってるやないか」と指摘したくだりには一定の理がある。確かに内閣支持率42%と不支持率43%の1ポイントの差が有意な数字であるとは言えないとは、酒井氏の指摘する通りである。

と書いた。しかし、誤差の観念を持っているかどうかさえ疑わしい産経(酒井充記者)は論外であり、毎日とは比較にならない。

なお、産経の方が問題にならないくらいひどいことは、例の「社会科学」僭称ブログの運営者もわかっていただろうと思うが、おそらくイデオロギー的な理由によって産経をかばって毎日を貶めたかったのであろう。それで意図的に「どっちもどっち」と言わんばかりの書き方をしたのではないかと憶測した。あそこは、その程度の知的不誠実な行いは平気でやりかねないブログだというのが私が日頃から持っている印象というか偏見である。

産経が小数点以下第1位まで表記した件については、菅原氏は下記のようにつぶやく。

https://twitter.com/sugawarataku/status/653644088240046081

SUGAWARA, Taku
@sugawarataku

小数点以下の話は、社で異なる統一基準があるよねという話で、まあどうぞという気もするのだけど、第2位以下が全て切り捨てになっているのが気になる。小数第1位で四捨五入することを想定して、外注先がそういう資料を作っているようにも思えるのだけど、どうなのだろう。

11:51 - 2015年10月12日


これに関して、私は標本数1000(標本誤差3〜4%程度)ならともかく、産経の内訳調査のように標本数34とか41(標本誤差10%以上)で小数点以下第1位まで表記することには絶対反対だ。あたかも精密な調査であるかのような誤解を与える、一種の「誇大表示」だと考えるからである。実際、サンプリングされたデータでも、回答数が1つ違うと値が2.5ポイントから3ポイントも違ってくるのだから、小数点以下の数字に意味などあろうはずもない。

なお、産経が小数点第2位以下を全て切り捨てていることには私も気づいていた。蛇足になると思ってあえて指摘しなかったが、10月2日の記事に書いた、下記の計算をしていた時に気づいた。

つまり(産経は)有効回答数が1000に達するまで調査を行ったと解釈される。それで、「参加したと答えた推定人数わずか34人」と毎日の平田世論調査室長に指摘されているわけだ。

その34人のうち14人が「共産党支持」だと答えたとすると、14÷34は0.4117...になる。それを産経は「集会への参加経験者の41.1%は共産支持者」と書いた。

同様に、5/34=0.1470...、4/34=0.1176...、2/34=0.0588...である。つまり、34人のうち5人が社民党支持、4人が民主党支持、2人が生活の党と(以下略)の支持だったことになる。共産党を合わせた4党の支持者は「デモに参加した」34人のうち25人だったことになる。残る9人は他の政党の支持者あるいは「支持政党なし」、支持政党について無回答などの人たちということになる。

上記の部分では説明を端折っているが、産経は、

集会への参加経験者の41.1%は共産支持者で、14.7%が社民、11.7%が民主、5.8%が生活支持層で、参加者の73.5%が4党の支持層だった。

と書いていたのである*3。0.0588 (=2/34) を産経は「5.8%」と書くのかよ、と私は鼻で笑ったのだった。

ただ、産経が小さい数点第2位以下を切り捨てた理由として、私はそれが産経にとって「少しでも値を小さく見せたい」野党の政党支持率だからであって、これが与党の政党支持率だったなら四捨五入なり切り上げなりをしたんじゃないかと意地悪く勘繰った*4。だが、言われてみれば、

小数第1位で四捨五入することを想定して、外注先がそういう資料を作っているようにも思える

つまり、クライアントが小数点以下を丸めて整数で表記するための便宜を図っている可能性は確かにあるかもしれない。もっとも、34人とか41人のデモ参加者の支持政党のパーセンテージを算出したのが外注先の仕事ともあまり思われない。やはり生のデータをもとに産経の記者が計算した可能性がもっとも高いのではないかというのが私の憶測である。

さて、毎日新聞には、論争の当事者である平田崇浩世論調査室長が再び記事を書いている。

http://mainichi.jp/shimen/news/20151012ddm004010067000c.html

安保関連法と世論調査:賛否で国論二分、内閣支持率と相関


 先月成立した安全保障関連法を巡っては、新聞各紙が世論調査結果を積極的に報じてきた。同法に対する各紙の論調に違いはあったが、国会審議が進むにつれて反対世論が強まり、内閣支持率が下落する傾向は各紙に共通していた。一般的には、日々の生活に関わりの薄い外交・安全保障政策は政権への評価に連動しにくいと言われる。今回は賛否で国論が二分された結果、内閣支持率との相関関係が次第に強まっていった。各紙の世論調査がその過程を伝える役割を果たした。【世論調査室長・平田崇浩】

 ◇反対増え、支持低下

 安保法を今年の通常国会で成立させる方針に賛成34%→25%、反対54%→63%▽内閣支持率47%→35%、不支持率33%→51%。

 これは、毎日新聞が4月(18、19日)と7月(17、18日)に全国で実施した世論調査の数値の変動だ。この間、自民、公明の与党協議を経て安保法が通常国会に提出され、憲法学者らによる違憲の指摘もある中で衆院採決に至る。安保法への反発が内閣支持率を押し下げたことがうかがわれるが、調査結果の分析からその相関関係が読み取れた。

 安保法を成立させる方針に賛成と答えた層の内閣支持率は76%→86%、不支持率は12%→4%▽反対層の内閣支持率は26%→14%、不支持率は51%→74%。

 安保法の成立に賛成する人が減るにつれて、賛成層は安倍内閣支持で純化されていく。安保法への関心が高まる中で反対に転じる人が増え、それが反対層だけでなく、全体の内閣支持率を低下させた。

