「重用」は「じゅうよう」としか読んだことがなかったので、下記の件には驚いた。
以下引用する。
日テレ藤井アナ 市來アナに謝罪 生放送で「重用」の読み方を…「私の知識が古かった」
10/6(火) 16:48配信
日本テレビの藤井貴彦アナウンサーが6日、同局「news.every」で、市來玲奈アナウンサーが「重用」を「じゅうよう」と読んだところ「ちょうよう」とささやき、市來アナは「ちょうよう」と読み直したが、実は「じゅうよう」が正解だったことを明かし、素直に謝った。 市來アナは、北朝鮮の労働党創立75周年のニュースで「核・ミサイル開発を主導した2人を重用(じゅうよう)し…」と読み上げたものの、その後不自然に言葉に詰まり、「ちょうようし…」と言い直した。 だがその後、藤井アナが「ここで少しお時間をください」と言いだし「先ほど、北朝鮮のニュースの中で核ミサイル開発を主導した2人を重く用いるという言葉で『じゅうよう』という表現があったんですけど、私の感覚が古くて、市來さんに『ちょうようだよ』って話しかけたら、実は『じゅうよう』の方が新しくて、私の知識の方が古いということが分かりました」と、自分が間違えていたことを認めた。 そして「市來さん、まずはごめんなさい」と後輩アナに謝罪し、視聴者にも「大変失礼しました」と謝罪していた。
(デイリースポーツより)
出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/0961cab43ed469c2b8b5277ab04554553367f74b
日テレは嫌いなので見ない。以前は、監視してこの日記で批判するために、土曜朝の辛坊治郎の番組(大阪・読売テレビ制作)を見たりもしていたが、あまりにも精神衛生上よろしくないのでそれも止めてしまって久しい。
だから藤井貴彦も市來玲奈も知らなかったが、ネット検索をかけると、藤井貴彦は1971年生まれで、市來玲奈は1996年生まれ。市來は「乃木坂46」の元メンバーだそうだ。
上記記事を読んで、一瞬「えっ、本来の読みは『ちょうよう』で、それが慣例読みである『じゅうよう』にとって代わられたのか?」と思った。ところが、上記記事についた下記「はてなブックマーク」コメント(ブコメ)をきっかけに、そうではないことがわかった。
日テレ藤井アナ 市來アナに謝罪 生放送で「重用」の読み方を…「私の知識が古かった」(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース
NHKでも原則としてジューヨーだった。マジか。チョーヨー派だっわ。 <a href="https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/197.html" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/197.html
2020/10/06 19:53
以下、上記ブコメから張られているリンク先のNHKのサイトより。
以下引用する。
「重用」の読みは?
2013.09.01
Q 「信長は秀吉を重用した」「この会社は若手を重用している」などと言う場合の「重用」について、[ジューヨー]と[チョーヨー]の2とおりの読み方を耳にします。放送では、どのように読んでいるのでしょうか。
A 原則として[ジューヨー]と読み、場合により[チョーヨー]と読んでもよいことにしています。 ➀ジューヨー➁チョーヨー
解説
「重」の音読みには「じゅう」と「ちょう」があり、「重」を用いた漢語には[ジュー~]か[チョー~]、あるいは両方の読み方をするものがあります。このうち、「信長は秀吉を重用した」「この会社は若手を重用している」など「人を重く用いる(登用する)」という意味の「重用」の伝統的な読みは[ジューヨー]です。戦前の国語辞書には「じュうよう」「ち"ゆうよう」など、いずれも[ジューヨー]の読み方だけが示されています。ところが、その後「大事なこと」を意味する「重要」(じゅうよう)との混同を避けるためか、あるいは同じ「重」を用いた「重宝」(ちょうほう)などの読みに引きずられたのでしょうか、「重用」を[チョーヨー]と読む慣用化が進んだようで、昭和30(1955)年には「ちょうよう 重用」の見出し語で一部の辞書に初めて登場しています。NHKが平成10(1998)年に行った調査でも、[チョーヨー]と読む人が8割に達していました。
