昨日(6/4)で天安門事件から30年。同じ「改元」とやらがあった年でも、息の詰まりそうな重苦しい閉塞感の時代である2019年とは全く異なり、1989年は激動の年だった。年明けの1週間目の日の昭和天皇の死で幕を開けたこの年は、年の終わりまであと1週間を切った日のルーマニアの独裁者・チャウシェスク夫妻の銃殺で幕を閉じた。イランでサルマン・ラシュディに死刑を宣告したばかりだったアヤトラ・ホメイニの死の翌日に起きた天安門事件はその中間にあり、その後に東欧諸国の共産党政権が相次いで倒れた。年の終わりには日本ではバブル景気に浮かれた日経株価指数が最高値を叩き出したりもした。
『広島瀬戸内新聞ニュース』によれば、アメリカと中国の経済政策はかつてと入れ替わった感があるという。
リンクを張った最後の記事に関して、「課税ベース(課税対象とされる範囲)の拡大」はかつてのレーガン政権同様、安倍政権(第2次内閣以降)でも、法人税率の引き下げとセットで行われてはきている。しかしその中身は、外形標準課税の拡大のように、赤字企業や中小企業に苦しく、黒字出しまくりの某自動車メーカーに代表されるようなガリバー企業には優しいものではないかとの疑念が拭えない。
とはいえ、この記事を読んで思ったのは、現在、中身の議論を伴わずにネットの一部に熱狂の声が挙がっているMMT(現代金融理論)主唱者やそれに反対する人たち、あるいはリフレ派左派とリフレ派右派、積極財政派と緊縮財政派等々の立ち位置を明らかにするために、さまざまな座標軸をとった二次元(あるいは三次元)のグラフを作ってみてはどうかということだ。
たとえば、横軸の右側に直接税増税、左側に直接税減税をとり、縦軸の上側に異次元の金融緩和賛成、下側に金融緩和反対をとると、グラフの第一象限(右上)に松尾匡はくるだろうし、日本共産党は第四象限(右下)にくるだろう。またリフレ派右派は第二象限(左上)にくるはずだし、大の反リフレ派にして新自由主義者である池田信夫(ノビー)は間違いなく第三象限(左下)にくる。また別系列の反リフレ派である金子勝や神野直彦らは日本共産党と同じ第四象限に位置するはずだ。河村たかしの減税日本などは直接税減税を訴えているので、彼らの金融緩和に対する姿勢はわからないが少なくともグラフの下側(第三または第四象限)にくると思われる。山本太郎はおそらく松尾匡と同じ第一象限だろうが、河村たかしら「減税真理教」との関係がいまいちはっきりしない。
別に二次元グラフでなくとも、毎日新聞が国政選挙の度にやっている「えらぼーと」でも良いし、二次元グラフの軸は上記以外に、もっとも普通にとられるであろう消費増税/減税と金融緩和/引き締めや、財政政策内で直接税を横軸、間接税を縦軸にするなどいろいろとり方はあるだろう。
こんなことを長々と書くのも、「野党共闘」系・共産党系とされるこたつぬこ(木下ちがや)氏が昨日発した一連のツイートを読んで、「薔薇マークキャンペーン」の立ち位置は相変わらず周知及び議論が活発な状態というよりは、こたつぬこ氏が「デマゴーグ」だと言い、私もそれには強く同意する田中龍作を筆頭とする一部の「山本太郎信者」*1による煽動に引っ掻き回されている状態としか思えないからだ。私自身は、基本的には「薔薇マークキャンペーン」に賛同する立場なので、よけいに現状に強い苛立ちを覚える。
MMTについては、理論的妥当性とともに、どういう層がこの理論に惹かれるのかをしっかり考えましょう。恐らくは「仮想通貨」に魅力を感じる労働者、自営業層だと思います。この層は維新にも投票する層です。これを安倍政権と山本太郎が取り合いすることになります。 https://t.co/4TVJqL11LE
— こたつぬこ『「社会を変えよう」といわれたら』4/17発売 (@sangituyama) June 4, 2019