 ◇薄れ始めた関心

 参院での安保法成立を受けて9月19、20日に実施した調査では、政府・与党が安保法を通常国会で成立させたことを「評価する」が33%、「評価しない」が57%だった。内閣改造を受けて10月7、8日に実施した調査でも、安保法の制定を「評価する」31%、「評価しない」57%。大きな変化は見られなかった。だが、内閣支持率との相関関係を見ると、明らかな変化が生じている。

 評価する層の内閣支持率81%→78%、不支持率10%→10%▽評価しない層の内閣支持率8%→16%、不支持率79%→66%。

 安保法成立を評価する層ではほとんど変化はないが、評価しない層では支持率との相関が弱まっている。

 安倍内閣の支持率は8月8、9日調査の32%を底に9月35%、10月39%と回復傾向にある。安保法成立後はノーベル賞の日本人連続受賞や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の大筋合意など大きなニュースが続いた。時の政権を評価する材料は多岐にわたる。安保法を積極的に評価する層は引き続き強固に安倍内閣を支持しているが、評価しない層では政権評価に連動させる意識が薄れ始めた兆候がうかがえる。

 ◇質問表現に苦心

 そもそも世論調査というのは、国政の重要課題や国民的な関心事について民意の傾向を探るものだ。その代表的なものが内閣支持率だと言える。時の政権に対する正式な民意は国政選挙で示されるわけだが、選挙のないときも定期的に内閣支持率などを調べることにより、政権や政党、有権者に政策判断の材料を提供する役割が世論調査にはある。

 ただ、安保法のように難解なテーマを扱う場合は相当の工夫が必要になる。報道各社の世論調査は、全国の有権者から無作為に抽出した1000人前後を対象に、固定電話で質問に答えてもらうのが一般的だ。数分間の電話で10問を超える質問の意図を伝えるには、平易な言葉で簡潔に説明しなければならない。

 毎日新聞は3月の調査以降、「集団的自衛権の行使など、自衛隊の海外での活動を広げる安全保障関連の法案」と表現し、安保法成立前に5回、成立後に2回、継続的に質問してきた。社説などでは安保法に反対する論陣を張ったが、世論調査では賛否のどちらにも誘導する質問にならないよう苦心した。一方で、「日本の安全と平和を維持」「国際社会への貢献を強化」など、政府・与党の説明に沿った肯定的な表現を使って質問した新聞社もあった。

 ◇デモ参加3.4%?

 安保法の参院採決を控えた9月15日の産経新聞には、安保法に反対する集会やデモの参加経験者が「3・4%にとどまった」との記事が掲載された。同紙がFNN(フジニュースネットワーク)と合同で実施した調査の対象者は1000人。このうち34人が集会やデモに参加したことがあると答えたようだ。これは果たして多いのか、少ないのか。

 パーセンテージで数値化すると、有権者全体の3・4%が参加したとの推定が働く。安保法への反対が3・4%であれば「少ない」と言えようが、有権者1億人のうち300万人以上が集会・デモに参加したと考えればかなりの人数だ。そもそも1000サンプルの調査では最大3〜4ポイントの誤差を考慮して分析すべきであり、特定の政治活動に参加した人数のような、絶対数の少ない集団を数値化すること自体に無理がある。

 産経新聞はこの34人を母数に73・5%が共産、社民、民主、生活の4党支持層だとも書いた。わずか34サンプルをもとにパーセンテージ化した数値に統計上の意味はない。私は「安保法案反対デモの評価をゆがめるな」と題した記事を毎日新聞のニュースサイトに掲載し「『デモに参加しているのはごく少数の人たちであり、共産党などの野党の動員にすぎない』というイメージを強引に導き出した」と指摘した。

 ◇予断排し、謙虚に

 世論調査は万能ではない。1000サンプルで探れる民意には限界がある。数値を恣意(しい)的に扱い、それが民意であるかのごとくゆがめて報じることがあってはならない。

 毎日新聞は7月4、5日に実施した世論調査で「第2次安倍内閣発足後初めて、支持と不支持が逆転した」と書いた。このときの内閣支持率は42%、不支持率は43%。統計的に1ポイントの差に意味はない。本来は「支持と不支持が拮抗(きっこう)した」と書くべきだが、4月以降の調査で安保法と支持率の相関関係が強まっていたことから、「逆転」のトレンド(傾向)を明示すべきだと判断した。

 これが後に産経新聞から「強引に導き出した」と批判され、10月8日の毎日新聞朝刊では佐藤卓己京都大教授から「そのトレンドを期待する予断が入っていなかったとは言えないはずだ」との指摘もいただいた。毎日新聞の論調に基づく「期待」や「予断」があったように受け取られたことは反省しなければならない。世論調査報道には正確で公正な分析と謙虚な姿勢が常に求められることを肝に銘じていきたい。

毎日新聞 2015年10月12日 東京朝刊)


いたってまっとうな論考だと思う。自らの誤りも潔く認めている。毎日・平田氏の記事と産経のヨタ記事は、間違っても「どっちもどっち」なんかじゃない。

*1:http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20151002/1443741371

*2:http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20151009/1444341140

*3:http://www.sankei.com/politics/news/150914/plt1509140020-n1.html

*4:ここに書いた私の邪推について、記事を書き終えてから自己矛盾していることに気づいた。意地悪く解釈するなら、産経は「野党の支持率を低く見せたい」一方で、「デモに参加した人たちに占める野党支持者の比率を高く見せたい」意図も持っていたはずだからだ。よって私の邪推は筋が通っていないと認めざるを得ない。産経は何も考えずに小数点第2位以下を切り捨てていたと解釈するほかなさそうだ。