尖閣諸島沖衝突事件における中国の強硬姿勢だが、そのあまりの鼻息の荒さに驚き、ああ、中国もアメリカみたいになってきたなあ、というのが私の感想だ。ソ連崩壊後、アメリカの向こうを張る「世界二大帝国主義国家」の趣がある。
それとともに、この異常な強硬姿勢の裏には、内政がうまくいっていないことがあるのではないかとも疑っていた。そんな時、毎日新聞にこんな記事が載った。
http://mainichi.jp/select/opinion/kaneko/news/20100923ddm003070152000c.html
<moku−go>
中国の政治がおかしい。権力抗争のにおいがする。胡錦濤国家主席や温家宝首相は、保守派からの攻撃にさらされている。その結果、尖閣諸島衝突事件で日本に強硬姿勢をとっていると考えるべきだ。
中国が巡視船と衝突した漁船の船長の裁判に抗議して強硬な対抗措置をとっている。テレビのニュースは「国内の強硬な反日世論に配慮」といった説明だが、「国内の反日世論」は間違いだ。「何者かが扇動する反日世論」と言うのが正しい。なんのために? 胡錦濤おろし、温家宝おろしの権力闘争以外にないではないか。
中国共産党の政治局は北京の中南海地区にある。東シナ海の波は尖閣問題で荒れているがその背後には、中南海の暗闘がある。どうして? 10月に中国共産党の5中全会(中央委員会第5回総会)が開かれる。軍事委副主席人事など重要人事があるかもしれないからである。
先週の本欄で強調したように、今回の反日デモの発端は尖閣諸島の漁船衝突事件の4日前の9月3日(中国の「抗日戦争勝利記念日」)に起きた中国外務省門前ゲリラデモである。横断幕に書いてあった文字は「東海談判 売国共識 喪権辱国」だった。意味は「東シナ海ガス田の交渉は売国合意だ。国辱だ」である。
中国政府が日本政府と結んだ東シナ海ガス田共同開発合意を売国行為だと批判している。中国政府の最高責任者は温家宝首相。中国外交の責任者は共産党外事工作指導小組の組長である胡錦濤主席だ。中南海の反胡、反温勢力は、東シナ海の日中共同開発問題に集中砲火を浴びせているのだろう。
SMAPの上海公演中止が話題になっているが、気になるのは「日本青年上海万博訪問団」1000人の訪中延期である。訪中団を招待したのは温家宝首相、受け入れは共青団系の団体だ。
23年前、保守派に包囲され、改革派の胡耀邦総書記が失脚した。攻撃材料の一つにあったのが日本青年3000人訪中招待だ。胡氏は日本に媚(こ)びる親日派だと断罪された。
共青団は胡耀邦派の中核であり、胡主席の出身母体でもある。今回の延期通告は、温首相や共青団に逆風が吹いている証拠だ。
外務省前デモ、尖閣諸島の衝突に続いて9月18日(柳条湖事件記念日)には、衝突漁船の船長逮捕に抗議する全国統一行動があった。5年前の反日デモと比べれば不発に終わったといっていい。だがデモのあった場所は5年前とほぼ同じ。既視感のある権力闘争の光景だ。(専門編集委員)
なるほどね、と思った。
突飛な連想かもしれないが、今回の中国の行動から私が思い出したのは、1998年のビル・クリントン米大統領(当時)だった。ルインスキー事件で国内世論の激しい批判を受けていたクリントン大統領は、突如アフガンの空爆に踏み切ったが、当時の米国世論はこれを支持し、なんとクリントン大統領は支持率を回復したのだった。開いた口がふさがらなかった。
大統領のスキャンダルへの批判をかわすため、という帝国主義国最高指導者の勝手な都合で空爆されたアフガンとしてはたまったものではなかったに違いないが、それと同質のものを中国に感じてしまった次第である。