kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

イラク戦争の総括どころか、最大責任者・小泉純一郎への追及にさえ腰が引けまくる日本の「リベラル」の惨状

イラク戦争の総括を行う気が全くないという点に関して(も)、日本はアメリカやイギリスと比較してはるかに劣る「後進国」としか言いようがあるまい。

いまこそ、イラク戦争の総括を : 広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)(2016年11月16日)

いまこそ、イラク戦争の総括を

2001年の911テロ後、当時のアメリカ大統領のジョージ・W・ブッシュ被疑者は、サウジアラビアがテロの黒幕だったのにもかかわらず、イラクに濡れ衣を着せました。
そして、イラク戦争を開始しました。その結果は、イラクの一層の混乱とイスラム国(ISIS)の登場でした。

イギリスでは当時の首相・ブレア被疑者が、昨年、イラク戦争がISIS登場を招いたなどとして、謝罪をしています。

ブレア英元首相がイラク戦争で謝罪、イスラム国台頭の「一因」 | ロイター(2015年10月26日)

[ロンドン 25日 ロイター] - 英国のブレア元首相は25日に放映された米CNNとのインタビューで、在任中の2003年に始まったイラク戦争が過激派組織「イスラム国」の台頭につながったと認め、戦争に踏み切る際の計画にミスがあったと謝罪した。

同戦争がイスラム国台頭の主な原因だと思うかとの問いに、ブレア氏は「いくらかの真実」があるとコメント。当時のフセイン政権を倒した米主導の有志国が現在の状況と無関係だとは言えないと認めた。

専門家らは、米国が旧イラク軍の解体を決めたことで、国内の治安に空白が生まれ、それが後にイスラム国誕生につながったとしている。

ブレア氏は、参戦前の計画や情報や戦後への準備において誤りがあったとして謝罪の意を示したが、フセイン政権を倒したことは正しかったと主張した。


さらに、7月6日には、イギリスの調査委員会がイラク戦争参戦を「不当」と結論付けました。

CNN.co.jp : ブレア元英首相の責任問う声も 調査委がイラク参戦を検証(2016年7月7日)

ロンドン(CNN) 英国がイラク戦争に参戦した経緯などを検証していた調査委員会は6日、調査結果をまとめた報告書を発表し、イラク戦争は誤った情報を根拠とし、外交努力が尽くされないまま始まったと断定した。

英国内では、当時の首相だったトニー・ブレア氏に対し、イラク戦争参戦の法的責任を問うべきだとする声が強まっている。報告書が発表されたロンドンのオフィスビルの前では、2003年のイラク戦争に抗議していた反戦団体がデモを展開し、ブレア氏に対する法的措置を訴えた。

イラクの首都バグダッド市内で市民に取材したCNN記者は、「国民は現在のイラクについて、フセイン政権時代に比べてたいして良くなったとは感じていない」と伝え、「失敗に終わった(軍事)作戦についてブレア氏とジョージ・ブッシュ(米前大統領)を裁判にかけるべきだと多くの人が感じている」とした。

ただ、フセイン政権下で迫害を受けていたとされるイラククルド人の中には、ブレア元首相とブッシュ前大統領を強く支持する人もいるという。

トニー・ブレア氏は発表を受けて同日記者会見し、イラク進攻を決断した全責任は自分にあると言明、「悲しみと遺憾、謝罪を表明する」と述べてイラク戦争の失敗と過ちを認めた。


アメリカでも、911テロの黒幕がサウジであったことが、今年になって情報公開で明らかになりました。
それを受けて、テロ遺族がサウジを訴えるための法案が上下両院の圧倒的多数で可決。
オバマ大統領はこれに拒否権を行使したものの、再度議会がこれを覆しました。

