kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

稲田朋美と安倍晋三をめぐる「シュールレアリズム」

稲田朋美について書かれた産経の記事を読んでいたら、看過できないフレーズが出てきた。

【稲田朋美防衛相辞任】首相の情けが将来の芽も摘んだ 何度も更迭の機会ありながら逸した(2/3ページ) - 産経ニュースより

 だが、(稲田朋美の=引用者註)力量不足は明らかで農協改革など重要政策では立ち往生した。最後は首相や二階俊博総務会長(当時)に泣きつくことが多く、党内の信望を失った。財政政策では財務省のシナリオ通りに動くことが多く、甘利明経済再生担当相(当時)らを怒らせた。


これで思い出したが、少し前の日経を読んでいたら、稲田が「財政再建派」であることを理由に日経が稲田を庇っていた。開いた口が塞がらなかった。直近では、ただ働き法案(「高度プロフェッショナル制度高プロ)」)を連合が容認しようとして*1周囲の反発を受けて挫折した件*2で、日経は連合を強く批判していた。

私はこのところ、読売や産経もひどいけれど、本当に日本で最悪の新聞というべきは日経ではないかと強く思っているのだが、最近はその思いをさらに強くする記事ばかりが載る。

日経の悪口はこれくらいにして稲田の話に戻るが、稲田が「財政政策では財務省のシナリオ通りに動くことが多」かったのは、安倍晋三が稲田にその役割を割り振ったからだ。その証拠は、この日記の過去の記事に残っている。

2年半ほど前、私は下記の記事を書いた。

自民、財政再建へ新組織 政府会議の民間識者参加(日経) - kojitakenの日記(2015年2月28日)より

 昨日(2/27)、本屋で講談社の写真週刊誌「FRIDAY」の表紙に、不穏な文字列があったので、おそるおそる中身を見たら、かつて加藤紘一の実家への放火を笑いものにして、映画『靖国 YASUKUNI』を検閲しようとした、あの人類史上稀に見る凶悪な極右政治家・稲田朋美を「次期総理大臣候補」として持ち上げるおぞましい記事が出ていた。しかも、それによると稲田は安倍晋三の指示を受けて財政再建に取り組み、ブレーンに土居丈朗を起用するとかなんとか、百田尚樹どころの騒ぎではない、おぞましさ全開の記事だった。最近は従来右翼的と思われた小学館の雑誌に安倍晋三批判が出始めた代わりに、小学館よりはだいぶ「リベラル」寄りだったはずの講談社の雑誌が極右化しているのが目立つ。

 で、「稲田朋美 FRIDAY 土居丈朗」を検索語にして、このおぞましい記事が引っかからないかと思って調べてみたが、約1か月前、1月29日付の下記日経の記事が引っかかっただけだった。

自民、財政再建へ新組織 政府会議の民間識者参加 :日本経済新聞

自民、財政再建へ新組織 政府会議の民間識者参加

 自民党は2月から歳出抑制の議論に着手する。稲田朋美政調会長をトップに特命委員会を設け、高齢化で膨らむ社会保障費などに切り込む。財政問題に詳しい土居丈朗慶大教授ら学識有識者を助言役に加える。機械的な歳出削減だけでは党内の反発も予想される。行政改革などの専門家も交え、規制緩和による経済成長を通じた税収増や公共サービスの効率化なども含めることをアピールしたい考えだ。

 特命委にアドバイザーとして加わる有…

日本経済新聞電子版 2015/1/29 2:00)


 露骨な緊縮財政路線じゃないか、これ。こんなことやってたらいくら「大胆な金融緩和」なんかやったって意味ないどころか、逆効果なんじゃないのか?

