プロトタイプも作れないのに商品を作りようがないことは、私企業に勤める技術系の人間なら、いや何も技術系でなくとも、まともな考え方ができる人間なら誰しも了解するに違いない常識中の常識だが、その常識が理解できないのが中央官庁のお役人たちだ。今朝の朝日一面左上に掲載された「もんじゅ後継 国内に実証炉」の記事を読んで、私は腰を抜かすほど驚いた。朝日の論説委員も同じだったらしく、「無責任さに驚き、あきれる」と書いており、その理由として「技術開発は、段階が進むとまさに段違いに難しくなる」ことを挙げている。まっとうそのものの議論であって、最近の朝日の社説には珍しく、心から共感できる。自民党の支持者は自民党は現実的で野党は非現実的だと思っているようだが、本当に非現実的な案を出して日本をあらぬ方向に導く「ハーメルンの笛吹き」は、自民党政治を動かしている官僚たちだ。特に現在の安倍政権は「経産省政権」と言われるほど経産省べったりで、もんじゅの廃炉も経産省の意向に沿ったものだったが、なんともぶっ飛んだ計画をブチ上げたものだ。思うに、経産省の技術官僚たちの多くは、大学(修士課程修了あたりがスタンダードだろう)を出て、企業での経験など持たないままに出世しているであろうから、このような現実離れした案を平気で出してくるのではないか。もっとも、「高速炉開発会議」には電事連だの三菱重工だのも出ていたようだが。「国策産業」にあっては「民間企業」も平気で破廉恥な判断に加担するようではある。
朝日3面には、経産省幹部の驚くべき発言が報じられている。これには開いた口が塞がらなかった。以下引用する。
「核燃料サイクルをやめれば、『パンドラの箱』が開いてしまう。高速炉開発を続ける意思を示す計画は、箱を封印する『お札』のようなものだ」。経済産業省幹部は、核燃サイクルと高速炉開発の旗を降ろせない理由を説明する。
(2016年12月1日付朝日新聞3面掲載記事「高速炉 降ろせぬ旗」より)
驚くべきオカルト話だが、笑い事ではない。経産省は、こんな「キョンシーのお札」のようなもののために巨額の税金を無駄にしようというのだ。当然ながら、社会保障にそのしわ寄せは行き、日本社会の格差はますます拡大することになる。しかしそれでも、こんなトンデモ経産省に牛耳られている安倍政権をこの国の国民は支持しているのだ*1。
下記は東京新聞の記事。「国内に実証炉」でググると、朝日ではなく東京新聞の記事が引っかかったので引用する次第。朝日では一面左上だったが、原発関連のニュースには異様なまでの執念を燃やす東京新聞のことだから、おそらく一面トップ記事なのではないかと想像する。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201612/CK2016120102000141.html
新高速炉 負担増大も もんじゅ代替 18年に工程表
2016年12月1日 朝刊
政府は三十日、廃炉が濃厚な高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)に代わる新たな高速炉を国内で建設するため、今後十年程度で必要になる作業をまとめた工程表を二〇一八年中に示す方針を固めた。一兆円の国費を投じながら、ほとんど稼働していないもんじゅの反省もないまま、さらに天井の見えない負担が国民にのしかかる恐れが出てきた。 (吉田通夫)官民合同の三十日の「高速炉開発会議」で、今後の開発方針の骨子をまとめた。十二月中に関係閣僚会議を開き、もんじゅの廃炉時期と併せて正式に決める。
高速炉の実用化には(1)実験炉(2)原型炉(3)実証炉−の段階を踏み、実験データを集めて研究を進めねばならない。日本では(2)の原型炉のもんじゅの段階でつまずいたが、政府は仏政府が計画する実証炉「ASTRID(アストリッド)」に資金を出して共同研究したり、(1)の実験炉「常陽」(茨城県、停止中)を活用すれば、(3)の実証炉での研究に進むために必要なデータを集められると判断。国内に新しい実証炉を建設する方向で調整している。
しかし必要な費用は検証できない状態だ。アストリッドは設計段階で、建設費は固まらず日本の負担額は分からない。常陽も東日本大震災後、耐震など新たな規制基準に合わせる工事をしている途中で、費用は不明。さらに新たな高速炉を建設する場合、構造が複雑なため、建設費が通常の原発より数倍は高いとされる。規模によっては一兆円を超えるとの見方もある。
会議後、経済産業省原子力政策課の浦上健一朗課長は記者団に「現段階で費用は示せない」と話すにとどめた。もんじゅを所管する文部科学省も、過去の会議では、もんじゅを再稼働する場合と廃炉にする場合の費用試算を示しただけ。それでも政府は、原発で使い終わった核燃料を再利用する「核燃料サイクル」には高速炉が必要だとする従来の考え方を強調し、開発続行の方針を打ち出した。
原子力政策に詳しい原子力資料情報室の伴英幸(ばんひでゆき)共同代表は「政策の流れを変えられないから費用や反省点を検証せず続けるというのでは、新しい高速炉を造ってもうまくいかないだろう」と話した。
◆プルトニウムを増やさず 高速増殖炉と高速炉の違い「もんじゅ」は高速増殖炉の原型炉とされる。「増殖」は、消費した以上の燃料を作り出せるという意味。炉心の周囲に置いた燃えないウランを、燃えるプルトニウムに変えることができるからだ。
しかしプルトニウムが余る時代となり、増殖の意義が薄れ、かえって核兵器の材料になるやっかいものを増やしてしまう。政府は、これからは増殖させない高速炉を開発するとしている。
(東京新聞より)
共同研究が想定されるフランスのASTRID(アストリッド)は、高速実証炉。周囲に燃えないウランを置かないので、プルトニウムの増殖はない。また長期間にわたって放射線を出し続ける核廃棄物を燃やし、処分期間の短縮につながる可能性もある。ただし、もんじゅ同様、核分裂で生じた熱を伝えるために、危険なナトリウムを用いる。なお「高速」とは、核分裂連鎖反応を起こす中性子の種類のこと。普通の原発では、燃料にぶつける中性子を水で減速させている。もんじゅなどは、中性子の減速をしないため、高速の名がある。
(東京新聞より)