アメリカに今後求められるのは、イラク国民に対して濡れ衣を前提とした戦争で被害を与えたことへの謝罪と補償です。

また、日本も、また、反省をしなければなりません。
当時総理として、後方支援とはいえ自衛隊を派兵した小泉純一郎さんの責任もまぬかれません。

安保法とは、そもそもが、イラク派兵のようなことを個別法を作らずに可能にするための「派兵恒久法」です。その原点がイラク戦争における小泉さんによる派兵であるのは明白です。そうした流れがあるのですから、総理大臣が安倍晋三さんでなくても、与党はこの法案を強行していたと思います。

小泉さんが脱原発などを言っていることはもちろん結構です。
しかし、だからと言って、イラクの民間人を殺戮し、ISISというテロ集団を台頭させることに小泉さんが加担した責任はまぬかれないと思います。

クリントンさんがアメリカ大統領選挙で敗北したのも、一つは、彼女が、イラクでブッシュ被疑者が行ったのと似たようなこと(政権転覆でアメリカのイデオロギーを押し付けようとするが失敗して大混乱)をリビアで行ったことが批判を浴びたことではないでしょうか?

さらに、オバマさんが上下両院の圧倒的多数の支持を得ている「テロ遺族がサウジを訴えるための法案」に拒否権を発動したことも反発を招いたと思います。

その結果、リベラル層での票が伸び悩み、「ブッシュ・クリントンの中東政策を批判し、大型公共事業による内需拡大を打ち出す」トランプさんに負ける原因になったと思います。

いまこそ、米日リベラル派は、イラク戦争の総括を!
アメリカは、イラク人に補償を!」
「日本は反省を!」

そのことは、トランプさんが、当初の公約を破ってブッシュ・クリントン路線に回帰することへの抑止力にもなりますし、安倍晋三さんが安保法を発動して海外派兵を行うことへの抑止力になります。

日本でも、リベラル派が小泉さんに遠慮してしまうと、クリントンさんと似た罠にはまりかねないでしょう。安倍さんへの批判もいつのまにか小泉さんに遠慮してへっぴり腰になり、ますます求心力を低下させることになりかねないのです。


9.11といえば、「小沢信者」その他による「自作自演説」の陰謀論はあまりにも愚かしいが、彼ら陰謀論者には武力行使をする力はない。イラクの「大量破壊兵器」の陰謀論を喧伝して武力行使を行って大量殺人を行ったブッシュ、ブレア、そして自衛隊を派遣した小泉純一郎の罪の重さは、あまりにも当たり前だが「9.11陰謀論者」などとは比較にならない。文字通り「万死に値する」といえる。

ところが、そんな小泉、それどころか苛酷な新自由主義政策で日本社会の格差を拡大しまくった小泉に対して「脱原発の味方」だからといって思いっ切り腰が引けまくっているのが日本の「リベラル」だ。2014年1月の東京都知事選では、「小沢信者」を含む多数の「リベラル」が、小泉とつるんだ新自由主義仲間の細川護煕を全力で応援して惨敗した。さらに嘆かわしいことに、その細川と対立した宇都宮健児の支持者たちのかなりの部分が「敵の敵は味方」の論理によって小池百合子の容認、ひどい場合には積極的な小池支持へと流れた。

ここ数年間というか、第2次安倍内閣が成立して「崩壊の時代」(坂野潤治が言い出したこの言葉を久々に使うが、やはりこの言葉でしか表現しようがない)は、まさしく「『リベラル』崩壊の時代」といえる。そもそも坂野潤治は「権力を批判する言説が絶え果てる時代」として「崩壊の時代」と言ったわけだから、みごとなまでの予言の的中だ。この歴史家の慧眼には恐れ入るほかない。


以上が本論で、ここからは長い蛇足。

9.11へのサウジアラビアの関与やサウジアラビアにおける人権抑圧に関して、今年の年初にサウジと国交を断絶したイランのニュースサイトであるParsTodayの記事を3件あげておく。サウジアラビア北朝鮮顔負けの王朝独裁・人権抑圧のトンデモ国家であることは世界の常識だろう。私はサッカーのワールドカップで日本代表の勝敗に一喜一憂する趣味を持ち合わせてはいないが、先日のサウジアラビア戦では「サウジにだけは負けるな」と思ったこと、そして勝ったはいいものの、後半戦アディショナルタイムで失点して順位でサウジの上に立てなかったことに腹を立てたことを白状しておく。

