kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

不信のなか処理水の海洋放出はじまる(高世仁のジャーナルな日々)

 2011年に東電が起こした東電福島第一原発事故*1で生じた放射性物質を含む処理水は、これまでタンクに貯蔵されていたが、そのうち放射線量の少ない処理水の海洋放出を東電が始めた。

 この件は、いやらしい問題があるので取り上げずにきたが、高世仁氏の下記ブログ記事が良いまとめになっていると思ったので、以下にリンクする。

 

takase.hatenablog.jp

 

 私が最初に「いやらしい問題」と書いたのは、高世氏が「中国ファクター」と表現した件だ。以下、高世氏の記事から引用する。

 

 この問題をどう見たらいいのか、迷っている人も多いだろう。ここに中国ファクター(中国が日本産水産物の輸入を停止、中国各地の日本人学校に嫌がらせなど)が絡んできて、「中国のいちゃもんを止めさせろ」といった言説が勢いを増している。こうなると、処理水の海洋放出自体を冷静に考えられなくなってくる。

 

URL: https://takase.hatenablog.jp/entry/20230827

 

 そもそも中国は大の原発推進国であり、今後の世界で重大な原発事故を起こす可能性がもっとも高い国だ。しかも独裁者・習近平が自らの神格化を推進するどうしようもない権威主義国家でもある。私は原発の推進と国家の権威主義の度合いには正の相関があるとの仮説を立てている。欧州が脱原発の度合いが高いのに対し、中国は気候変動対応をも錦の御旗として原発推進路線を驀進している。そんな中国の尻馬になど乗りたくないと強く思う一方で、12年前に東電原発事故を引き起こしたばかりの日本政府が平然と原発推進路線に回帰しつつあること自体は強く批判したい。そんな日本政府が漁業者との合意もそこそこに処理水の海洋放出を開始したことを批判する記事はどこかで書きたい。そんなジレンマを抱えていたのだった。

 立民代表の泉健太は、ここは右派に媚びる絶好の機会とでも思ったのか、中国批判だけに焦点を絞ったXを発信した。

 

 

 一方、立民前代表の枝野幸男NHKのインタビューに答えて、日本政府批判に力点を置いたコメントを発した

 

www3.nhk.or.jp

 

立民 枝野前代表 “処理水放出のプロセスに深刻な問題”と批判

2023年8月27日 19時33分

 

東京電力福島第一原発にたまる処理水の放出をめぐって、原発事故当時、官房長官だった立憲民主党の枝野前代表は、地元関係者の理解を得るプロセスをはじめ政府の対応が不十分だと批判しました。

 

立憲民主党の枝野 前代表はさいたま市で講演し「処理水を海に流す話がいきなり落ちてくるようなスタートから間違っていて、プロセスに深刻な問題があった。もうちょっと納得感を得られるようなやり方はいくらでもあった」と指摘しました。

また、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことについて、「政府が想定していなかったなら論外だ」と批判しました。

一方で、現在の野党の状況について、「今の政権に不満や不信が高いことは間違いないが、野党側に期待が集まっているかというと必ずしもそうではない。結党のいきさつから考えても、立憲民主党の理念やビジョンは私が責任を持って強く声を上げなければいけないと思っている」と述べ、所得の再分配立憲主義をより重視した理念を打ち出し、岸田政権に対じすべきだという考えを示しました。

 

NHKニュースより)

 

URL: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230827/k10014175881000.html

 

 最後の段落が何やらきな臭いというか、ようやく枝野が重い腰を上げようとしているのかなとも思う。また処理水放出問題に関する枝野のコメントが十全であるとは必ずしも思わない。しかし、岸田政権が漁業者にはもちろん日本国民一般に向けても十分な説明をしていないことがまず批判されるべきであることは確かだ。

 判断の基準は、処理水に含まれる放射性物質のレベルが本当に放出しても問題ないレベルであるかどうかが判断できるデータを政府が示しているかどうかにかかっているが、それができているようには到底思われない。

 そもそも岸田政権の姿勢は、一昨年に菅義偉が突如発表した処理水の海洋放出の方針を既成事実として強引に推し進めているだけなのだ。以下高世氏の記事から再度引用する。

 

 27日のTBS報道特集が判断材料を提供するよい特集を組んだ。

 

 まず福島第一原発に最も近い請戸漁港の漁民の、8年前の約束が守られなかったとの声を取り上げる。
 2015年、福島県漁連は建屋内の汚染水については処理後も海に流さないことなどを求め、東電と政府は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束していた。しかし2年前、「関係者の理解」のないまま、菅首相(当時)がいきなり「2年後に放出」決定を発表。地元から見れば、明らかな約束違反だった。東電と政府はその場しのぎの約束をして、地元に不信感を植え付けてきた。

 

 知り合いのジャーナリストや地元の人に私が聞いた範囲でも、公聴会などが開かれても、まともな議論にならず、まだ意見を言いたいと手が挙がっていても時間ですからと打ち切るなど誠実さが見られないことに憤っていた。
 
 東電は、浄化処理に使うALPS(アルプス)によって、セシウムストロンチウムなど、トリチウム以外ほとんどの放射性物質を取り除けると説明。トリチウムは世界の原発や関連施設からも放出されていて、福島第一原発からの量が特別に多いわけではないとも主張する。

