宮武嶺さんのブログ記事より。
パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが2023年10月7日にイスラエルへの一斉攻撃を仕掛けて始まった大規模な軍事衝突。
ハマスは5千発といわれるロケット弾をイスラエル市民が住む市街地に一斉に発射して、900人に及ぶイスラエル人を殺してしまったことも許されない蛮行ですが、イスラエル軍からの報復を予期して100人ものイスラエル民間人・兵士を誘拐してガザ地区に連れ去ったというのも、信じられないような犯罪です。
ガザ東方約5キロにあるイスラエル南部の集落近くで開かれていた野外音楽祭の会場では、250人以上の遺体が収容されたということです。
また、ガザ地区から約20キロのイスラエル南部キブツ・ベエリでは、100人以上の遺体が見つかったとしており、イスラエル市民の犠牲者はまだこれから多数判明するかもしれません。
パレスチナ人にはイスラエルの軍事支配や人権蹂躙に対する抵抗権があるとしても、もちろん、こんなイスラエル市民に対する無差別攻撃や無差別殺戮が許されるわけがありません。
これに対して、Xなどネット上に突如として反米拗らせ論者が出現し、アメリカに支援されたイスラエルのこれまでの犯罪的な行為の責任はイスラエル人にあるなどと言って、イスラエル市民に対するハマスの犯罪を免責するかのようなことを言い出していて驚きました。
こういう人たちは人命尊重ではなく反米が考え方の軸になっていて、そもそも反米になったのはアメリカによる戦争と市民への攻撃が理由だろうに、もう頭が反米だけにとらわれて、何を大切にしてきたか自分でもわからなくなっているんだろうと思わざるを得ません。
URL: https://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/0828074206d8e496a57bc6bca67e1cb8
ハマスの暴挙は明らかに第4次中東戦争勃発50周年に合わせてきたものだろう。1973年当時私はまだ小学生だったが、第1次石油危機がきっかけで最初は大阪、すぐに全国に波及したトイレットペーパーの買い占め騒動(それは2020年春のコロナ禍で再現された)やすさまじい「不況下の物価高」(スタグフレーション)が起きたこと、テレビの深夜放送がその後何年にもわたって休止されたことなどをよく覚えている。
それにしても「反米拗らせ論者」たちには空いた口が塞がらない。そもそもハマスの出自がいかなるものかも彼らは全く考慮しないかのようだ。
いろんな見方が出来ると思うが、この問題は大きくいえば、冷戦期の反共政策の負の遺産ということができる。
1979年にアフガニスタンに侵攻したソ連に対抗するため、アメリカはサウジアラビアとパキスタンの協力のもと、イスラム教徒義勇兵を反共の戦士として起用した。イスラム戦士たちは共産主義を無神論として激しく敵視したので、対ソ連軍の戦力としては格好の存在だった。その中から生まれてきたのが、国際テロ組織アルカイダ、そしてIS(イスラム国)だった。
9.11同時多発テロは、アメリカがイスラムをご都合主義的に利用してきたことの強烈なしっぺ返しだった。実は日本における統一協会の問題も、宗教の反共政策利用の負の遺産に悩まされるという、全世界的な流れと無縁ではない。
今回の事態にしても、そもそもハマスは、元はといえば、左派系のパレスチナ民族主義組織に対抗するためにイスラエルがテコ入れしてきた過去をもつ。
激動する今の世界を、こうした大きな構図でとらえることを、私の尊敬する中東研究者、酒井啓子・千葉大教授が提唱している。酒井さんの去年11月の論文から引用、参照して紹介する。
日本は、アメリカに言われるまま「対テロ戦争」に深く関わってきた。アフガニスタンでは米軍の後方支援を行い、イラク戦争では陸自を派遣した。さらに経済的にも、アフガニスタンへの「復興支援」7000億円超を、イラクへは「復興支援」50億ドルに緊急復興支援(ISによる被害に対して)を6億ドル以上つぎ込んでいる。
結局、アフガニスタンもイラクも大義なき戦争だったことがはっきりし、アメリカは敗退したわけだが、これだけの資金と労力を費やして日本が関わってきた「対テロ戦争」を日本は真剣に振り返ったことがない。英国では16年に「チルコット報告書」でイラク戦争開戦にかんする問題点が明らかにされた。
アメリカでは19年、アフガニスタン戦争における情報隠蔽を暴いたワシントン・ポストの取材録「アフガニスタン・ペーパーズ」が出版された。
「それに対して、日本はどうか。過去20年間の日本の「9.11後」への関与をどう総括し、今後の政策にどのようにいかすことを考えているのか。先日、政策実務にも深く関わっておられる国際政治学の大先輩が、こう指摘された『日本は総括しない国だ』。そして『微調整ばかりがうまい』。」