アメリカもまた、そんなサウジアラビアを「友好国」として遇する「トンデモ国家」であるとも、私は認識している(ま、それ以前にアメリカはイスラエルとべったりであるわけだけれど)。私は何も「小沢信者」的な「反米主義者」ではないけれども、アメリカを盲信する趣味もまた持っていない。

9.11とサウジの関係に関する報告が公開

アメリカ議会が、ついに14年を経て、2001年9月11日のアメリ同時多発テロサウジアラビア人が関与した可能性を示す機密文書を公開しました。

イスナー通信によりますと、この報告は2002年、下院の情報委員会の要請によって作成され、これまで機密扱いだった28ページにおいて、ハイジャック犯とサウジアラビアが関係していた可能性に重点が置かれています。

9.11のハイジャック犯19人のうち15人がサウジアラビア国籍を有していました。

機密文書では、CIAやFBIの様々な文書に基づき、ハイジャック犯はアメリカ滞在中にサウジアラビア政府とつながりのある人物と接触したようだとされています。

ホワイトハウスの報道官は、この機密文書の公開からまもなく、「この文書は9.11におけるサウジの関与を示すものではない」と主張しました。

BBCによりますと、議会の文書では、サウジアラビア内務省の関係者が2001年9月にハイジャック犯の一人が訪れたホテルに滞在していた、とされています。

サウジアラビアアメリカ大使は、議会の報告の公表を歓迎し、この文書の公表により、サウジアラビアの行動と動機に対する曖昧さがなくなることを期待している」と語りました。

9.11の犠牲者の遺族は、アメリカ史上最大のテロ事件に関与したとしてサウジアラビアの裁判を求めています。

サウジと9.11の関係

2001年9月11日のアメリ同時多発テロの機密文書をめぐる議論の結果、ついにアメリカ政府はこれらの文書の一部を公開しました。

キャラミー解説員

オバマ政権は最近、ファイル17という名前の機密文書を公開しました。この文書では、サウジアラビアのおよそ40人の関係者と9.11テロとの関係が指摘されています。

ボブ・グラハム元上院議員は、「ファイル17の元になった情報の主要な部分は、アメリカ議会の報告の28ページの機密文書に基づいている」と述べました。グラハム元上院議員は、「この文書は9.11のハイジャック犯が、アメリカ滞在時にサウジアラビア政府の大規模な支援を受けていたことを示すと考えている」と語りました。グラハム元上院議員は、サウジアラビア政府への回答請求と、アメリカ議会の9.11委員会の完全な報告の公開を支持している主な人物です。

9.11の機密文書の一部が公開された一方で、サウジアラビアムハンマド防大臣は最近、アメリカに一週間以上にわたり滞在していました。ムハンマド大臣はこの文書を初めとする様々な問題に関してアメリカの関係者と会談しました。これと同時に、サウジアラビアのジュベイル外務大臣は、「もし機密文書が公開されれば、サウジアラビアアメリカから7500億ドルの資金を撤退させる」と脅しました。ジュベイル大臣はこれだけに留まらず、9.11に関する文書の内容は主張されているだけだとし、「サウジアラビアアメリカ政府に対してどのような状況にあっても他国の不可侵権を維持することを求めており、もしそうでなければ、他国におけるアメリカの不可侵権も危険にさらされるだろう」としました。

サウジアラビアアメリカの関係の種類に注目すると、アメリカ議会の9.11委員会の完全な報告が公開されるか否かは定かではありません。しかし、ファイル17と呼ばれるものは、9.11テロへのサウジアラビアの直接関与を示しています。

アメリカ議会の上院も、同時多発テロへのサウジアラビアの関与を認めることで、生き残った人や遺族に対して、サウジアラビア政府に抗議し、賠償を請求することを許可する法を可決しました。

