kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

スティグリッツは安倍晋三に「お墨付き」を与えているか

一般には安倍政権の経済政策にあたかも「お墨付き」を与えているかのようなイメージを持たれているジョセフ・スティグリッツに、NHK飯田香織という記者がインタビューしている。

http://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2013_1107.html(注:リンク切れ)

スティグリッツ教授 日本に期待

2001年にノーベル経済学賞を受賞した、アメリカ・コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授。
アメリカでは、経済的に弱い立場の人たちの声を代弁してきました。そのスティグリッツ教授が来日し、アベノミクスの評価や成長のカギについて、ビズプラスサンデーの飯田香織キャスターが聞きました。
アベノミクスは成功するか?
 
飯田キャスター:
ことしに入って3度目の来日ですね。現段階で、アベノミクスの成果をどう評価しますか?
 
スティグリッツ教授:
依然、期待していますよ。

第1の矢=金融政策は、多くの人たちが予測したよりも成功したと思います。それも思っていた以上の成果が出たと言ってもよいでしょう。第2の矢=財政政策も効果を上げていますが、問題は消費税率が引き上げられたあと、どうなるのかという不透明感です。私自身は、消費税率の引き上げよりも炭素税の導入のほうがよいと思っています。消費税率引き上げの影響をオフセットするために法人税率を引き下げるという考えについては、誤りだと思います。法人税率を引き下げたからと言って、社会全体に恩恵が波及したことはこれまでになく、しょせん大企業の主張にすぎません。カギは第3の矢=成長戦略の実行ですが、最も政治的に難しいでしょうね。
 
飯田:
大企業が潤えば、賃金の上昇などを通じて社会全体に効果が波及するのでは?
 
スティグリッツ教授:
企業には手元資金が十分にあるのに使っていないではありませんか。それを使わせる方法を考えないといけません。また、富裕層について言えば、芸術品など高価なものを買ったところで、景気が良くなるわけではありません。ゴッホの絵画を買ったところで、ゴッホがこれ以上の絵をかけるわけではなく、雇用が新たに生まれるわけではありません。100年以上も前に亡くなっているのですから。普通の人が作ったものを、普通の人が買うことが大事です。大企業や富裕層からの”波及効果”は期待できません。
 
飯田:
アベノミクスが成功すれば、安倍総理大臣は、あなたのようにノーベル経済学賞を受賞できますか?
 
スティグリッツ教授:
(笑い)
「成功する経済政策」とは何かを考えるときに、アベノミクスは重要になってくるでしょう。
 
単純に、金融政策だけ、財政政策だけ、構造改革だけという政策は、過去のものになるでしょう。同時に実行する、包括的な政策が必要です。同時に3つの政策なんて実行できないという人もいます。成功すれば同時にできることを世界に示すことになります。確かに難しいでしょう。大事なのは前向きな構造改革を進めることです。とかく規制を撤廃したり雇用のセーフティネットを外したりすることが議論されがちですが、それでは社会はどん底に落ちてしまいます。女性が働きやすい社会をつくり、経済のグローバル化を進めること。安倍総理大臣がそうした前向きな構造改革を実行することを期待しています。

量的緩和には”配管整備”を
 
飯田キャスター:
アメリカ経済の現状をどう見ますか?
 
スティグリッツ教授:
ぜい弱です。住宅市場は一時よりは回復していますが、リーマンショック以前の状況からはほど遠いです。アメリカ政府の機能不全も問題です。これは政治問題と同時に、社会問題が根底にあります。まず、共和党民主党の対立があまりにも激しくなっています。両者の世界観が違い過ぎるのです。アメリカは貧富の格差で二極化しました。僅か1%の階層に富が集中し、巨大な政治力を持つようになりました。
 
飯田:
おととし全米で広がったウォール街への抗議運動では、一部の富裕層だけが優遇されていると抗議の声が上がりました。スティグリッツ教授はこの運動を支持し、現場に足を運んでいましたが、その後、状況は変わったのでしょうか?
 
