kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

日経の悪質な反「反緊縮」記事とクルーグマンの良書の両極端

世間の話題は佐野研二郎東京五輪エンブレム白紙撤回の件で持ち切りだが、私がこの件を取り上げても、どうせ「デザイン界の佐村河内」「デザイン界の小保方」という、誰でも思いつきそうな(しかも以前にも書いた)ことしか書けないから今回は見送っておく(しかし佐野はあまりにもひどいよね)。

今日は、昨日(9/1)目にした日経のひどい記事に触れておきたい。

英労働党で急進左派台頭 党首選で本命候補に :日本経済新聞

労働党で急進左派台頭 党首選で本命候補に
2015/9/1 0:38|日本経済新聞 電子版

 【ロンドン=小滝麻理子】英国の最大野党、労働党が10日まで続ける次期党首選で、党内最左派のジェレミー・コービン下院議員(66)が本命候補に台頭し、党内外に衝撃が走っている。労働党が掲げてきた中道路線を否定し、鉄道や電力会社の再国有化などを主張。緊縮財政や格差拡大に不満を抱える労働者層らに支持を広げる。ギリシャ、スペインなど南欧に続き、経済が好調な英国でも急進勢力が台頭している。

 労働党の党首選は…


日経電子版に登録していない読者はここまでしか読めないが、幸いにしてネット検索で日経の記事の要点をまとめたブログ記事を見つけたので以下引用する。

英労働党で急進左派台頭(9月1日日本経済新聞) | おやじの政治経済学(2015年9月1日)

労働党で急進左派台頭(9月1日日本経済新聞
2015-09-01 08:37:40

(1)英国の労働党が次期党首選で、党内最左派のジェレミー・コービン下院議員(66)が本命候補に台頭し、党内外に衝撃が走っている。
  労働党が掲げてきた中道路線を否定し、鉄道や電力会社の再国有化などを主張。
  緊縮財政や格差拡大に不満を抱える労働者層らに支持を広げる。

(2)無名に近かった急進左派のコービン氏が最大労組ユナイトの支持を得た。
  公共部門労組ユニゾンも投票先の第1希望として指名。
  その主張は過激だ。公的支出の拡大をためらわず、公務員の待遇改善につなげる。
  鉄道、電力会社の再国有化も掲げる。

(3)金融危機以降の緊縮策に伴う賃上げ凍結などに不満を持ってきた労働者や、保守党との差別化が必要と考える若手党員の支持を急速に集めている。

(4)労働党幹部たちはコービン氏の躍進に危機感を募らせる。
  1997年に発足したブレア労働党政権は市場経済を重視する「ニューレイバー」を掲げ、中道路線を取ることで支持者を拡大、政権を奪回した。

(5)「反緊縮」など大衆迎合的な主張を掲げる急進左派勢力は、ギリシャやスペインなど、財政難に苦しむ南欧諸国で台頭。

(6)労働党史上もっとも左傾化しているとされるコービン氏が党首になれば、英政治への影響も大きい。
  欧州連合(EU)離脱の国民投票で、労働党が分裂すれば、保守党の強硬派を勢いづかせ、離脱への勢いが増す可能性がある。


何に腹が立ったかというと、赤字ボールドにした部分だ。もっとも、この件に関しては朝日も毎日も中日(東京新聞)も同じような見方であることは周知の通り。朝日の経済担当論説委員などは、とりわけ強硬な財政再建論者たちであって、「緊縮」推進の先頭に立っているといえる。

実際には、ジェレミー・コービンは「人民の量的緩和」を掲げ、ポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツらも支持を表明している政治家だ。イギリス在住のジャーナリストがコービンを「マルクスの信奉者」と書いているようだが、私が瞥見したどっかの記事には、オールド・ケインジアンと書いてあったようにも記憶する。ただ、そこらへんは私にはよくわからないし、今回の記事の論点ではない。

問題は、「反緊縮」を大衆迎合政策と決めつける日経(や朝日・毎日・中日その他の)記事の悪質さだ。

この解毒剤としては、現在半分くらいまで読んだクルーグマンの下記文庫本が良さそうに思える。



文庫本の帯に、

まさか本書で主張している政策をもっとも忠実に実施するのが、この日本になろうとは……。(山形浩生/本書解説より)

とあるので、それだけに「安倍政権の経済政策のヨイショ本かよ」と誤解して逃げ出す「リベラル・左派」もいるかもしれないが、それは間違いだ。

クルーグマンは、不況期には金融緩和と財政支出が必要だと主張し、しかも金融緩和よりも財政支出の必要性を説く部分のボリュームの方が圧倒的に多い。さらに良いのは、「反緊縮」に反対して「緊縮」「自由放任」へと走りたがる財政政策が、富裕層におもねて経済成長を低下させ、時には経済危機をも招くとんでもない愚策であることを、これでもかこれでもかとばかり熱心に主張していることだ。クルーグマンは政権がそのような政策をとる要因として、こうした「緊縮」「自由放任」の財政政策は富裕層の利益をもたらし(事実、「緊縮」「自由放任」政策によって富裕層の所得シェアは近年急上昇している)、かつ富裕層は権力者への影響力が強いことを指摘する。これを読むと、日経や朝日など経済を論じる日本のメディアの方が「富裕層迎合政策」を唱えていることがよくわかる。第5章にはトマ・ピケティへの言及も出てくるが、これはピケティ・ブームの前の2012年に書かれた本である。前に取り上げた人類学者のエマニュエル・トッドもそうだが、クルーグマンもピケティを称賛した人の一人だ。

本の中身を読んでいると、再分配にはいっこうに不熱心な安倍政権の経済政策や、「金融緩和が何よりも優先する。それができるのは安倍晋三だけだ」と絶叫する日本の「リフレ派」(の全部ではないかもしれないがその相当部分)とクルーグマンの立ち位置が相当にかけ離れている(共通するのは「大胆な金融緩和」だけではないかと思われる)ことがよくわかる。

思うのだが、「リベラル・左派」は経済政策の主張において、「反緊縮」で一致すべきなのではないか。ずっと前からこれを言い続けている人たちは少なくないのだが、いっこうに「リベラル・左派」の間に浸透しない。「反緊縮」は何も言わずに金融緩和批判にばかり走りたがり、あまつさえデフレ礼賛論まで言い出す「リベラル」が後を絶たないことに、私は腹を立て続けているのである。