 いくら外交や安全保障、それに人権抑圧などのデメリットがあろうが、金融緩和とリフレを進めてくれるからという理由一点張りで安倍政権支持を言明している人士には、安倍政権がやろうとしている緊縮財政政策をどう評価するのか訊きたいものだ。(後略)

つまり、安倍晋三が自らが政権を稲田に禅譲したあかつきには、稲田に「財政再建」をやらせようとしていたわけだ。

現在、安倍晋三の正体が次々と暴かれている状況にあっても、「安倍総理以外では経済がダメになる」などと称して安倍を庇い立てようとする一連の動きがある。その中でも特に目障りなのは例の菊池誠とそのエピゴーネンたちだが(いうまでもなく菊池誠自身がリフレ派エコノミストたちのエピゴーネン(追随者)だが、往々にしてエピゴーネンは本家本元より思考が硬直していて言動が過激なのだ。本家本元(リフレ派の学者など)は曲がりなりにも専門家の集団なので、それなりに柔軟な思考ができるが菊池誠らにはそれができない)、彼らは安倍がいかなるロードマップを思い描こうとしているかに思いを致すことができないのだ。

安倍にとって金融緩和だのリフレ政策だのは、「自らの手になる改憲」を達成するための道具に過ぎない。改憲が達成できればリフレだの金融緩和だのはお払い箱だ。後始末は後継者の稲田朋美に適当にさせておけばよい。俺はそのための道筋をつけてやるんだ。その程度の思考で、安倍は稲田に「財政再建政策」を学ばせようとしたに違いない。

安倍が「防衛政策に疎い」稲田を防衛大臣に任命したのも、同様の思考によるものだろう*3。そのことは産経の記事も書いている。以下再び産経の記事から引用する。

 稲田氏の風評は首相の耳にも届き、首相は政調会長交代を決断するが、28年8月の内閣改造では防衛相に起用した。周囲は反対したが、首相は「彼女に安保・防衛を学ばせたい」と耳を貸さなかったという。

 防衛政策に疎い稲田氏は野党の格好の標的となった。8月15日の全国戦没者追悼式に欠席したことを民進党辻元清美衆院議員に批判され、涙ぐんだこともある。昨年暮れには、安倍首相の米ハワイ・真珠湾慰霊に同行した直後に靖国神社を参拝し、周囲を困惑させた。

稲田が防衛政策に疎い、という文章から思い出したが、昨日、某都会保守のブログが下記のようなことを書いて威張っていた。

 あえて言わせていただきたい。・・・私は昨年の内閣改造で、安倍首相が稲田朋美氏を防衛大臣に任命したのを知った時から、「安倍首相は人事で最大のヘボ・ミスを犯した」「稲田はいずれ問題を起こすに違いない」と予知、予言していた。<いくつかの場所で「○○○さんの言う通りになったね〜」と言われて、「でしょ、でしょ」と自慢してたりして。(^−^)>

(中略)

 稲田氏には、重要閣僚として仕事や答弁を行なう素養や資質もないし。しかも、特に安保軍事に関する知識は(下手すると○○○よりも?)乏しいんだもん。(ーー)
 だから、きっと防衛大臣問題ある言動を繰り返し、安倍首相の足を引っ張るに違いないと考えていたのである。(++)

稲田の防衛大臣就任当初から稲田の辞任を予想していたのは確かに慧眼といえるかもしれない。私は稲田が防衛大臣になった頃には稲田の辞任など全く予想していなかった。

上記のブログ主が菅政権時代の2010年に閣議決定した防衛大綱を高く評価し、これに懐疑的なコメンテーター(当時は当該ブログのコメント欄は面白く、ブログ主にもの申す人たちが結構いた)が批判的なコメントをつけたりしていたことは私もよく覚えている。

しかし、防衛政策の細部に詳しくなることには大きな落とし穴があるものだなあ、と思わされた一件があった。それは、昨年、自衛隊員が稲田朋美が「女性で頼りない」と誹謗するビラを作った時、件のブログ主が自衛隊員たちと一緒になって稲田を笑いものにしたことだ。何が言いたいかというと、ブログ主はいつしか「文民統制シビリアンコントロール)」という基本をおろそかにしていたのではないかということだ。最近の記事にも、同様の危惧を感じさせるものがいくつかあった。

