kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

ブラック企業と長時間労働と経団連と

先日下記の本を読み終えた。最近は面倒になってきて読書記録をあまり書かないが、並行して田中慎弥の小説本を2冊読んでいた。但し『宰相A』ではない。



ひところずいぶん騒がれた「ブラック企業」だが、ここにきて関心がやや下火にでもなっているのか、はたまた事実上「ブラック企業」に塩を送る経済政策をとっている(としか私には思われない)安倍政権への批判が「壁に耳あり障子に目あり」式の人々の不安感によって自粛されるという有害きわまりない風潮のせいか、あまり語られなくなっているように思われる。

私自身は現在「ブラック企業」の餌食になっている人たちよりずっと年長だが、かつて勤務していた一部上場の大企業でも、とんでもない「ブラック部署」が存在したと断言できる。この目でその恐るべき労務管理の実態を見てきたのでよく知っているのである。むしろ、そういった大企業こそ、上記の本でも実名で批判されているワタミゼンショーすき家)やヤマダ電機といった「ブラック企業」の源流であると実感する。「ブラック部署」の存在を許してきた、経団連の役員を輩出するような一部上場の大企業こそ「ブラック企業」そのものであり、経団連ブラック企業の意を体した圧力団体にほかならない。日本を食い潰すシロアリ。それが経団連の正体である。

さて、この記事も最近の私の例によって手抜きをして、本の中身を紹介する代わりに、著書・今野晴貴氏のブログ記事を引用・紹介することにする。

ブラック企業名公表、その効果は?(今野晴貴) - 個人 - Yahoo!ニュース(2015年5月15日)

ブラック企業名公表、その効果は?
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
2015年5月15日 16時13分


政府はブラック企業対策の一環として労基法違反企業の名前を公表するという。

ブラック企業名、早期公表=送検前でも―厚労省(時事通信)(引用者註:リンク切れ)

労基法違反の「企業名の公表」はもちろん有意義だ。書類送検前の企業名公表は、私も与党の議員と懇談する機会があるたびに求めてきた内容でもある。

だが、それだけではブラック企業対策として不十分な理由が三つある。

(1)監督官の数が不十分で取り締まりきれない

(2)労基法の範囲は狭く、パワハラや解雇は規制の対象外

(3)労基法違反を繰り返して「開き直っている企業」には効果がない

それぞれ紹介していこう。


監督官の数が少ない

第一に、監督官の人数が少なすぎる。労働基準監督署の職員数は慢性的に不足している。監督官は現在全国に2900人いる(2013年)。だが、実際に第一線で監督業務に従事しているのは1500〜2000人ほどだ。

東京23区を監督する監督官の数は、管理職を含めて120人ほどに過ぎない。これでは、十分に違反企業を捜査することができないだろう。

結局、一部の企業だけが「見せしめ」のような形で取り締まられることにならざるを得ないのではないだろうか。

また、下手をすると、今回の対策で「企業名が公表されていない企業は、ホワイトだろう」という誤解を広げてしまうことにもなりかねない。


そもそも労基法は「ザル」

次に、長時間労働パワーハラスメントは、ブラック企業の典型的な被害である。

今回の対策でも「違法な長時間労働を繰り返す「ブラック企業」について、18日から企業名を公表する」とされており、「公表の対象となるのは、違法な長時間労働を1年以内に3か所以上の支社や営業所などで繰り返し、労働基準監督官から是正勧告を受けた大企業。

具体的には、労働基準法が定める労働時間「1日8時間・週40時間」を超えた労働が月100時間を上回り、労働組合と残業時間に関する協定を結ばないなど法令違反がある場合」(読売新聞)だという。

だがこれは、逆にいえば「労働組合と協定を結べは」どんな長時間労働も違法ではないということだ。実は、「36協定」という労基法の悪名高い規定が、労働時間の上限規制を実質的に無効化してしまっているのである。

しかも、会社が協定を結ぶ相手は労組ではなく、「従業員代表」でもいい。

この「従業員代表」がやっかいで、使用者から「やってくれ」と頼まれて引き受けている「普通の社員」がほとんどなのだ。形式的に社員が選挙した書類を整えれば、取締られることはない。

形式的に選挙をして選ばれた「普通の社員」に会社との協定を拒むことなど、できるはずもないだろう。だから、たいていのブラック企業では、「合法」に長時間労働が行われている。

今回の対策では巧妙なブラック企業の名前を公表することはできないだろう。


パワハラや解雇は対象外

さらに、そもそもパワーハラスメント労基法違反ではない。労基法は刑罰を定めた国の法律なので、司法警察員である監督官が取り締まることができる。だがこれは、刑罰が定められている残業代不払いや強制労働などに限られているのだ。

だから、当然どんなにひどいパワハラをしていても、今回の対策で企業名が出ることはない。

同様に、違法な解雇をした場合でも、ひと月前に予告をしていれば、労基法違反になることはない。


違反行為を繰り返してきたブラック企業

第三に、労基法違反を繰り返している企業も存在する。

通常の企業であれば、労基署が指導に入った段階で改善に向けて動き出し、問題は解決する。しかし、「ブラック企業」の場合にはそうはいかない。中には、違法行為の証拠が発見されて指導が入っても、これに従わない企業もあるのだ。