こうした上院の措置とファイル17の一部公開は、アメリカの人々の要請であり、世論の圧力によって実現したもので、アメリカ政府はこれ以上、抵抗することはできません。9.11に関する透明化は、国際世論の要求であり、アメリカ政府がどれだけテロ対策に真剣かを明らかにするものです。

新たな文書の公開は、テロの拡大にどの国々が役割を担っているかと言うことを示しました。サウジアラビアの責任者は、9.11事件の全容を明らかにするためのアメリカでの努力に苛立っていますが、こうした中、サウジアラビアは世界の過激派やテロの拡大に直接関与しています。サウジアラビアの管理のもとにあるワッハーブ派の学校は、世界の過激主義の主な支援者であり、この学校で学んだ生徒は、タリバンアルカイダ、そして現在はISISやヌスラ戦線の名と共にテロを拡大しているのです。


サウジの人権侵害への世界的な非難 - Pars Today(2016年8月20日

サウジの人権侵害への世界的な非難

人権侵害の非難の矛先は、依然としてサウジアラビアに向けられています。

エマーディ解説員

独裁国家サウジアラビアは世界最大の人権侵害国のひとつとみなされています。サウジアラビア政府は国内のみならず、西アジア地域でも人権に注目していません。

サウジアラビアの国内では女性は、政府によって人権を侵害されている最大のグループです。サウジの女性たちは、車を運転することができない上に、最近まで参政権もありませんでした。

サウジのメディアもサウード政権の傘下にあり、サウード王家は、全てのメディアの所有権を保持しています。サウジアラビアでの王族への批判は犯罪と見なされています。この国では、特にシーア派への社会的な差別が明らかです。サウジアラビア政府は人々に対して従属することだけを望んでいるのです。

サウジアラビアはとくにこの5年で、他の国において人権侵害を犯している最大の国となっています。サウジ政府はシリアでテロリストを全面的に支援し、シリア市民の殺害に手を染めています。また2015年3月から、アラブの最貧国イエメンへの攻撃を開始し、今もこの攻撃を続けています。これらの攻撃で数万人が死傷し、インフラの80%が消失、およそ300万人が難民となりました。またテロリストによってイエメンの一部が占領され、イエメンの国民の統一も失われました。サウジ政府はイラクでもテロリストを支援しており、これに加えてイラクの政府を弱体化させ、宗派間の緊張を拡大する上で重要な役割を果たしています。こうした一連の不法な、非人道的行為にもかかわらず、民主主義や人権を主張している政府はサウジアラビアに対して何の対応もとっていないばかりか、こうした状況を【支持さえ】しています。こうした支持の例の一つが、国連人権理事会議長国へのサウジの選出です。これについて独立系のアナリストは一種の政治的な皮肉だとしています。こうした状況は常に国際NGOや民間の活動家の非難に直面しています。

これに関して、8月19日の世界人道デーに際して、イギリスの活動家は、サウジアラビアの人権理事会の議長国再選に対して、同国政府の反対を求めました。また国際人権監視団体ヒューマンライツウォッチの上級研究員も、18日、声明の中で、アメリカ議会に対して、サウジアラビアへの11億5千万ドルの軍事兵器の売却に反対するよう求めました。その主な理由は、ヒュ−マンライツウォッチがサウジアラビアはこれらの兵器をイエメンの人々に対して使用していると考えていることにあります。これ以前、同団体とアムネスティインターナショナルは、イエメンにおけるサウジアラビア戦争犯罪を調査するよう求めています。

サウジアラビア政府による人権侵害への非難は、ヒュ−マンライツウォッチやアムネスティインターナショナル、そしてイギリスの活動家だけに限られていません。ロシア外務省の報道官も、19日、サウジによるイエメンの民間人への攻撃継続に懸念を示し、サウジとその連合軍によるイエメンでの犯罪に関する国際的な調査を要請しました。


最後に、「9.11はサウジの仕業なんかじゃない! アメリカの自作自演だ」と言って怒り狂う「9.11陰謀論者」田中宇の記事も引用しておく。面倒臭いので引用文中からのリンクは引用しない。