スティグリッツ教授:
大多数、99%の市民の状況は何も変わっていません。
 
それでもあの運動はアメリカ全体に対して不平等の現状を直視させる効果があったと思います。今、運動はなくなりましたが、それは問題が解決したからではありません。2009年以降、アメリカが新たに生み出した富のほとんどがトップ1%の富裕層に流れました。問題はむしろ悪化しているのです。
 
飯田:
来年2月、アメリカの中央銀行FRBの議長にジャネット・イエレン氏が就任する予定です。夫のジョージ・アケロフ氏は、スティグリッツ教授と共同で2001年のノーベル経済賞を受賞しましたので、イエレンさんもご存じですか?
 
スティグリッツ教授:
彼女は教え子でした。すばらしい学生でしたよ。私がイエール大学の教壇に立った最初の年の学生でした。発想が豊かで、とてもよい論文を書きました。彼女はすばらしいFRB議長になると思いますよ。
 
飯田:
イエレン議長の下で、金融政策は変わりますか?
 
スティグリッツ教授:
これまでの政策を継続するでしょう。私自身は、今の量的緩和の効果はそもそも大きくないと考えています。ですから今後、量的緩和を縮小したとしても、さほど大した影響は出ないでしょう。 アメリカで量的緩和があまり効果がなかったのは、そもそも金融機関の問題を解決していなかったからです。蛇口をひねって大量の水を出しながら、水が全体に流れるように配管が整備されていなかったのです。このため、お金が全米の必要なところに行き渡りませんでした。中小企業に対する貸し出しは、リーマンショックの前と比べて、今なお20%下回っているんです。FRBがあれだけ緩和しても、期待された効果が出ていないのです。

取材を終えて

スティグリッツ教授のインタビューをしたのは、去年8月以来、3度目です。アメリカの政治状況や金融政策に失望しつつ、日本の経済政策、金融政策に期待感を強めているのを感じます。また、量的緩和を進めても、金融という配管が整備されていなければ資金が経済全体に行き渡らないという指摘は示唆に富むと思いました。

NHK 2013年11月7日 17時00分)


スティグリッツは確かに安倍政権の「大胆な金融緩和」は評価している。しかし、その点を除けば、赤字ボールドにした部分、すなわち、消費税増税法人税減税への反対、炭素税(環境税の一種)の推奨*1トリクルダウン理論の否定、財政政策との組み合わせの重要性の指摘、規制撤廃セーフティーネット破壊への批判などなど、「大胆な金融緩和」を除く安倍政権の経済政策のほとんどすべてを否定しているようにしか私には見えない。

それでもスティグリッツは安倍政権へのリップサービスは忘れないが、呆れたのは飯田香織の質問だ。大企業が潤えば、賃金の上昇などを通じて社会全体に効果が波及するのではないかというのは、トリクルダウン論の否定を引き出すための質問かもしれないが、スティグリッツが指摘するアメリカ経済の問題点は、程度の差はあれ明らかに日本にも当てはまるのに(特に金融緩和には「配管整備」が必要だという指摘)、そのことには突っ込まない。呆れ果てたのは、安倍晋三ノーベル賞を受賞できるのではないかなどという馬鹿げた質問を発することによって、貴重なインタビューの時間を無駄にしたことだ。こういう質問は、NHKの経営委員に就任するらしい百田尚樹ら極右に媚びる、飯田香織なりの処世術なのかもしれないが、醜悪の一語に尽き、飯田という人間に対する私の偏見を決定的にした。

*1:思い出したのは民主党政権が発足したばかりの2009年に、「小沢信者」どもが一斉に「環境税反対」の声を挙げていたことだ。当時私は、経団連環境税に反対していることを指摘し、「小沢信者」は経団連の仲間なのだろうと揶揄したものだ。