kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

文民統制に反する海上自衛隊・伊藤弘の発言は問題だが、それよりももっと大きな問題は文民統制の能力を失った岸田文雄ら自民党が「防衛費増額」なる荒唐無稽かつ有害無益な公約を掲げたことだ

 海上自衛隊呉地方総監部・伊藤弘総監の発言の件だが。

 

mainichi.jp

 

 最近の新聞記事には珍しい無料配信なのでのちほど引用するが、「そもそもの前提」として「文民統制上問題がある」ことは最初に言っておかなければならない。しかし、議論が文民統制の点でヒートアップしてしまってそれ以上進まないのは最悪であって、大前提の問題点を押さえた上で、それよりもさらに重大な問題点をきちんと考察しなければならない。

 この点で、下記木下ちがや(こたつぬこ)氏の一連のツイートは評価できる。

 

 

 

 

 以上のツイートのうち、3件目にある「海自総監がこのような発言をせざるを得なくなったのは、防衛費GDP2パーセントという数字ありきの公約を自民党が掲げたから」という部分が問題の核心部だ。

 その伊藤総監の発言の要旨を、最初にリンクした毎日新聞記事から引用する。

 

社会保障費も必要、特別扱い受けられるのか」海自総監の発言概要

毎日新聞 2022/7/5 14:36(最終更新 7/5 18:00

 

 海上自衛隊呉地方総監部(広島県呉市)の伊藤弘総監は4日、参院選で防衛費増額が争点になっていることについて記者会見で問われ、「(増額を)もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、全くそういう気持ちにはなれない」などと述べた。【岩本一希】

 

伊藤弘総監の発言(概要)

 

記者 参院選で、防衛費をGDP国内総生産)比で2%まで増やすことも念頭にするとの議論がある。現場から見て、防衛予算の現状や2%という議論をどう考えるか。

 

伊藤総監 今、5兆円超の予算をいただいている防衛省として、それが倍になるということを、個人的な感想ですけれども、もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、私個人としては全くそういう気持ちにはなれません。というのは、社会保障費にお金が必要であるという傾向に全く歯止めがかかっていないわけです。どこの省庁も予算を欲しがっている中にあって、我々が新たに特別扱いを受けられるほどに日本の経済状態ってどうなんだろう、良くなっているのだろうかということを一国民としての感想ですが、思います。

 そして大事なのは、何を我々自身が必要としているか、ということをしっかりと積み上げる。整理して国民に提示していくということなんだろうなと思います。

 

 ロシアによるウクライナ侵略、これでミサイルや砲弾といった弾の数、それを十分持っておかないといけないという議論がしきりとなされていますよね。一方で、それに勝るとも劣らぬくらい重要な船、飛行機、潜水艦、これらを維持・整備していくということの重要性。通常艦艇も潜水艦も、実は塩の水につかっているんですよね。海水という。放っておくと基本、さびちゃうんです。航空機もたくさん持っています。固定翼もヘリコプターも。一般的な飛行機に比べると非常に低空を飛びます。海面すれすれを飛んでいる。基地に帰ると機体を洗っているんですね。そうやって塩水を落とすことによって、整備を少しでも楽にしようとしています。放っておくと、どんどん悪くなっていく。

 極論ですけど、ミサイルや大砲の弾をたくさん仮に買ったとしても、それを撃つプラットフォームである船の手入れを怠ったら海の上に出て行けない。

 

 目を引かれる装備とか技術とかいろいろあるんですけれど、もっと地に足を着いたメンテナンスですとかロジスティクス、ここにももっと注目をしてほしい。その辺に対する国民、一般の理解をいただけたらなというふうに思っています。

 

出典:https://mainichi.jp/articles/20220705/k00/00m/040/114000c

 

 過去に文民統制に反するとして問題になった件のうちもっとも印象に強く残っているのは、私が高校で政治経済を学んでいることに問題になった栗栖弘臣の「超法規発言」の一件だ。当時タカ派とされて急速に右傾化を強めているとされた福田赳夫政権時代の1978年になされた。

 下記は2018年の共同通信の記事へのリンク。

 

nordot.app

 

 記事では2002年に栗栖氏にインタビューした思い出話などが書かれているが、ここでは事実関係が記述された以下の部分のみ抜粋する。

 

自衛隊トップ、統合幕僚会議議長だった栗栖弘臣氏が「超法規発言」で事実上解任されたのは40年前の1978年7月25日だった。「敵の奇襲攻撃を受けた場合、首相の防衛出動命令が出るまで手をこまねいている訳にはいかず、第一線の部隊指揮官が超法規行動に出ることはあり得る」とメディアに発言したことが問題となり、金丸信防衛庁長官(当時)に更迭された。