911サウジ犯人説の茶番劇(2016年4月29日)

911サウジ犯人説の茶番劇
2016年4月29日   田中 宇

 2001年9月11日に米国で起きた911の大規模テロ事件をめぐり、サウジアラビアが政府ぐるみで犯人たちを支援していたことが書かれていると憶測される28ページの非公開の機密文書をめぐる騒動が、最近また起きている。911サウジ政府犯人説は、911の直後から根強く米国の政界や言論界に存在しているが、根拠が薄い。機密解除を求める議員らは、問題の28ページが機密解除されさえすれば、サウジ政府の犯行だったことが確定すると言っている。これまで解除を拒否していたオバマ政権が、6月までに機密を(一部)解除する方針を出したと最近報じられた。 (White House set to release secret pages from 9/11 inquiry) (Saudi Arabia, 9/11, and what we know about the secret papers that could ignite a diplomatic war)

 問題の文書は、2002年12月に米議会の両院合同の調査委員会が発表した報告書の一部で、28ページの全体が黒塗りの機密扱いで発表された。黒塗りされていない文書を見た当局筋の関係者が匿名で、そこに911テロ事件に対するサウジ政府ぐるみの関与について書かれているとマスコミにリークしたため、今に続く騒動が始まった。 (Joint Inquiry into Intelligence Community Activities before and after the Terrorist Attacks of September 11, 2001 - Wikipedia) (Inside the Saudi 9/11 coverup)

 それ以来、今日までの14年間、米国の議員や911遺族会などが、何度も機密解除を米政府に要請したが、受け入れられていない。「911はサウジが政府ぐるみでやったんだ」という非難が独り歩きしたため、その非難を否定するサウジ政府も、米政府に対して機密解除を求め続けてきた。サウジ政府は、機密が解除された方が自国への濡れ衣が晴らされるので良いと考えている。親米が国是のサウジ王政は、911以来、米国との関係が悪化するのを恐れてきた。 (WTC "Realistic" Chance Americans Could Find Out Truth About 9/11 By June Of 2016) (The Saudi 9/11 Blackmail Explained: The K-Street Lobby Racketeers Have It Covered)

 サウジアラビアは昔から、軍の装備から軍用ソフトウェア、安保や諜報の戦略立案や運用をする人々まで、米国からの輸入品、米国で訓練された人々、もしくは米国人を使っている。米国で訓練されたサウジ軍幹部の中には、米国のエージェントと化した人が多く、ソフトウェアにも裏口が設けられているだろうから、サウジの軍や諜報の動きは米国に筒抜けだ。サウジの諜報部門が、米国に隠して大きな作戦をやることは、サウジ国内で行う作戦であっても、多分できない(日本の自衛隊と全く同じ状況)。サウジの諜報部が、米当局に知られずに、米国で911のような大規模なテロをやることは、全く不可能だ。サウジ当局者は、自分たちの対米筒抜け状態を知っている(米国との親密さを示すものとしてむしろ評価している)だろうから、米国でテロをやることについて、夢想すらしないだろう。

 911をめぐる大きな謎は、サウジに対するものでなく、米国の当局自身に対するものだ。米当局は、テロが起きることを容認した観があり、テロ後の説明もつじつまが合わない。世界貿易センタービルの倒壊が、飛行機の衝突だけでなくビル内部に仕掛けられた爆弾によるものであることを隠し続けたり、国防総省に旅客機が突っ込んだとされる穴が旅客機よりはるかに小さく、周辺に旅客機の残骸もなかったのに何の説明もないことなどから考えて、米当局こそ911のテロに関与した自作自演の疑いがある。米議会の「真相究明」報告書は、それらの疑惑を陰謀論と一蹴しており、むしろ真相を隠蔽する報告書になっている。 (仕組まれた9・11

