今年初め頃に話題になった、田中慎弥の『宰相A』(新潮社)を読んだ。
- 作者: 田中慎弥
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: 単行本
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ジョージ・オーウェルの『1984年』を下敷きにしたかのような小説だと思った。後半のグロさは田中慎弥らしい。
よく言われる通り、オーウェルが1948年に書いたディストピアは現実と化している。安倍晋三、もとい「宰相A」は「ビッグ・ブラザー」役である。だから小説の主人公ではない。
1948年に『1984年』を書いたオーウェルはたいしたものだが、2014年に田中慎弥がそれを下敷きにしたとしか思えない小説を書いたあとの2015年になって、「宰相A」ならぬ安倍晋三が、中身は戦争法である安保法制を「平和安全法制」と呼んだり、木原稔らが安倍晋三以外の人間の自民党総裁選立候補を阻止する目的で「文化芸術懇話会」(「政策を芸術の域に引き上げる」のだそうだ)を立ち上げ、大西英男が思い出したくもない暴言を吐くなど、現実が小説をチープに模倣している*1かのような現状は、第2次安倍内閣発足とともに始まったと坂野潤治が言う「崩壊の時代」ならではの光景であろう。
他に読んだ本。
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/09
- メディア: 文庫
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上記の新潮文庫版は、2006年の第30刷で文字を大きくする改版をしたばかりなのに、2011年の第33刷で再び改版された。たまたま、区内の別の図書館にそれぞれがあったので比較してみると、著者が書き改めたものと推測される(文庫本には何も書かれていない)。第33刷の方が改訂版であろうか。
革命とその挫折を戯画化したこの小説の主人公に感情移入することは難しい。もちろん作者はそれを意図していたものであろう。調べてみると、この小説を書いた1954年には安部公房は共産党員だったようだが(安部はのちの1961年に共産党を批判して除名される)、安部は自らも左翼でありながら、左翼に対するシニカルな視点を持っていたといえそうだ。
以下はコメント抜き。もちろん面白くなかったという意味ではなく、時間の都合である。
地の骨(上): 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫)
- 作者: 松本清張
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2014/06/12
- メディア: 文庫
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地の骨(下): 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫)
- 作者: 松本清張
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2014/06/12
- メディア: 文庫
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- 作者: 大塚信一
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/09/17
- メディア: 新書
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*1:そういえば「宰相A」も傀儡であるぶん、「ビッグ・ブラザー」よりもはるかにチープなのだが、現実はそれにも増して安っぽいのである。