今回の日報隠蔽に関するリークでも、最大の問題は『広島瀬戸内新聞ニュース』の表現を借りれば「『文民統制』どころか『文民暴走』」であることは言うを俟たないが、そうであってもなおかつ「自衛官のリークが防衛大臣の首を飛ばす」ことはあってはならない。『広島瀬戸内新聞ニュース』のみならず、菅野完にせよ世に倦む日日にせよそこだけはきっちり押さえていると私は思うが、上記某都会保守氏のブログからはそれが全く感じられない。そこに私は大きな不満を持つ。

自衛官のリークが防衛大臣の首を飛ばす」事態を避けるためには、主権者国民が稲田朋美、ひいては安倍晋三に「ノー」を突きつけなければならなかったのだ。しかし、前記都会保守氏に限らず、「リベラル・左派」を広く見渡しても、自衛隊員と一緒になって稲田の首を獲りに行こうという安易な行き方が目立った。

私は稲田の辞意表明の映像を見ていないが、岸井成格によると稲田はにこにこ笑いながら心境を「空(くう)ですね、空」と言ったのだという。確かに毎日新聞記事にそう書かれている。下記は有料記事だが冒頭部分だけは読める(時間が経てば冒頭部分も読めなくなる可能性が高いが、毎日の場合、有料記事と同じ内容の無料記事が公開されていたりするなど運営がルーズに過ぎる。このことが新聞社のイメージを大きく損ねていることを同社の担当者たちはよく考えてもらいたい)。

https://mainichi.jp/articles/20170729/k00/00m/010/136000c

稲田防衛相辞任
「空ですね、空」心境を問われほほ笑んで
会員限定有料記事 毎日新聞2017年7月28日 22時48分(最終更新 7月28日 22時54分)

 心境は「空」−−。南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(いんぺい)問題で引責辞任した稲田朋美防衛相は28日午後、就任以来約1年間トップを務めた東京・市谷の防衛省を去った。退庁する際、記者団に心境を問われると、「空ですね、空」とだけ語り、吹っ切れたようにほほ笑んだ。

岸井成格の解釈によれば、稲田の笑顔は「安倍政権の嘘を完全に守り切ったという会心の笑み」だったのだという。とんでもない話である。

なお、上記岸井の解釈は、いうまでもなく先刻『サンデーモーニング』で発したものだが、その前に、橋谷能理子が特別防衛監察の報告書に書かれた「幹部から日報の存在についての何らかの発言がなされたことは否定できない」という文言を読みながら吹き出してしまった一幕があった。

これは、防衛省幹部が日報の存在を稲田に報告している一方、稲田が報告を受けたことを頑として認めなかったために、両論を混ぜ合わせて上記のようなトンデモ文章ができ上がったものだろう。「誰がこんな文章を考えるんでしょうね」と言ったのは橋谷能理子だったか、関口宏だったか。

そういえば加計学園問題の国会の審議でも、「同姓同名の職員が(文科省に)おります」という奇妙奇天烈な答弁があった。

安倍や稲田がついた嘘を嘘ではないと強弁するために、国会の内外でシュールな言動が繰り広げられている。

これが「崩壊の時代」というものなのだろう。まさかこんな時代が来るとは思わなかったし、後世から見ても現時点を含むその前後の「崩壊の時代」の史料に接する者は、この時代の人たちはいったい何を議論していたのだろうかと目を白黒させ、「わけのわからない時代だった」として匙を投げられてしまうのではなかろうか。

ひところ、安倍晋三を言い表すのに「反知性主義」という言い方が流行ったが、あの言い方はそれを好む内田樹ら自身にブーメランになって跳ね返っていると思っていることもあって、私は必ずしもこの言い方を好まない。

それよりも、「シュールレアリズム」つまり「超現実主義」の方が、安倍晋三稲田朋美を表現するのにピッタリくるのではないか。

*1:主犯は事務局長の逢見直人=典型的な労働貴族

*2:次期連合会長を狙っていた逢見の野望というかクーデターも潰えたようだ。

*3:安倍の家庭教師が平沢勝栄だったことは有名だが、一連の人事において、安倍は稲田の家庭教師気取りだったのかもしれない。