 サウジの諜報機関は、ずっと米国の傘下にあった。80年代にソ連占領下のアフガニスタンで、オサマ・ビンラディンらサウジ人などのイスラム主義の「聖戦士」たち(のちのアルカイダ)が、米国のCIAに訓練されてソ連軍にゲリラ戦を仕掛けて以来、サウジと米国の諜報部門は連携していた。イスラム過激派のサウジ人がCIAに招かれて渡米して軍事訓練を受けた後、アフガニスタンに送り込まれる流れができていた。アフガン帰りのアルカイダ系のサウジ人がCIAのビザで渡米し、911前の米国に多く住んでいた。911の実行犯は、そうした人々の中にいた(彼らが本当に実行犯だったのか疑問だが)。 (911事件関係の記事) (Seymour Hersh: Saudis Paid Pakistan to Hold bin Laden To Prevent U.S. Interrogation)

 サウジ当局は、911実行犯のうちの何人かに米国滞在中の家を探してやったり、イスラムの慈善団体などを通じて生活費を支援していたことがわかっており、それが「テロ支援」だとされている。だが、サウジの諜報部が911前に米国で活動していたのなら、それは米当局の作戦の一部を、作戦の全容を知らされないまま下請けしていたはずだ。サウジ当局が911の発生に関与したのなら、それは米当局の無自覚な下請け役としてだ。911に対するサウジ当局の関与を公開すると、それは「親分」だった米当局の関与を暴露するものになる。だから、問題の28ページに最重要のことが書いてあるとは考えにくい。 (The Classified '28 Pages': A Diversion From Real US-Saudi Issues Gareth Porter)

 911に対する米当局の関与を完全隠蔽する米議会が、サウジ当局の関与だけを示唆したがるのは、サウジに対する嫌がらせをしたいからだ。911をめぐる政治劇の中で、サウジをことさら悪者にするのは、おそらくイスラエル系の勢力からの圧力だ。イスラエルとサウジは、米国の中東戦略の立案過程においてライバルどうしだ。オバマ大統領は先月、雑誌アトランティックのインタビュー記事「オバマ・ドクトリン」の中で、サウジとイスラエルが圧力団体を使って米国の中東戦略をいかにねじ曲げているかを嘆いている。 (軍産複合体と闘うオバマ

 911後、イスラエルの代理勢力として「ネオコン」がブッシュ政権の世界戦略を牛耳り、イスラエル国益になるイラク侵攻やイラン敵視をやっている。ネオコンは「911の犯人であるサウジ政府を武力で転覆すべきだ」といった主張を流してきた。昨年夏には、大統領選挙に出馬表明し、イスラエルにすり寄っていた共和党ランド・ポール上院議員が、米議会の911報告書の問題の28ページを機密解除する法案を出したりしている。米政界において、サウジに対する嫌がらせの多くは、イスラエルへの追従として行われてきた。 (Rand Paul's New Crusade: The Secret 9/11 Docs) (米国依存脱却で揺れるサウジアラビア

 とはいえ、今回は少し様子が違う。以前のサウジは米国にやられっぱなしで、いくら米国から911に関して言いがかりをつけられても対米関係の悪化を恐れて黙っていた。だが、15年1月に前国王の死去でサルマン国王が即位した前後から、サウジは対米従属からの離脱を模索している。14年夏からは、米国のシェール石油産業(ジャンク債市場)を潰すための原油安の戦略をサウジが開始し、サウジはロシアと組んで米国潰しの原油安攻勢を続けている。サウジがロシアと組んで米国に敵対することなど、以前なら考えられなかった。 (ロシアとOPECの結託) (米シェール革命を潰すOPECサウジ) (Frayed US-Saudi relations more charade than reality: Pundit)

 米国(軍産複合体)は、対米自立をめざすサルマン国王の足をすくおうと、サルマン国王が即位した直後の昨年3月、イエメンのフーシ派に大量の武器が渡るよう仕向け、サウジ軍がイエメンに侵攻せざるを得ない状況を作った。サルマン国王の国王即位後、サウジ王政の上層部では、サルマン国王国王やその息子のモハメド・サルマン副皇太子といった対米自立派と、モハメド・ナイーフ皇太子ら対米従属派との暗闘が激しくなった。そのような昨年来の新たな状況下で、米国が911の犯人をめぐるサウジ政府に対する濡れ衣的な非難や嫌がらせを延々とやることは、サウジ側の反米感情の増大を誘発している。 (米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ) (サウジアラビア王家の内紛)

