kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

現代日本の政治の戦前とのアナロジーと「薔薇マークキャンペーン」

 『広島瀬戸内新聞ニュース』(2019年2月6日)より。

 

hiroseto.exblog.jp

 以下引用する。

 

第二次世界大戦の前の政党内閣時代、濱口雄幸(立憲民政党)がバカ受けした時代があった。
濱口は、今で言えば政治的リベラルのスタンスだが、新自由主義を進め、庶民にとっては余り良くなかった。その反動で、軍部が台頭した。
当初は「天誅!」の皇道派が出てきた。皇道派は、現代で言えば「公務員に天誅!既成政党に天誅!」の大阪維新に似ている。
しかし、2・26事件で皇道派と政党は共倒れになり、統制派が覇権を握った。
民主党と維新で票が割れたスキを突いて安倍自民党が政権に返り咲いたのに似ている。
現代でも、リベラル派の中には脱原発と言うことで小泉純一郎さんに接近する傾向もある。ただ、それが、余計に安倍自民党を延命させる傾向もある。
安倍総理自体は、実際には、日欧EPAとか水道民営化、種子法廃止などバリバリの新自由主義グローバリストで、軍事と原発とお友達には手厚く庶民には厳しい。それでも、なんとなく、小泉さんよりはマシ、的なイメージを持つ人もいる。そういう人たちが野党ー小泉連携に警戒して消極的ながら安倍自民党=統制派に行ってしまう傾向が強い。

こうした状況を打破するにはやはり、きちんと、庶民寄りの経済政策を野党・市民連合が打ち出すことだ。
薔薇マークキャンペーンがその嚆矢(こうし)となることを期待する。

 

rosemark.jp

 

 「薔薇マークキャンペーン」(後述)への賛同も含めて、上記引用文に概ね賛成する。「概ね」と留保をつけたのは、「維新=皇道派」という喩えにどうしてもちょっと抵抗があるからで、私の感覚で「皇道派」といえば、10年前の「政権交代」の時に持ち上げられた平沼赳夫城内実、それに彼らを応援する旗を振って「『右』も『左』もない」などと言っていた連中、さらには孫崎享のような反米右翼を連想するからだ。経済思想からいっても彼らこそ「2.26事件」の青年将校に近い。

 しかし、安倍反動政権への政権復帰があった2012年の政治状況において「皇道派」の役割を果たした政治勢力となると、日本維新の党がそれに当てはまるのも確かだ。まあ歴史がそんなに正確に繰り返すはずもない。

 確かにあの当時から今に至る政局は戦前と類似している。このアナロジーにおいて、自民党が軍部(統制派)に当てはまることがまず注目される。当時の民主党は戦前の立憲政友会小沢一郎派・鳩山由紀夫派)と立憲民政党菅直人派や野田佳彦派など)とをともに包含し、党内で激しく権力抗争を展開していたが共倒れした。それが政党政治の崩壊にあたる。そういえば2010年に菅直人政権が成立した直後に坂野潤治が『週刊朝日』に寄稿したことがあって、そこで坂野は小沢・鳩山派を政友会の流れに、菅直人民政党の流れに当てはめて菅政権への期待を表明していたが、菅直人はその直後に消費増税を打ち出して失敗した(=坂野潤治の期待に背いた)。菅は「三党合意」の政治を行った野田佳彦ともども、戦前の立憲民政党が犯した誤りを繰り返したことになる。

 その後の総選挙で政友会の後継としての日本未来の党民政党の後継としての民主党が共倒れし、日本維新の会みんなの党といった新自由主義政党が躍進したものの圧勝して政権を奪回したのは自民党だった。これは衆院選小選挙区制を考えれば当然の結果で、小沢一郎を代表として菅直人鳩山由紀夫以下、日本未来の党も含む民主党系政治家たちが自ら蒔いた種だった。

 翌年の参院選でまずみんなの党が2010年の参院選での獲得議席数に及ばない頭打ちとなってその後崩壊。維新も橋下徹が党を退いたあとの2017年衆院選でははっきり衰勢となって現在の「安倍一強」に至る。

