前の記事でも取り上げた、浦沢直樹が描いた「安倍のマスク」*1のイラストを乗せたツイートが「炎上した」と評されているのだそうだ。ちゃんちゃらおかしい。以下、読売系のスポーツ報知と朝日系の日刊スポーツの記事から引用する。報知の記事は特に胸糞悪いが、日刊スポーツの記事もいただけない。
浦沢直樹氏「アベノマスク」イラスト公開でネット騒然「大ファンなので悲しい」
「20世紀少年」、「YAWARA!」などで知られる人気漫画家・浦沢直樹氏(60)が3日までに自身ツイッターを更新。「アベノマスク」と題したイラストをアップし、ネットを騒然とさせている。
浦沢氏が公開したのは、安倍晋三首相そっくりの男性が小さなマスクを付けて憔悴したような表情を浮かべているもの。安倍首相が1日、全国5000万超の全世帯に、布マスクを2枚ずつ配布する方針を明らかにしたことへ批判もあるが、この投稿にはファンからも「浦沢先生、大ファンなので悲しい。お疲れの総理に対してこれは…。今は茶化している場合ではないです」、「浦沢さん、最低です」、「漫画家がこれやるとなあ。ファン減るだろうなあ」などの批判の声が集まっている。
(スポーツ報知 2020年4月3日 15時16分)
アベノマスクのイラスト投稿、浦沢直樹氏に賛否の声
「YAWARA!」「20世紀少年」などの作品で知られる漫画家の浦沢直樹氏(60)が、“アベノマスク”のイラストを投稿し、ネット上で賛否を呼んでいる。
浦沢氏は2日、ツイッターを更新。ハッシュタグで「アベノマスク」と記し、安倍晋三首相らしき人物がやや小さめのマスクを着用したイラストを公開した。
この投稿に、ファンからは「風刺のきいた最高の絵」「漫画の粋です」「実物よりだいぶ可愛げがありますけどーーー笑かしていただきました!」と絶賛コメントが多数寄せられたが、その一方で「ファンだったのに、、残念です」「著名な漫画家が茶化してやる事じゃねーよな」「浦沢直樹さん、幻滅。ショック」などといった声もあがっている。
(日刊スポーツ 2020年4月3日16時15分)
出典:https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202004030000346.html
思うのだが、「大ファンなのに悲しい」などとツイートしてる奴は、実際にはファンでも何でもないのではないか。安倍晋三を茶化した漫画家が気に入らない、単なるネトウヨであろう。
この件に関するツイート。
そういう世代なのでよく知ってるけど、「YAWARA!」とかを除いて浦沢直樹って元から風刺的な漫画家じゃん。
— DJ Masaki Tanigawa (@newtanipro) 2020年4月3日
しかもポン・ジュノが一目置く漫画家だよ。
浦沢直樹は将来、新型コロナウィルス下の政治状況を描いた漫画を描けばいいんじゃね?
ポン・ジュノの名前は知らなかったが、調べてみると韓国の映画監督で、朴槿恵(パク・クネ)政権時代にはブラックリストに載せられていた左派の人で、もともと漫画家志望の人なのだそうだ。
同じ方(この日記にしばしばコメントを下さる谷川さん)のツイートより。
ふと思い出したので、浦沢直樹の代表作の一つ「MONSTER」を引用して安倍晋三を批判したこのブログの数日前の記事を載せときます。昔から読んでるブログだけど、書いてる人はたぶんそこそこ年輩の方かな。
— DJ Masaki Tanigawa (@newtanipro) 2020年4月3日
「MONSTER」安倍晋三 - kojitakenの日記 https://t.co/1y18PB39Fl
そりゃ私はもういい歳ですよ。浦沢直樹とほぼ同世代。少しだけ年下ですけど。
なんたって大阪万博に4回行きましたからねえ(当時は阪神間在住)。うち3回は休みの日に行って大混雑でしたが、大阪の会社に勤めていた親父と待ち合わせして、夜に行ったこともあります。小学生時代、あれほどワクワクした催し物はありませんでした。小学生でも高学年だったらもっと何度も万博に行っていたに違いありません。
ですから、1999年に『20世紀少年』の連載が始まった頃には、東京に住んでいたために大阪万博に行けなかった子供たち(確か浦沢直樹もそうじゃなかったっけ)はこんな気持ちだったのかって感じでした。
私は昔、『めぞん一刻』目当てで「ビッグコミック・スピリッツ」を読んでいた時期があって(主人公の五代君と同世代に当たります)、その末期に『YAWARA!』の連載が始まりましたが、特に面白いとは思いませんでした。浦沢作品にはまったのは『MASTERキートン』(「ビッグコミック・オリジナル」連載)がきっかけで、この作品も初めの方はそれほどでもなかったんですが、読み進むうちにどんどんはまっていきました。ことに7巻の「デビッド・ボビッドの森」が印象的でした。あの作品の原作者は、だいぶ前に亡くなった勝鹿北星*2氏ということになっていましたが、実際にはかなり早い時期から小学館の編集者・長崎尚志氏が絡むようになったと聞いています。ある時期から長崎氏の思想が反映されるようになり、そのあたりからはまり始めたのではないかと想像しています。
『MONSTER』は最初、『キートン』には及ばないと思っていましたが、7巻あたりから認識を変え、後半の11巻で完全にはまりました。この頃から「ビッグコミック・オリジナル」を毎号買うようになり、『MONSTER』の非公式のファンサイトでストーリーのあてっこに興じていたこともあります*3。この漫画は、「怪物」ヨハン、ヨハンを手術して生き返らせてしまった日本人医師・Dr.テンマ、ヨハンの双子の妹・アンナ(ニナ)の3人の物語です。私見では前半の主人公はDr.テンマですが、後半の第10~18巻は事実上ニナが主人公で、そのニナが出した結論が物語に終止符を打つというのが物語の大枠です。その大枠は長崎尚志が構想し、浦沢直樹はその枠内でかなり自由に物語を作っていったんじゃないでしょうか。このように推測するのは、真ん中の第9巻と最後の第18巻に二度のクライマックスがありますが、後半は前半でいったん出した結論を否定して、前半とは違う結論で物語全体を締め括っているからです。この二部構成はよく考え抜かれた明確なものですが、その反面、細部はかなり自由なストーリーになっています。また浦沢のコマ割りはまるで映画を見ているようで、手に汗を握らせるという魅力もあります。『MONSTER』は『キートン』と双璧をなす浦沢の最高傑作といえるのではないでしょうか。一方、もっとも人気の高い『20世紀少年』は、いずれまた時間があったら全巻を通して読み直したいと思いつつ果たせずに時間が経ってしまいました。
そうそう、長崎尚志は同じリベラル系の雁屋哲とは犬猿の仲のようですが、私は「小沢信者」系の雁屋は買いません。長崎氏の方が正統派なんじゃないでしょうか。
浦沢作品論に脱線してしまったが、こんなことで浦沢直樹を叩こうとするお馬鹿なスポーツ紙の記事を見るにつけ、改めてこの国の「崩壊」ぶりは半端でないところまで来てしまったんのだなあと思わされ、気持ちが暗くなる。