少女アイドルの急死は痛ましいが、その死因に関するデマがネットで広がった件にはまたかと思わされた。
この件で思い出したのは、昨年ストーカーの襲撃を受けて瀕死の重傷を負った冨田真由さんについて、「植物状態になった」云々(でんでんではない)のデマが流布したことだ。あの件も本当にひどかった。許せないと思った。
その冨田さんに関する記事を記録しておく。
- 冨田真由さんの訴えを、なかったことにしたい警察 | 夜コーヒー(2016年12月16日)
冨田真由さんの訴えを、なかったことにしたい警察
2016年5月21日、ストーカー男に20箇所以上を刺される、というひどい事件に遭遇した、女優でシンガーソングライターの冨田真由さん。
現在は退院して、病院に通いながら治療を続けているとのこと。
その冨田真由さんが、NHKに手記をよせた。
一時、心肺停止状態になったこの女性が、いちばんに訴えたのは警察にたいする不信感だった。
武蔵野署はよほど忙しいところと見えて、今思うと、相談した際に、女性の警察官がほとんどメモを取らずに話を聞いていたことや、男性の警察官が「他の事件が忙しい」と言い何度も部屋を出入りしていたことから、私の相談を軽い気持ちで聞いていたのだと思います。私が言ったことをどのように受け取ったのか、相談した担当者に直接話を聞かせてほしいと何度もお願いしてきましたが、組織として対応していますと、一切取り合ってもらえませんでした。
(「小金井市女子大学生刺傷で手記 – NHK 首都圏 NEWS WEB」)
wikipedia では、この事件における警察の不手際が、何点かあげられている。
Aに相談を受けたにも関わらず緊迫性は高くないと判断し、ストーカー案件を取り扱う「人身安全関連事案総合対策本部」に報告しなかったこと。
Bが他の女性に対し嫌がらせ行為をした際被疑者登録を失念し、警察署同士の情報共有がうまくできなかったこと。
(小金井市女子大生ストーカー刺傷事件 – Wikipedia)
Aというのは冨田さん。
Bは現行犯逮捕された、岩埼友宏という京都の28歳の男である。
岩埼容疑者は、別の女性にもSNS上で嫌がらせを繰り返しており、2013年には芸能活動をおこなう10代女性のブログに脅迫的な書きこみをしていたことで、警視庁に呼び出されていた(岩埼容疑者は出頭しなかった)。
また、滋賀県の女性も岩埼容疑者の件で警察に相談している。
警察は冨田さんの訴えを真面目に受けとっておらず、ストーカー男の情報も共有できていなかった。
「被疑者登録を失念」というのは、なんらかの情報データベースに岩埼容疑者のことを登録してなかった、ということだろうか。
なんとなく、机に積みっ放しの書類の山を想像してしまう。
武蔵野警察署はAの相談後、Bがトラブルを起こす可能性を考慮しAの携帯電話番号を110番緊急通報登録システムに登録。しかしAの自宅を事前に登録していたため、Aによる110番通報後位置情報確認を怠り自宅に警察官を派遣したこと。
(小金井市女子大生ストーカー刺傷事件 – Wikipedia)
冨田さんは事件に遭遇してすぐさま110番に助けを求めた。
「おっしゃ、まかせとけ。緊急通報位置通知あっからな」
と警察が向かったのが、事件現場ではなく冨田さんの自宅だった。警察が事件現場へたどりつけたのは、目撃者の通報があったからである。
警察も激務で大変なんだろう。しかしこれは、ひどいじゃないか、と思ってしまう。
ちなみに119番へは、岩埼容疑者が電話している。「かわいそう」と思ったらしい。それはそれで怖い。
またストーカー規制法の不備も指摘されている。
これまでは電子メールでの迷惑行為を規制するだけであり、SNSは事実上野放しだった。
SNSでの名誉毀損とかも取り締ろう、という動きはすでにあったらしいが、間に合わなかった。
SNSを規制対象とした改正案は2016年12月6日に衆議院で可決、成立している。
このほどさように、反省すべき点はいくつもあった。
法律に足らない部分があり、それを直した。
警察に不手際があったのは明かだ。
なのに、警察が冨田さんに対してとった態度には、がっかりさせられてしまう。
事件後、私が相談に行ったときのことについては、平成28年11月28日と12月2日の2回にわたって、警察から事情聴取を受けました。警察からの聴取の際、挨拶が終わった後の最初の言葉が「本当に殺されるかもしれないと言ったんですか」でした。その後も、私が「殺されるかもしれないという言葉を言っていないのではないか」と何度も聞かれました。でも、「殺されるかもしれない」という言葉を、私は絶対に伝えました。
母も、警察に何度も訴えてくれました。これだけは間違いありません。
(小金井市女子大生ストーカー刺傷事件 – Wikipedia)
責任逃れだ。
「あんたも悪いところあったんじゃない?」といわんばかりだ。20箇所刺された女性にそれをいうのだ。
冨田さんの悔しさは想像するにあまりある。
これと同じ警察の生態を、われわれは清水潔著「桶川ストーカー殺人 遺言」という本でつぶさに読むことができる。
あの当時はストーカー規制法そのものがなかった。1999 年の事件だ。あれからずいぶん時間がたち、法律もできたし、時代にあわせて改正され、進化している。
しかし、警察のこの態度はリピート再生みたいに、そっくりそのまま17年前なのである。
おそらくこのまま、変わらないだろう。瀕死の女性、殺された女性、被害者の家族を前にしても、警察は組織を守ることを選びつづけ、リピート再生を繰り返すだろう。
清水潔氏の本は、先日「文庫X」としても知られる『殺人犯はそこにいる』を読んだが、その中に桶川ストーカー殺人事件への言及があり、冨田さんの事件とそっくりじゃないかと驚いたのだった。
『桶川ストーカー殺人 遺言』は、現在並行して読んでいる2冊の本(うち1冊は松本清張)の次に読む予定にしている。さらにそのあと、同じ清水氏の書いた南京事件(南京大虐殺)についての本を読む予定だ。