衆参3補選は立民の3戦全勝、自民の2不戦敗を含む3戦全敗、維新の2戦2敗に終わった。昨年4月に行われた衆参5補選での立民4戦全敗、自民4勝1敗、維新1勝とは大きく様変わりした。
三春充希氏は島根1区がもっとも重要で、自民がここを落とすと衆院選の10議席を失うことになる一方、立民は支持率の桁が変わる(これまで1桁だったのが2桁になる)と言っていた。
三春氏は島根を立民が取るなら3選挙区は立民の全勝になるだろうと予測していたフシがある。実際その通りになったが、3選挙区の中で立民の勢いが一番弱かったのは東京15区だった。同区(というか私が居住する選挙区)で当選した酒井菜摘候補も確かに圧勝ではあったが、それでもその勝ちっぷりは他の2選挙区ほどではなかったのだ。
東京15区に関しては、選挙戦前から真偽不明の噂が飛び交っていた。曰く、自民党の調査だと立民の酒井菜摘候補がものすごくリードしているとか、立民の調査では一番集票力があるのは須藤元気だったので彼を野党共闘候補にしようとしたが共産党に断られたので酒井候補を立てたとか、維新の調査結果によると、投票先に酒井候補と立候補を予定していた共産党の小堤東氏を挙げた人を合計すると20%になり、日本保守党の飯山陽を挙げた人も9.2%いたとか、いろんな話があった。
そしてそれらはことごとく当たっていた。仮に須藤元気が野党共闘候補として受け入れられて立候補しても当選したに違いないと思わせる選挙結果だった。だが須藤氏はリベラル左派か保守か不明の人で(本人は元号新選組と参政党の2党に親近感を持つと言っている)、かつおそらく日本版MMT理論に基づく長谷川羽衣子流のものと思われる須藤氏の経済政策は共産党のそれとは相容れなかった。少し前の『しんぶん赤旗』に新選組の経済政策を批判した記事が掲載されたことを想起されたい。また須藤氏はワクチン陰謀論者でもある。このような人が「野党共闘」候補になれなかったのは当然といえば当然だ。結局、オーソドックスなリベラル系候補である酒井氏が「市民と野党の共闘候補」として擁立された。この「市民」表現に懸念や違和感を表明する向きもあったが、酒井氏はそんな懸念を蹴散らす圧勝という結果を出した。これに関しては、「市民」の意識もあれば、もう10年以上も住んでいるため「区民」の意識も少なからず持つようになった私には、そんなのはどっちでも良いじゃないかとしか思えないのだが、こだわる人はこだわるようだ。選挙でものをいったのは酒井氏が持つ不思議な浸透力の強さで、2度の区議選でもそれにものをいわせて高位当選した。また昨年12月の区長選でも、当選した都ファ系の大久保朋果には完敗したものの得票率21%の2位につけた。それらの選挙で区民から好印象を得ていたために、立民の内部調査で酒井氏が高スコアを出したといわれている。そして酒井氏は、区民の「反共」意識など懸念するほどもないことをはっきり示した選挙結果を勝ち取った。
ただ酒井陣営は先行逃げ切り型の戦いで、あと伸びはそんなになかったように思われる。選挙戦の終盤では維新の金沢結衣が無能な党代表・馬場伸幸の「立憲共産党」連呼に足を引っ張られる形で失速したのに対し、その手の極右的なあり方ならもっと純粋な形でそれを示している日本保守党の飯山が伸びた。維新の失速は良かったが、保守党の予想だにしなかった伸びは、今後の日本の政治にとって大きな懸念材料となる。私は選挙の前には飯山など泡沫候補としか見ておらず大いにみくびっていたので、多大なショックを受けた。この流れは私には読めなかった。自民党支持者のうち、故安倍晋三を熱狂的に支持する極右層は、維新にでも都ファにでもなく主に保守党に流れたとみられる。そしてその極右層は私の予想をはるかに超えて分厚かった。一方ライトな自民党支持者は、支持できる人が誰もいないなら地元の須藤さんでも、という感覚で相当の割合が須藤氏に流れたのかもしれない。
ここで三春氏のXをリンクして、3選挙区の最終結果を示す。
島根1区補選 開票終了
— 三春充希(はる)⭐第50回衆院選情報部 (@miraisyakai) 2024年4月28日
亀井亜紀子 82,691票(得票率58.8%)✅
錦織功政 57,897票(得票率41.2%)
長崎3区補選 開票終了
— 三春充希(はる)⭐第50回衆院選情報部 (@miraisyakai) 2024年4月28日
山田勝彦 53,381票(得票率68.4%)✅
井上翔一朗 24,709票(得票率31.6%)
東京15区補選 開票終了
— 三春充希(はる)⭐第50回衆院選情報部 (@miraisyakai) 2024年4月28日
酒井菜摘 49,476票(得票率29.0%)✅
須藤元気 29,669票(得票率17.4%)