 その独裁者・安倍晋三が上記『広島瀬戸内新聞ニュース』の記事が書く通り

実際には、日欧EPAとか水道民営化、種子法廃止などバリバリの新自由主義グローバリストで、軍事と原発とお友達には手厚く庶民には厳しい

 ことは、反安倍政権の人たちの共通認識でなければならないと私も思う。

 数日前にも書いたが、安倍政権の財政政策が「緊縮」かどうかという議論がリベラル・左派界隈にあるが、そんなものは「お友達と軍事と原発(と外国)以外には緊縮」と断言してしまわなければならない。下記「こたつぬこ」(木下ちがや)氏のツイートのような曖昧な表現は、それこそ立憲民政党の後継たる旧民主党主流派の緊縮財政(財政再建)への志向に問題を感じない人につけ入られるだけだろう。

 

 

 こたつぬこ氏には、現在の立憲民主党支持者に対する忖度でもあるのだろうか。そう思ってしまった。

 「緊縮」や「財政再建」に問題を感じない人たちには、菅政権時代に政権のブレーンとされた神野直彦が2007年に書いた『財政のしくみがわかる本』から以下に引用文を示すので、せめてそれくらいの認識は持っていてほしいと思う。

 

財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

 

 

(前略)財政の借金が大きくなると、財政がこの所得再分配の機能を果たせないどころか、逆再分配の機能をもってしまうということです。なぜなら、国債を持っているのはお金持ちの階層です。したがって、国民からとりたてた税金を、国債の借金返しに使えば、一般の国民から税金をとって豊かな人々にお金を配分してしまうという現象になるのです。

 現在日本でおこなわれようとしている、財政再建のために消費税を増税しようという政策は、その典型です。なぜなら、消費税は負担が逆進的で、貧しい人に負担が大きく、豊かな人に負担が小さいからです。税金で貧しい人々に負担を求め、国債をもっている豊かな人々にお金を配分するということになるわけです。

 つまり、本来の財政は、国民のお金を右のポケット(豊かな人々)から左のポケット(貧しい人々)に移すのが原則なのですが、財政再建のための消費税増税では、左のポケットからお金をとって、右のポケットに押し込むという危険性があるということです。

神野直彦『財政のしくみがわかる本』(岩波ジュニア新書)137頁

 

 その後神野直彦は、2010年に総理大臣になった直後から消費増税に前のめりになった菅直人に妥協してしまったが、もともとの氏の立場は「まず直接税の課税ベース(課税範囲)を拡大せよ、そして直接税の税収が十分になった時点で、アメリカのような「小さな政府」を目指すのであれば、そのまま直接税中心の税制で進み、北欧や西欧のような福祉国家を目指すのであれば、直接税の土台に上乗せする形で消費税などの間接税による負担を求めよ、というものだった*1。神野氏自身は後述の「薔薇キャンペーン」代表の松尾匡が属するリフレ派とは相容れない立場の人だし、前述のように2010年に菅直人に妥協してしまったが、氏のもともとの主張は傾聴に値すると私は今でも思っている。今や消費税を軸とした税制を主張しているかのように見える(神野直彦の愛弟子でもある)井手英策などは上記の師の文章に対してどう答えるのだろうか。「消費税の使途を福祉・社会保障に限定すれば良い」とでも言うのだろうか。

 

 さて、「後述」と書いた「薔薇キャンペーン」だが、やはり『広島瀬戸内新聞ニュース』(2019年2月3日)の記事で知ったのだけれど、ちょっと前に東京新聞に取り上げられていた。

 

hiroseto.exblog.jp

 以下、東京新聞の記事を引用する。

 

www.tokyo-np.co.jp

市民団体「薔薇マーク」 「反緊縮」に賛同する候補者支援へ

 

 消費税増税反対と財政出動を柱とした「反緊縮」の経済政策を掲げる市民グループ「薔薇(ばら)マークキャンペーン」が一日、国会内で記者会見を開き、四月の統一地方選と夏の参院選で趣旨に賛同する候補者を認定、支援すると発表した。代表の松尾匡(ただす)立命館大教授は「安倍政権では社会保障の削減、個人消費の低迷が続いている。野党は大衆増税に反対し民衆にお金を使って景気回復を目指すべきだ」と訴えた。

