ピケティ・ブームに伴って、「トリクルダウン理論」なるものがまたぞろ(ネガティブな)脚光を浴びている。安倍晋三は自らの政権の経済政策は「トリクルダウンではない」と国会で答弁したが、それに先立つ1月29日にピケティを招いて東大で行われたシンポジウムでは、安倍晋三の側近である西村康稔が「トリクルダウンの試み」とのタイトルがついたプレゼンテーション資料を用いて安倍政権の経済政策を説明したものの、ピケティに批判されたと一部で報じられている(未確認)。
そんな今日この頃、下記の本を読んでいたら「トリクルダウン」の話が出てきた。
- 作者: 宇沢弘文
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1989/01/20
- メディア: 新書
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以下引用する。米レーガン政権の経済政策をめぐっての話。
ラッファーの命題についてもう一つの問題点は、平均税率の引き下げというとき、高額所得階層に対する減税率を高くするという点に焦点を当てられていたということである。のちに、レーガン政権の内部でも、さすがにラッファーの命題をめぐって、意見の対立がみられるようになったというが、そのとき、当時の予算局長であったデヴィッド・ストックマンが、サプライサイドの経済学でなくして、本当は「トリクル・ダウン理論」(Trickle Down Theory)と呼ぶべきであると主張したのは、減税政策の政治的意味を的確に見抜いていたものであった。減税法案は、平均税率の引き下げに名を借りて、じつは、最高所得階層の税率を七〇%から五〇%に引き下げることが目的であって、それは、高所得階層にまず恩恵を施すことによって、その恩恵が雫の滴り落ちるように、低所得者層にまで及ぶという考え方が基礎になっていて、「トリクル・ダウン理論」と呼ぶべきであるが、政治的には好ましくないので、サプライサイドの経済学と呼ぶことにしているのだというのが、ストックマンの説明である。
(宇沢弘文『経済学の考え方』(岩波新書,1989)203-204頁)
但しこの箇所に出典は明記されていない。
思ったのは、案の定、「トリクルダウン理論」というのは、その発祥からネガティブな政治的意味合いを込めて用いられていた言葉なのだなということ。だから、安倍晋三も自政権の経済政策は「トリクルダウンではない」と言い張るのだろう。しかし、その同じ言葉が、安倍晋三の周囲にいる甘利明や西村康稔(?)らによって肯定的な意味を込めて使われているようだ。いったいどうなってるの?
また、ひところ名古屋で流行った河村たかしの「減税日本」(小沢一郎一派のサテライト政党?)も、その正体は「トリクルダウン政党」にほかならないのではないかとも思った。
ところで、上記ストックマンでググってみて、面白そうな本の存在に気づいた。
- 作者: デイヴィット・A.ストックマン,阿部司,根本政信
- 出版社/メーカー: サンケイ出版
- 発売日: 1987/04
- メディア: 単行本
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レーガン政権の経済政策のブレーンだったストックマンが、前非を悔いて書いた「懺悔の書」とおぼしき本『レーガノミックスの崩壊』の日本語版は、なんと「サンケイ出版」から出版されていたのだ。昔(1987年)の産経は、たまにはまともな本を出していたということなのか。