金澤結衣 28,461票(得票率16.7%)
飯山陽 24,264票(得票率14.2%)
乙武洋匡 19,655票(得票率11.5%)
吉川里奈 8,639票(得票率 5.1%)
秋元司 8,061票(得票率 4.7%)…
最後の東京15区は埋め込みリンクだと途中までしか見えないので、以下に全候補の得票を改めて示す。
酒井菜摘 49,476票(得票率29.0%)
須藤元気 29,669票(得票率17.4%)
金澤結衣 28,461票(得票率16.7%)
飯山陽 24,264票(得票率14.2%)
乙武洋匡 19,655票(得票率11.5%)
吉川里奈 8,639票(得票率 5.1%)
秋元司 8,061票(得票率 4.7%)
福永活也 1,410票(得票率 0.8%)
根本良輔 1,110票(得票率 0.7%)
改めて書くが、飯山陽の得票率14.2%という数字は大きな衝撃だ。私が思い出すのは昨年4月の区長選であって、その選挙で私が投票した共産・社民支援の候補の得票率12.8%を、今回の補選での飯山の得票は上回っている。極右の脅威はここまできたか、との思いだ。しかも維新の元親玉の一人である松井一郎*1や都ファの女帝である小池百合子などもまぎれもない極右なのだ。
とはいえ東京15区で酒井候補が勝った影響も、島根1区の効果には及ばないながらも相当に大きい。仮に酒井候補が金沢候補に負けていたら、立民と維新との野党第一党争いは1勝1敗で決着がつかず、維新の脅威が強い状態が続いたに違いないからだ。だが酒井候補が圧勝したことによって、野党第一党争いには決着がついた。三春氏が予想したように、今後は立民の政党支持率が維新に水を開ける可能性が高いと私も思う。
立民の場合は、これらの流れに代表の泉健太が対応していけるかどうかが大きな課題になる。
また声を大にして言いたいのは、今年9月の立民代表選でも3年前と同じようにリベラルと保守のガチンコ対決をやってもらいたいということだ。現状だとどうしても現職の泉健太が有利になってしまうかもしれないが、妙な同調圧力が強く働くような事態だけは絶対に避けるべきだ。
最後に、橋下徹の下記Xについて少しコメントしておく。
維新・藤田幹事長「立憲との実力差を認識」 衆院選協力は否定(毎日新聞)https://t.co/eWAIU9121U
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) 2024年4月28日
➡ 今回の補選は事実上の野党間予備選挙。次の衆議院総選挙において東京15区に維新は擁立してはならない。擁立すればそれは日本のことを考えない単なる保身。
橋下はここで、維新は東京15区から撤退せよと言っている。
これに喜ぶ立民支持者がいたとしたらその人は馬鹿である。橋下は上記Xに続いて、下記2件のXを発信したからだ。
全力で戦って最後は有権者の判断に委ねそれに全面的に従うのが維新。大阪都構想の住民投票のプロセスが血肉になっていれば次の衆院総選挙では候補者を立てられるはずがない。もちろん立憲候補者を応援することもない。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) 2024年4月28日
上記Xの最後に「もちろん立憲候補者を応援することもない」と橋下が言っているところがポイントだ。
維新と立憲は選挙協力をしてはならない。有権者が冷める。選挙協力ではなく、候補者が重なっている選挙区においては総選挙前に潰し合う野党間予備選だ。候補者を乱立させて比例票だけを狙うのは万年野党への道。与野党一騎打ちの構図にして小選挙区勝利を狙うのが真の政権奪取への道。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) 2024年4月28日
実際にこれをやられたら最大の打撃を受けるのは酒井氏である。なぜなら今回の東京15区補選は右側が都ファ・民民連合軍、維新、超極右に三分裂してくれた上に、小池百合子が所詮は補選だからと候補者をケチって乙武洋匡を出してくれたためにたまたま勝てた選挙であって、これは宮武嶺さんや私が好む言い方でいえば典型的な「勝ちに不思議の勝ちあり」の結果に過ぎないからだ。仮に金沢氏に東京15区から撤退されてしまうと、その分だけ自民あるいは保守党のチャンスが増え*2、酒井氏には不利になってしまうのである。
激戦を勝ち抜いた酒井氏は現在は疲労困憊かもしれないが、次のピークへの登攀(とうはん)はこれまで以上に険しいと思われる。周囲の人々にも十分なサポートが求められるのであって、変な政局的な動きにかまける余裕など全くないと指摘しておきたい。