 「反緊縮」は、英国労働党のジェレミー・コービン党首らが主張する政策。欧米各国がリーマン・ショックから立ち直った後、財政再建を進めて景気を悪化させる中、正反対の政策として一定の支持がある。

 トレードマークにした薔薇は、欧州では労働者の尊厳を守る象徴。キャンペーンの趣旨である「Rebuild Our Society and Economy(社会と経済の再建を)」の頭文字でもある。

 主な政策に(1)消費税増税凍結(2)社会保障・医療・介護・保育・教育・防災への財政出動(3)最低賃金の引き上げ(4)大企業・富裕層の課税強化-などを掲げる。財源は企業増税など「公正な税制」が実現するまで国債発行で賄う。三月初旬から候補者の認定を始める。

 呼びかけ人の一人の西郷南海子(みなこ)事務局長は「若い人は景気は良くならないと思いがちだがそうではない。日本は立て直せると知ってほしい」と訴えた。

 (安藤美由紀)

東京新聞より)

 

 記事にある通り、「薔薇マークキャンペーン」の代表は松尾匡立命館大教授。

 

 キャンペーンの「賛同人」には『広島瀬戸内新聞ニュース』の主宰者・さとうしゅういちさんも名を連ねている。

 

rosemark.jp

さとうしゅういち(広島瀬戸内新聞社主)

素晴らしいです。もっと早く「庶民のための経済政策」を求める運動が日本でも出来ていれば良かったのですが、これからともに頑張りましょう!

  

 リストに載った名前の多くは市井の人たちだが、立場はさまざまで「立憲パートナーズ」の人もいれば、小沢一郎系の元国会議員・中村哲治氏の名前もある。以下人名は省略するが、プレジデントオンライン編集長もいれば、驚くべきことに「ワタミ労働政策研究所 主任研究員」を名乗る方もいる。また、パクツイ常習犯として悪名高い「小沢信者」にして、私が日頃から「全く感心できない人間」とみなしている、ある江戸時代の歴史上の人物の名前を勝手に僭称している御仁までいる。このブログのコメント常連の一人である杉山真大さんの名前とコメントもある。

 

杉山真大

兎角現政権の批判の文脈で税金の無駄が声高に言われ、「何でもかんでも金を出す」ことが批判されている。しかし現実には社会福祉や教育・医療・地域振興その他もろもろ「全てにわたってお金が足りない状態」で、それで優先順位だのメリハリだの言えば忽ち何処かが犠牲になり、下手すれば立場の弱い者同士で互いに相争うことになり兼ねない状況だったりする。
そういう現状認識の上で今必要なのはキチンとした経済政策と社会政策の両立であり、安易に”聖域無き改革”や”良い緊縮”に与するべきではない。

  

 有名人としては菅野完氏の名前が目についたが、国会議員などの大物は名を連ねていない。国会議員では山本太郎が松尾氏の主張を受け売りしていることからもわかる通り、明らかにこのキャンペーンの方向性にもっとも合致する政治家だ。しかし、一方で山本太郎には小沢一郎をタブーにしているという大きな問題点がある。その小沢はといえば、国民民主党の政治家たちの賛同が得られそうにもないこのキャンペーンに賛同することなど間違ってもないだろう。小沢はかつては河村たかしのような「減税真理教」を積極的に支援していたし、現在はしきりに橋下徹にラブコールを送るなど、本質的に新自由主義側の人間であるように思われる。

 私はといえば、「薔薇キャンペーン」に大いに期待はするけれども、かつて小沢一派が積極的にコミットした「減税真理教」とこのキャンペーンとを混同するような人士たちによって攪乱されはしないだろうか、との若干の懸念もあるので、当面は賛同人に名を連ねることは見合わせておこうと思っている。

*1:前掲書87-93頁記載「直間比率」の節などを参照。