「日本が総括しない、微調整で済む、と思いこんでいるのは、日本が直面している課題が、国際政治全体を覆うものの一部だという認識がないからではないか。日本がアフガニスタンと関わったのは、たまたま米国に付き合っただけだと考え、たまたま『勝共』の名を持つ組織と関係しただけでしかない、と人ごとのように考える。そして、関わりを持ったことで生じる責任を回避する。
冷戦期の遺恨や対テロ戦争の残滓は世界に遍在し、日本もそのくすぶった焼け跡のなかにある。それを自覚して初めて、日本は世界共通となっている歴史の負の遺産に取り組むことができる。」(酒井啓子「対テロ戦争、負の遺産 過去を総括しない日本」(アジア時報2022年11月)より)
「微調整」ではなく、ラディカルに、根本的に過去を総括して世界共通の課題に向かわなくてはならない。この意味で日本は、政治家もメディアもふくめて問われ続けている。
引用文末尾の赤字ボールドは引用者(私)による。この文章には特に強く共感した。
というより、少し前から世界中がそうだが、中でも世界に先駆けて国内の政治・経済・社会の深刻な危機に直面しつつあると思われる日本においては、たとえば現首相にして総理大臣である岸田文雄や、野党第一党の代表である泉健太のような、政策においては微温的、かつもっとも得意とするところは内向きの権力工作であるような政治家(これらの点においてこの2人はそっくりだと思う)など全くお呼びでなく、日本の進路をラディカルに指し示すことができる指導者が求められると常々考えていたからだ。この「ラディカル」には、急進的というよりはもともとの「根源的」という意味を強く込めたい。少し前に書いた高度成長期の企業での醜い権力構想を描いた城山三郎の小説を評した楠木建・一橋大教授の表現を借りれば、今の日本は岸田文雄や泉健太のような「三角形の政治家」ではなく「矢印の政治家」が求められるということだ。「微調整ばかりがうまい」とは、岸田や泉のような決してラディカル(根源的)にはなり得ない政治家たちの特性を表す言葉でもあると思った。
とはいえ、今回のイスラエルの「わしが育てた」ハマスと育ての親のイスラエルによるともに許し難い暴挙の応酬(彼らは人名をなんとも思わない点でプーチンと同じ括りに入れられるべきだろう)に対する岸田文雄の反応は思いのほかまともだ。
下記はsumita-mさんのはてなブログ記事へのリンク。
記事中に石田昌隆氏のXがリンクされている。
岸田政権は、国内政策は酷いの多いが、外交はびっくりするほど妥当だ。ロシア寄りだった安倍外交からきっぱり決別して正義の側、明確なウクライナ支持に舵を切ったこと。今回のハマスの攻撃とイスラエルの報復空爆に対して、イスラエル寄りの欧米とは一線を画す中立的なポジションをとっている。 https://t.co/DAMjayEKYR
— 石田昌隆 (@masataka_ishida) 2023年10月8日
反米論者も本当に反米に徹するのであればハマスが「わし(イスラエル)が育てた」集団であることをよく認識すべきだろう。そういえばサダム・フセインもオサマ・ビンラディンもイスラム国もすべてアメリカが育てたモンスターだった。
それをせずに「イスラエル国民など殺されて当たり前だ」などと抜かすから指弾される。彼ら「反米拗らせ論者」たちが批判・非難されるのは当然のことだ。なぜなら彼らもまたネタニヤフやハマスと同じく「殺す側の論理」に立つ人々だからだ。
なお、極右新自由主義者の高橋洋一が「これはテロなので、イスラエルに自制を求めるべきではない」などと岸田文雄を「右」から批判しているが(下記リンク)、高橋もまた「殺す側の論理」に立つ人間であることを露呈している。
そんな高橋洋一を過去に批判できなかった松尾匡や、極右の馬淵澄夫とつるんで高橋を勉強会の講師に呼んだ山本太郎も彼らと同類の人たちだと見なければならない。ことに山本はウクライナ戦争で親露派の立場に立つ。維新を除名され損なって離党するかしたかしたらしい鈴木宗男を新選組に迎え入れてやってはどうかと思う今日この頃。もっとも過去に高橋に甘い顔をした「リベラル・左派」の人間など掃いて捨てるほど大勢いた。今となっては彼らの誤りはあまりにも明らかだが、私はかつて発した高橋洋一への批判が彼らから受けた反批判に対する恨みを今も忘れていない。これは「小沢信者(オザシン)」に対する怨念とも通底している。思い出せば、2009年の「政権交代」直前には高橋の「埋蔵金理論」がオザシンたちにずいぶん持ち上げられたものだ。
なお、鈴木宗男の「離党届を受理せず除名する」ことすらできずに無能ぶりをあらわにした維新代表の馬場伸幸は、その姓にふさわしく「馬脚を現した」形だが、昨年末にそんな馬場と会食して「維新八策」に「大部分強調できる」と持ち上げた挙句に足蹴にされた泉健太のお馬鹿さを思い出すと改めて腹が立つ。やはり泉は一日も早く立民代表を辞任すべきだ。