 

 この記述からわかる通り、文民統制から逸脱しようとして暴走した武官の発言だった。

 高校の授業で社民主義者だった教師に教えてもらったのは、1965年に国会で問題になった「三矢研究」だ。ネット検索をかけると50年後の2015年に「しんぶん赤旗」が取り上げていた。

 

きょうの潮流

 

 いまから半世紀前。自衛隊の制服組が、ひそかに行っていた机上作戦が暴かれ、世を揺るがしました。「三矢(みつや)研究」と呼ばれ、戦前の国家総動員体制を再現させようと画策したものです▼朝鮮戦争を想定し、日本を一気に軍事体制に転換。研究では、核兵器使用や日米統合作戦司令部の設置、さらには国内の治安維持対策としてストライキの制限や秘密保護法の制定まで検討されていました▼文民統制からの逸脱と国民から大きく批判を浴びた研究は、自衛隊への不信感を高めました。軍が独走した戦前の反省から戦後は背広組(文官)が自衛隊を管理する枠組みがつくられてきたからです▼現行憲法にある「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」。シビリアンコントロールは政治が軍事に優先するという民主主義の基本原則です。いま、それを支える柱の一つが変えられようとしています▼政府が決定した防衛省設置法改正案は、同省内の「文官統制」の規定を外し、制服組が前面に出て自衛隊を運用していこうとするもの。安倍政権がすすめる海外で戦争する国づくりに向け、より効率的な体制をつくり上げる狙いです▼軍の権限が強くなることは国の将来を危うくします。同時に文民といえども、最高指揮権が安倍首相にあるのではいかにも危なっかしい。派兵推進の政治家と「軍部」を暴走させないためにも国民の監視が必要です。

(後略)

 

しんぶん赤旗 2015年3月7日)

 

出典:https://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-03-07/2015030701_06_0.html

 

 1963年*1三矢研究も1978年の栗栖弘臣の「超法規発言」も、ともに武官による逸脱だった。

 現在は、ロシアによるウクライナ侵略を奇貨として、(無能な)首相・岸田文雄を筆頭とする自民党の議員たち、つまり文民が率先して暴走しているのである。本来それを批判すべき野党第一党の立民も、党内右派の人間である代表の泉健太が(一定の歯止めをかける発言もしたとはいえ)基本的に与党及び時流に迎合して防衛費の大幅増額自体は認める発言をした。また×××新選組代表の山本太郎も、泉ほど前のめりではなかったものの、必要なら防衛費増額を認めると言った。

 それに対して武官である伊藤弘の方が、かえって常識的な観点から政府・自民党の暴走(この暴走ぶりにおいてはネットの主流はより過激だ)を抑えようとしたのが今回の発言だ。この倒錯ぶりこそもっとも強く批判されなければならない。文民の集団であるはずの自民党が、武官さえも非現実的だと指摘せざるを得ない荒唐無稽な公約を掲げてしまったことに問題の核心がある。参院選でこんな政党(自民党)に投票してはならないことは、あまりにも当たり前だ。

 その上で、実質的に自公与党の補完勢力でしかない第三極の諸政党である、日本維新の会・れいわ新選組・参政党その他の政党にも投票してはならないと弊ブログは書き続けている。

 なお、岸田文雄をその前任の2人の総理大臣だった安倍晋三菅義偉と比較すると常識的な「中道右派」だとする、一部の、というより自公政権批判派・野党支持者の多数の認識も間違っている。岸田とは、簡単に時流に阿って荒唐無稽かつ有害無益な「防衛費倍増」の公約を掲げるくらい無能にして非常識な宰相であり、本来こんな人間の政権をいつまでも続けさせるわけにはいかないはずなのだ。

 ただ、仮に岸田内閣が退陣した場合、現在の自民党の党内力学に従えば、後任になるのが岸田よりもっと右の、それこそ安倍や菅と同類の極右政権しか出てこないと思われ、それはそれで大きな問題なのだ。しかし、だからといって岸田自民党に勝たせるわけにはいかない。

 これらを論じた上で、文民統制の観点から伊藤弘の発言は認められないと釘を刺さなければならない。

 文民統制の議論だけにヒートアップして、その文民統制を行う能力を政府及び自民党がとっくに失っているという問題の核心をかすませる一部の人たちの議論は愚の骨頂だ。

*1:国会で議論になったのは1965年だが、研究が行われていたのは1963年だった。