 

 ただ、ここに大きな問題がある。実はタンク内の処理水は、一度ALPSで浄化処理をしたものの、7割近くはトリチウム以外の放射性物質も取り切れておらず、排出基準値を上回っているのだ。

 

 基準値超えが発覚したのは2018年8月。ALPSで処理されてタンクに溜められていた水に、法令の基準値を上回る放射性物質が残存しているとの報道がなされる。この報道を受けて東電は、この時点でタンクに溜まっていた処理済みの水、約89万トンのうち、トリチウム以外の放射性物質が法令の基準値を超えている水が約75万トンに達すると公表。報道されるまで隠蔽していたと批判され、ここでまた東電は国民の信頼を失った

 中でも「J1-D」と呼ばれる9基のタンク内の処理水は、排出基準を1万4000倍も上回る。最初の頃、ALPSで処理したものの、フィルターの不具合で骨にたまりやすいストロンチウムなどが残ったためだという。これをもう一度ALPSで処理すれば「大丈夫」と東電は言うが、これまでウソをついたり不祥事を隠したりを繰り返してきた東電がいくらきれいごとを言っても信頼できないという人は多い。

 

 処理水の放出は廃炉まで続くというが、原発内部からの溶融燃料デブリの取り出しもまだできず、政府が目標とする30年後の廃炉完了は全く見通せない。つまり汚染水は半永久的に発生し続けると考えた方がよい。

 説得力を感じたのが、原子力委員会委員長代理・長崎大学教授、鈴木達治郎氏のコメント。
「他の国(中国など)が危険だ危険だという説明には賛成しないが、中にはまだ放射性物質が入っていますので、純粋のトリチウム水とは違うものとして扱わなきゃいけないと思う。他の国の原発や施設からトリチウム水が大量に流れているからこれも大丈夫だという説明は私は間違っていると思う」

 

 鈴木氏は、放出する処理水のモニタリング方法についても疑問を呈す。

「(ALPSで)二次処理すれば確かにきれいになっていくと思うので、半年なり1年なりALPSがきちんと動きます。出てきた処理水は明らかに基準値以下になると、書類ではなく実際にやってみてデータを公開するプロセスがあって、初めて本格的に放出を始めましょうとなるのが筋だと思う」

 

 そして参考になると思ったのが、米国のスリーマイル島原発事故の後処理

 スリーマイル島事故で廃炉作業を指揮したレイク・バレット氏の説明によれば―

 当初はトリチウムを基準値以下にした処理水を川へ流す方針だったが、住民の反対もあり、「助言委員会」を作った。原発の科学者、大学関係者、普通の主婦を含む12人から成り、お互いに何かを主張し合うだけではなく、嚙み合った話し合いで、双方にとってウィンウィンの解決策を見い出そうとするものだった。話し合いがテレビで放映されることもあった。議論は10年以上におよび、処理水は大気放出することに決まった。大気に放出しても雨になり地上に落ちてくるので消えてしまうわけではない。助言員会と市民らはそれについて議論し、悪影響を最低限にできる措置が何なのか考えた。

 重要なことは「対話」である。日本政府や東京電力公聴会や委員会を開き、いろんな形で国民に伝えようとしたが、常に格式ばっていて、双方向のやりとりがないように見える。我々は(処理水処分の)他のやり方を探し求めたし、対話を他の人たちの目にも届くようにしたことで、安心感を広げていくことができた。(バレット氏コメント)

 

 反原発の人も入れるというのに感心した。しかし、考えると、そうすることで住民の信頼を得ることができる。対話と信頼が大事というのは政治のイロハでもあると思うのだが、わが国のトップは民の声を聴く耳を持たず、「丁寧な説明」という言葉だけを丁寧に繰り返すだけだ。

 スリーマイル島での実践を参考に、これからでもしっかり対話をしていくべきだろう。

 なお、福島の海産物は、県の検査の他に漁協で出荷する全魚種の検査を実施していて、基準値を超える魚が流通することはないので、安心して食べてください。

 

URL: https://takase.hatenablog.jp/entry/20230827

 

 高世氏の記事も、同記事が紹介したTBSの番組(私は見ていない)にも感心した。

 アメリカも、下手をしたらトランプを再度大統領に選びかねないおかしな国になりつつあるが、上記記事に紹介されたような解決に向けての対話のプロセスを重視するなどの点では、日本と比べるとまだ権威主義度が比較的低いとはいえそうだ*2。そのアメリカより権威主義度がさらに低いのがヨーロッパであり、日本は逆に中国やロシア寄りの権威主義度が高い国だといえるのではないかと思った。

*1:弊ブログが用いる略称は「福島原発事故」ではなく「東電原発事故」である。2011年のある時点以降現在に至るまで、一貫してこの略称を用いている。

*2:アメリカは1979年のスリーマイル原発事故のあと長らく新設原発建設を行ってこなかった。しかし最近再び新設原発建設路線に切ったことは懸念される。アメリカでトランプの人気が衰える気配を見せないことと共通する流れがあるように思われる。