社会主義的リベラルが、MMTに強い違和感を抱く原因はこれです。20世紀以後台頭した労働組合は「賃金」による生活保障のシステムを作り上げた。しかし新自由主義的転換は、「賃金が足りない」あるいは「賃金では物足りない」という新しい要求を抱く労働者を作り出した。いわゆる「市場の民」です。 https://t.co/2bFsNbDWVk
— こたつぬこ『「社会を変えよう」といわれたら』4/17発売 (@sangituyama) June 4, 2019
この「市場の民」は、19世紀のような「ブルジョアジー」とは違い、「賃金では物足りない」という上層起業家精神と、「賃金では足りない」という下層労働者の救済精神とを、まったく違うのにともに包摂してしまいます。仮想通貨が起業家も非正規労働者も魅了したように。 https://t.co/8hy7QAYBUg
— こたつぬこ『「社会を変えよう」といわれたら』4/17発売 (@sangituyama) June 4, 2019
高賃金と強力な国家介入による税の吸収/再分配という市場規制が新自由主義によって壊されたところから、この「市場の民」は出現した。そしてこの階層は、旧来の保守、リベラル、左翼いずれも組織できていない。そこに食い込んだのが維新。 https://t.co/FIlAHjMjuw
— こたつぬこ『「社会を変えよう」といわれたら』4/17発売 (@sangituyama) June 4, 2019
そしてMMTは、この「市場の民」のうち、「賃金では足りない」という層に食い込む論理として登場した、と思われる。これは「要求はケインズ主義、器はリバタリアン」といえるもので、社会民主主義的リベラルの要求を抱きながら、労働組合を忌避するというキメラのような政治意識ともいえる。 https://t.co/v0jKnP82IC
— こたつぬこ『「社会を変えよう」といわれたら』4/17発売 (@sangituyama) June 4, 2019
現在、MMTを自民党若手議員も推し始め、安倍官邸も興味を示しているという。上記に引用したこたつぬこ氏のツイートの4件目を最初に引用した『広島瀬戸内新聞ニュース』の記事に絡めていえば、トランプも安倍政権もこたつぬこ氏の指摘する「市場の民」に食い込もうとしているかに見える。
また、民主党政権時代、特に菅政権時代(2010年6月〜2011年8月)に、民主党内や自民党の特に若手タカ派の議員たちの間で、リフレ政策の導入を求める声が強く挙がったことも思い出される。たとえば松原仁(民主、現無所属)の名前がすぐに思い出される。
自民党参院議員の西田昌司もそうだったかと思いきや、ネット検索をかけたら西田昌司はMMT支持だが反リフレで、真逆の立場をとる高橋洋一とやり合ったらしい。あの「経済右派」の朝日新聞編集委員・原真人のツイートで知った。
先週はMMTを主張する西田昌司参院議員とBS-TBS「報道1930」で議論。おもしろいのは、MMT派の西田氏はリフレ派に批判的。リフレ派の高橋洋一氏はMMTを「数式もない」と批判していること。行き着く先はどちらも「財政ファイナンス」なので、似たり寄ったりに思えるけれど。
— 原真人 (@makotoha) May 29, 2019
西田昌司と高橋洋一の立ち位置の比較などは、先に書いた二次元グラフにプロットすればよくわかるのではないだろうか。
現状は、共産党系と見られるこたつぬこ氏や、旧民主・民進系と見られる「軍畑先輩」氏*2の双方から「薔薇マークキャンペーン」は「減税真理教」の同類ではないかとの疑念*3が提起されている。そのような誤解を解くとともに、現在のような煽り文句先行ではないまっとうな議論へと導くために、二次元グラフの活用を含めた「薔薇マークキャンペーン」の立ち位置の説明が必要なのではないかと強く思う。