そうした企業に、有名な「すき家」(ゼンショーホールディングス)がある。同社ではアルバイトに残業代を支払わないなど、労基署から度重なる指導を受けていた。2014年7月に提出された同社の第三者委員会による「調査報告書」によると、二年半の間だけで20回以上もの是正勧告を受けていることがわかる。

もちろん、企業名も大々的に報道されていたが、それでも違反行為を繰り返していたのだ。

「反省しない企業」には、企業名公表の効果も限られてしまうというわけだ。


ブラック企業の「合法化」

ところで、今国会で審議されようとしている、いわゆる「残業代ゼロ法案」も、ブラック企業の違法行為に関係している。

年収1075万円以上の「高度プロフェッショナル人材」を対象とした制度の影に隠れているのだが、実は、「普通の営業職」の人たちの、事実上の「残業代ゼロ」を合法化する内容も、この法案には含まれているのだ。

裁量労働制とは、あらかじめ働く時間を「みなす」制度で、正確な労働時間に応じた賃金が支払われない制度だ。今でもブラック企業はこの仕組みを悪用していて、特にIT企業では、SEの残業を「40時間」などとみなしておいて、実際には100時間以上残業させるなどのやり口が横行している。

今度はこれを、営業職にまで拡大しようというのだ。法案では「法人営業」全般に拡大されることになっているが、法人と無関係の営業などあまり考えられないから、「営業職」はほとんどが対象となる可能性がある。

繰り返しになるが、この裁量労働」には、年収要件は存在しない。

こうした法律が通ってしまうと、今では違法なブラック企業のやり口も、一部は合法になってしまう危険が高いのだ。

今回のような労基法違反の企業名公表といった措置がとられたところで、「違法ではありません」というブラック企業がますます増えてしまうのでは意味がないだろう。

ブラック企業を対策するためには、企業名の公表だけではなく、逆に労基法に労働時間の上限規制を設けるなど、抜本的な法的対策が必要ではないだろうか。


参考:企業名公表の効果と、「残業代ゼロ法案」についての詳細な分析は『ブラック企業2』(文春新書)を参照してほしい。

ブラック企業」の豊富な事例から、どのような政策が必要なのか、今の法改正の問題はどこにあるのかを徹底的に分析した。

『ブラック企業2 「虐待型管理」の真相』(文春新書)2015年3月刊


最後に、大企業の長時間労働について書かれた、6月1日付東京新聞の記事を引用しておく。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015060102000118.html

過労死基準超 依然7割 残業時間、企業任せ

 本紙は、二〇一二年に大手百社を対象に実施した長時間労働の実態調査について、その後の改善状況を知るため再調査をした。その結果、厚生労働省の通達で過労死との因果関係が強いとされる月八十時間以上の残業を従業員に認めている企業が、前回と同じく七割に上った。国会で審議入りが予定される労働基準法改正案は、長時間労働をしても残業代や割増賃金を支払わなくてよい対象を広げる内容で、企業側の過労を防ぐ意識が一層重要になるが、長時間労働に依存した働き方は根強い。

 一二年四月に調査した東証一部売り上げ上位百社(一一年決算期、合併で現在は九十九社)を対象に昨年十一月、各本社所在地の労働局へ「時間外労働・休日労働に関する協定(三六協定)届」を情報公開請求した。

 今回開示された資料によると、「過労死ライン」の月八十時間以上の残業を認めている企業は、前回調査の七十三社から七十二社、月百時間以上も三十八社から三十七社と、ほぼ横ばいで改善は見られなかった。

 最長は関西電力の月百九十三時間。日本たばこ産業(JT)が百八十時間、三菱自動車が百六十時間と続いた。

 中部電力大日本印刷など十二社が時間を引き下げ、逆に八社が引き上げた。東京電力は三年前より月五十時間以上も引き上げていた。

 今回の法改正の議論の中では、このように労働時間が高止まりする現状を危ぶむ労働者側代表者が、「法律による残業時間の一律規制」を主張したが、経営側が反対し、結論は見送られた。

 九十九社には今年一〜二月にかけてアンケートを実施した。残業時間を一律に規制することについては、回答した四十七社中二十八社が反対。十四社が賛成し、五社がどちらともいえないとした。日立製作所、丸紅、日野自動車などは「企業により働き方が多様である」ことを理由に一律規制に反対した。

 だが、企業の自主性に任せると、従業員を長めに働かせられるように三六協定を締結する傾向もあった。大和ハウス工業は「繁忙月にも労使協定の時間に収めて法令を順守するため、労働基準監督署に相談した結果」上限を引き上げたと回答した。将来的には引き下げる方針という。

 一律規制に賛成とした会社の中でも、コマツは「日本で大部分を占める中小企業への影響など国レベルで考える課題は多い」と指摘した。

 <三六協定> 残業を例外的に認めた労働基準法36条に定められた協定。同法で定める労働時間は1日8時間、週40時間。企業がこれを超えて労働者を働かせるには、労使合意に基づき書面で上限時間などを定めた協定を結び、労働基準監督署に届け出なければならない。協定には月45時間、年360時間までという上限があるが、上限を超えて働かせられる「特別条項」があり、これが健康や生命を害するほどの残業時間の高止まりにつながっている。

東京新聞 2015年6月1日 朝刊)