kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

スコットランド独立否決/2017年にイギリスがEU離脱を選択するなら、スコットランドは改めてイギリスからの独立運動を起こせば良い

スコットランド独立の可否を問う住民投票で一躍テレビの画面に現れる機会が増えたエディンバラアダム・スミスアーサー・コナン・ドイルを生み出した町だが、エディンバラ城や古い町並みが目を引く。しかし、歴史的に見れば住民たちが幸せな人生を送っていたわけではない。Wikipediaを参照すると、NHKで今年(2014年1月16日)に放送された「世界ふれあい街歩きエディンバラ 旧市街から新市街へ』」を情報源として、下記の記述がなされている。

18世紀の人口過密と悲劇的事件、新たな都市計画

18世紀前半、エディンバラは人口密度が過密になり、ヨーロッパでも有数の過密で不衛生な都市となっていた。人々は小さな部屋にぎゅうぎゅう詰めの状態で暮らしていた。建物は地上での階層を高くしただけでなく、地下深く、何層にも掘るようにして部屋が作られていった。そして、より貧しい人ほど、より地下深くの部屋で暮らしていた。地下深くには太陽の光がほとんどまったく入ってこない。当時、下水も完備されておらず、街の汚水が地下の居住空間にまで流れ込んできて不衛生で、ひどい悪臭が充満していて、空気はじめじめと湿っていた。そんな状態だったので(当然の結果だが)病気が流行し、ペストまで発生した。当時の権力者はペストが流行することを恐れ、貧しい人々を地下空間に閉じ込めたまま地下空間への出入り口をふさがせてしまった。つまり生き埋めにしてしまったのである。生き埋めにされたのは大人だけでなく、子供もいた。一方、金持ちの人々は、エディンバラのこの不衛生な街並みに見切りをつけ、別に新たな、太陽の光があふれた理想的な街並みを作ることを計画し、18世紀後半に建設を開始した。そのようにして作られたのが現在の「New Town 新市街」である。そして従来のエディンバラの街並みは「Old Town 旧市街」と呼ばれるようになった。(近年、生き埋めの悲劇が起きた地下空間とその出入り口が発見され、見学できるようになっている。子供が死んでいたところには、その慰霊のためか、ぬいぐるみなどのおもちゃを置く人も多いようで、山のようになっている。)


劣悪な生活環境は何もスコットランドばかりではなくイングランドも同じで、ブロンテ三姉妹を生んだハワースの19世紀における平均寿命は24.6歳であり、短命で知られるブロンテ三姉妹は、実はハワース村では長命の部類だったという*1。また工業都市における労働者の短命は言わずもがなであり、リヴァプールにおいては「1840年には上流階級(紳士階級、自由職業者等)の平均寿命は35歳、商人と上層手工業者のそれは22歳、労働者、日雇労働者および僕婢階級一般はわずかに15歳にすぎなかった」*2そうだ。もっとも20世紀初頭の日本・東京においても、明治末期から昭和初期にかけて行われた荒川放水路(現在のいわゆる「荒川」の下流域)の開削事業において、1922年(大正11年)1月11日に、11歳の少年作業員が殉職している。自らも同事業の作業員であった伊東銀河という人が、句文集『かつしか』に書き残しているという。下記新書本の154〜160頁に出ている。


首都水没 (文春新書)

首都水没 (文春新書)


安倍晋三の言う「日本をトリモロス」がいかにナンセンスな言葉かということは、この例一つとっても明らかだが、同様に、スコットランドが300年の昔に独立国だったからといって、現在も独立した方が良いとはいえない。リベラルや左派の間では「スコットランド独立論」の方が支持されたようだが、それには昨年死んだマーガレット・サッチャーのいわゆる「サッチャリズム」の悪印象によるところが大きいのであろう。実際、イギリスは核ミサイル搭載潜水艦の母港をスコットランドに押し付けるなどしていた。しかし、現実にはスコットランドから中央に流れる富の流れよりも、中央からスコットランドに再分配される富の流れの方が大きいという。つまり、スコットランドが独立した場合、イングランドスコットランドの格差が拡大する懸念が大きいのである。これを考慮すると、リベラルや左派が単純な思考と心情に基づいて安易に「スコットランド独立支持」の立場を表明してしまって良いのかという疑念は拭えない。私がアナロジーとして持っているイメージは、中産階級の少なくとも下半分以下の人々が「所得税減税」に賛成することのナンセンスさであり、「減税日本」代表の河村たかしの言動を安易に「庶民革命」などと持ち上げた人々の愚かさである。これには、橋下徹の「道州制」がひところ「リベラル」側からかなりの支持を得ていたことと合わせて、アブナさを感じずにはいられない。イギリスの保守党政権は3年後の2017年にEU離脱を問う国民投票を行うそうだが、スコットランドが「欧州(EU)志向」というのなら、この時にイギリスのEUからの離脱に反対し、イングランドなどの賛成多数でEU離脱が決まれば、その時改めて「EU加盟とイギリスからの独立」の運動を起こせば良いのではないか。そうなれば、今度は圧倒的多数をもって独立が可決されるだろう。もちろんイギリスがEUにとどまるのであれば、スコットランドの独立の必要はなかろう。

さて、この文章は実はアーサー・コナン・ドイルの『最後の挨拶』及び『恐怖の谷』について書き始めた記事の前振りのつもりだったのだが、それがあまりにも長くなってしまったので、この記事を独立させてアップすることにした。

*1:http://www.tourguide.org.uk/Sightseeing/Haworth.htm

*2:http://www.kikukawa-dent.jp/article/14290508.html, 立川昭二『病気の社会史 文明に探る病因』(NHKブックス,1971)経由でフリードリヒ・エンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態』(1845)より引用とのこと。