kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「敵」は少数派ながら影響力の強い「新自由主義右翼」だ

 昨日(10/28)公開した下記記事に少し補足したい。

 

kojitaken.hatenablog.com

 

 それは早稲田大学教授・橋本健二氏が「格差が経済成長を押し下げる」と指摘していることだ。『中流崩壊』(朝日新書)に出てくる*1

 よく、不当にも片仮名6文字で表記されることが多い安倍前政権の経済政策に欠落していたのはこの観点ではないかと私は前々から考えている。だから、コメント欄の一部で話題になっているキクマコ(菊池誠・阪大の物理学の教授)の安倍前政権の経済政策への硬直した賛辞は私には「うざい」だけでしかなかったし、最近どんどん「減税真理教」化してきて、富裕層や大企業への増税をほとんど言わなくなった*2山本太郎の失速と迷走は必然の帰結だと思う。

 実際、安倍前政権の経済政策に効果が見られたように思われたのは、発足直後から最初に消費税率を引き上げた2014年4月までの1年4か月間でしかなかった。リフレだけではダメだし、金融緩和や財政出動はもちろん必要だけれどもそれだけでは不十分で、ことに前政権のように財政支出に「米露やお友達」に極端な傾斜配分をするようでは経済政策が成果を挙げられなかったのは当然だと総括するほかない。格差の縮小と貧困の解消が、経済成長のためにも必要不可欠だと考える次第。

 

 橋本健二氏に言及した記事として、下記を挙げておく。

 

books.j-cast.com

 

 但し、上記リンクの書評は、私の評価では多分にミスリーディングなものだ。それを以下に指摘しておきたい。

 まず書評の終わり近くの部分を引用する。

 

「自由からの逃走」が怖い

 本書は後段で「中流崩壊」が社会や政治にどのような影響を与えていくのかについても言及している。

 例えば有名なドイツの社会心理学者エーリッヒ・フロム(1900~1980)は、中産階級が経済的自由を獲得する一方で、人々が孤独感などを克服するため権威に服従し、同じような服従志向の人々と一体化して精神の安定を得ようとする傾向があると指摘していた。いわゆる「自由からの逃走」だ。ドイツの下層中産階級ファシズムを支持する心理的基盤になったという。

 コロナ禍の各国を眺めれば、その萌芽はあちこちにある。ルーツとして、めんどりの庇護を求めるひな鳥の逸話(『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」)なども思い出す。(後略)

 

出典:https://books.j-cast.com/2020/10/12013168.html

 

 確かに橋本氏はエーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』で指摘された、中間層がファシズムの社会的基盤になったという仮説を紹介しているし、フロムの『自由からの逃走』のルーツとして、ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』で描いた「大審問官」の長大なエピソードにあるのではないかとの指摘には私も同感だ。

 しかし、橋本氏はそのあとに、「社会変革の担い手としての『中流』」と題した章を設け、幸徳秋水大杉栄の例を引きつつ「『中流』は進歩的な役割を担う」との見出しをつけている。

 そして、首都圏では「新自由主義右翼*3」が新中間階級の13.3%、旧中間階級の15.8%を占め、それぞれ全体の10.9%よりかなり多いけれども、「リベラリスト」も新中間階級の48.4%、旧中間階級の46.5%を占めていて、それぞれ全体の49.8%よりやや少ないながらも大差なく、それぞれの階級における「新自由主義右翼」よりずっと多いのだ。

 なお、前エントリにLintさんから「地方ではリベラルが激減して穏健保守が大幅に増え、おそらく新自由主義右翼も増えるのでしょうね」とのコメントをいただいており、穏健保守に関しては首都圏より地方の方が多いだろうなと私も思うが、新自由主義右翼に関してはそうではないだろう。おそらくもっとも多いのが東京都と神奈川県で、それに次ぐのが大阪府ではないかと私は考えている。「新自由主義右翼」はそういった都市部に集まってくると推測されるからだ。地方でネオリベに走ってもそうそうメリットがあるとは私には思えない。

 リベラルよ、眼を覚まして団結し、穏健保守とも一定の妥協をしながら手を組んで*4新自由主義右翼の思うがままの世の中を続けさせるな。橋本氏はそう言いたいのではないだろうか。

*1:どの頁に書いてあったかはすぐにはわからなかった。わかった時点でこの注を書き換える予定。

*2:そればかりか脱原発に対する情熱も失われた

*3:右翼という点ではファシズムと共通するけれども、新自由主義ファシズムとは違うと橋本氏は指摘している。

*4:実際、『中流崩壊』で橋本氏は「中流保守」と「中流リベラル」の連携を提言している。