こうしたことから、放送で従来認めていた[ジューヨー]に加えて、[チョーヨー]の読みについても認めることになりました。このときの放送用語委員会(第1195回-1999年2月12日)の決定は「放送では、文脈に応じて分かりやすい表現を工夫するのが望ましい。ただし、引用などで文字どおり読む必要が生じた場合は、1.ジューヨー 2. チョーヨーとする」となっています。つまり、放送では文学作品や文章を直接引用する場合などを除いて、「重用」は「重く用いる」「重要な地位に取り立てる」と言いかえるなど「耳で聞いてわかりやすい表現を心がけなさい」ということです。
ところで、私は放送の仕事に携わって40年以上になりますが、当たり前のことながら何年たっても、いくつになっても、ことばの本来の読み方や意味・使い方について自分の無知を思い知らされる日々です。実は、「重用」の読みも以前は「ちょうよう」だと思い込んでいました。取材・制作の放送の現場から当研究所に異動してきたのが平成10(1998)年で、上記の放送用語委員会の決定の1年前。この委員会での審議に接し、「重用」の伝統的な読みは「じゅうよう」だと初めて知りました。認識不足を改めて痛感した次第です。
(『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』p.402参照)
(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)
出典:https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/197.html
つまり「じゅうよう」こそ伝統的な読みだったのが、ある時期から「ちょうよう」という慣用読みが広まり、1955年には辞書にも載り、1998年には8割もの人が「ちょうよう」と読んでいたらしいのだ。これにはびっくり仰天した。
結局この読みはすたれたのか、それとも「重用」なる言葉に接する機会自体が少なかったのか、市來玲奈は「じゅうよう」という伝統的な読みをした。それが真相のようだ。
つまり、デイリースポーツの記事にある
私の感覚が古くて、市來さんに『ちょうようだよ』って話しかけたら、実は『じゅうよう』の方が新しくて、私の知識の方が古いということが分かりました
という「間違いを認めた」はずの藤井貴彦の認識はそれでもまだ誤りであって、「じゅうよう」の方が古いというか伝統的な読みで、「ちょうよう」は中途半端に古い、ある時期に隆盛を極めた慣用読みだったというわけだ。
今現在調べたら、「ちょうよう」と読む人の比率はどれくらいなのだろうか。ちょっと興味がある。たとえばネット検索をかけたら、下記のサイトがみつかった。
引用は省略するが、「重用」を「ちょうよう」と読めなければ「社会人として恥ずかしい」などと嘘八百を書き散らす、それこそ本当に恥ずかしいサイトが世の中にはびこっているのだ。だから今でも「ちょうよう」と読む人が多いのかもしれない。これまでの人生でずっと「じゅうよう」派だった私としては嘆かわしい限りだ。
ところで、デイリースポーツの記事には下記のブコメもあった。
日テレ藤井アナ 市來アナに謝罪 生放送で「重用」の読み方を…「私の知識が古かった」(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース
「じゅうよう」だと「重要」と混同するから「ちょうよう」にすべき。内閣は今すぐ閣議決定しなさい。
2020/10/06 23:14
これにも私は大反対だ。「ちょうよう」という読みから直ちに思い浮かぶのは「徴用」ではないか。そんな忌まわしい言葉と混同されるくらいなら、「重要」と間違われた方がよほど良い。
[追記]
本件だが、中国語でも「重」に2通りの読みがあるらしい。
「重複」の読みは「チョウフク」? 「ジュウフク」?|日本語・日本語教師|アルク
「重」という漢字には「ジュウ」と「チョウ」という二通りの音読みがあります。我々日本人はこれらの音の違いを特に意識していませんが、中国語でも「重」には「ジュウ」に相当する "zhong" という読みと「チョウ」に相当する "chong" という読みがあり、それぞれ意味が異なります。 "zhong" の方は「重い」という形容詞であり、"chong" は「重なる/重ねる」という動詞です。少々不正確ではありますが、「おもい」の音読みが「ジュウ」、「かさなる/かさねる」の音読みが「チョウ」と考えればわかりやすいでしょうか。
さて「重複」というのは「かさなりあうこと」という意味ですから、そこに含まれる「重」は「重い」の意味である「ジュウ」ではなく「重なる」の意味である「チョウ」と読むのが本来的であるということになります。ただし原則としては上の通りですが、中には「重婚」のように「重ねる」の意味で「ジュウ」を用いる例外も存在します(中国語では「重婚」は原則通り "chonghun" と読みます)。
「重用」とは「重く用いる」という意味だから、伝統的な読みが「じゅうよう」であるのは理に適っているといえる。