 911をめぐる最近の米国のサウジに対する嫌がらせは、28ページの機密解除だけでなく、911の遺族たちがサウジ政府の在米資産を差し押さえて自分たちのものにできる新法を米議会が検討していることなどもある。この法案が通ると、米政府が、サウジ政府が保有している米国債を没収し、その資金をて911の遺族に与えてしまうことが起こりうる。サウジ政府は、濡れ衣を重ねるこの法案に怒り、もし法案が通ったら、保有する巨額の米国債を売却すると表明した。911をめぐる嫌がらせは、米サウジ関係を破綻させかけている。 (Saudi Arabia Warns of Economic Fallout if Congress Passes 9/11 Bill) (Saudi Arabia Threatens To Liquidate Its Treasury Holdings If Congress Probes Its Role In Sept 11 Attacks)

 すでに述べたように、サウジ王政は軍事面で対米従属を脱することが難しい。対米自立をめざすサルマン国王らは、軍事面でイエメン戦争を起こされ、なかなか停戦もできず苦労している。そのためサルマン国王らは、軍事と関係ない石油価格の面で、米国に逆襲するシェール石油産業潰しの原油安攻勢を続けている。今回の米国による、911をめぐるサウジに対する嫌がらせの再発は、サウジがロシアと組み、原油安攻勢を持続する中で起きている。米国がサウジに嫌がらせをするほど、サウジは原油安による米国潰しの画策を意固地に続け、米国と対峙する姿勢を強める。 (The Real Reason Saudi Arabia Killed Doha) (High Hopes as New Yemen Ceasefire Takes Effect)

 オバマ政権は以前から、表向きロシアやイランを敵視し、サウジやイスラエルとの同盟関係を重視する姿勢を見せつつ、実のところ逆に、核協定でイランを許して強化し、シリアの解決をロシアに任せてロシアの中東覇権を強化してやった。半面、イエメン内戦や911の濡れ衣でサウジとの関係を悪化させ、パレスチナ問題などでイスラエルとの関係も悪くするという「隠れ多極主義」の戦略を続けている。911をめぐるサウジに対する嫌がらせも、この戦略の中にあると考えられる。前出のアトランティック誌のオバマのインタビュー記事を見ると、これはオバマ自身の戦略だ。 (イランとオバマプーチンの勝利) (中露を強化し続ける米国の反中露策) (世界に試練を与える米国)

 オバマは4月20日にサウジを訪問した。サルマン国王は、他の湾岸諸国の元首が来た時には空港まで迎えに出たのに、オバマの時は空港に来ず、米サウジ関係の冷却が報じられた。オバマは、わざわざ自分のサウジ訪問の前に、911問題でサウジとの関係を悪化させ、自分のサウジ訪問時にサウジ側に冷遇されることを招いている。彼は、シリア問題でも似たようなことをやっており、自分を意図的に失敗の立場に陥らせ、それを世界に見せることで、世界に対し、米国の弱体化や信頼性の低下を演出しているように見える。 (Obama Faces Chilly Reception on Arrival in Saudi Arabia) (The Obama Doctrine)

 サウジとの対立に関しては、オバマが自らの信頼性を低下させるほど、サウジを対米自立させようとしている30歳のモハメド・サルマン副皇太子のイメージが上がる仕組みになっている。いずれ国王になり、長期政権を敷くであろうモハメドは、うまくいけば対米自立を果たし、仇敵だったイランとも和解し、中東を安定化させる立役者の一人になる。911をめぐる米国からの嫌がらせは、そこに向かう力をモハメドに与えている。 (The unpredictable new voice of Saudi oil)