kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

最近読んだ本(2012年3月)

先月読んだ本。当ダイアリーでこれまでに取り上げた本は除く。


黒田清 記者魂は死なず (河出文庫)

黒田清 記者魂は死なず (河出文庫)


読売新聞大阪本社社会部長を務めたのち、「黒田ジャーナル」を創始し、阪神大震災が起きた1995年によくTBSの『NEWS23』に出演していた黒田清(1931-2000)の「唯一の評伝」(文庫本の帯より)とのこと。

私は読売新聞大阪本社版を定期購読したことはないが、70年代末に読売新聞社から出ていた「戦争」シリーズの本が本屋の書棚に並んでいたことは覚えている。買わなかったけれど。

1980年正月から、大阪読売は夕刊で「窓」というコラムを始めたが、同年2月頃、一度その紙面を目にして、朝日や毎日などの他の新聞とはえらく違うなという印象を受けた。その当時の大阪読売は、プロ野球報道を別にすれば「庶民の目線」で編集されていたといえるかもしれない。

しかしナベツネ渡邉恒雄)が台頭し、東京とはずいぶん毛色の変わった新聞づくりをする大阪社会部を目の敵にするようになって、社会部長・黒田清の運命は一転した。このあたりは魚住昭の下記著書に詳しい。


渡邉恒雄 メディアと権力

渡邉恒雄 メディアと権力


黒田清が亡くなったのは、上記魚住の著書が刊行された翌月、2000年7月23日だった。生前の黒田が最後に読んだ本がこの『メディアと権力』だったらしい。ナベツネが猛烈な勢いでのし上がっていく過程で大阪読売の「黒田軍団」を踏みつぶしていくくだりは、同書の中でも悲憤慷慨なくして読めない部分だが、まさかこの本が黒田が生前に読んだ最後の本だったとは。運命は残酷である。

本書第8章の「ポーランドの『戦争展』から読売退社まで(昭和59〜62年)」は、『メディアの権力』の第11章「異端排除」に対応する部分であり、そこでナベツネによって大阪読売の「黒田軍団」が潰される過程が描かれている。内容は本書の方がやや詳しいものの、大筋は魚住の著書をほぼなぞった形になっており、その点には物足りなさが残る。

魚住の本には巻末に参照文献と人名索引がついている。佐野眞一の『巨怪伝』(1994年)も同様の体裁をとっているが、本書にはそれらが欠けている。そこも物足りなさを感じる点だ。魚住の本には、第11章の参照文献として、黒田清著『新聞が衰退するとき』(文藝春秋, 1987年)と大谷昭宏著『新聞記者が危ない』(朝日ソノラマ, 1987年)が挙げられているが、おそらく著者の有須和也も同じ文献から引用を行なっているものと思われる。だから魚住本と本書の同じくだりを描いた部分がよく似たのだろうと思われる。

上記のような若干の不満はあるとはいえ、唯一の黒田清の評伝とのことだから、一読の価値はあると思う。


他に読んだ本。


犠牲のシステム 福島・沖縄 (集英社新書)

犠牲のシステム 福島・沖縄 (集英社新書)


成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか (岩波新書)

成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか (岩波新書)