参院選、結局自民57、立民17、民民6、公明14、共産7、維新10、社民1、山本2、N国1という結果だったようだ。
今回の参院選を衆院選との同日選挙にしなかったことについて、安倍晋三はダブルにしたかったができなかったのだという論評が一部でなされたが、私はそうではなく、安倍は最初から同日選にするつもりはなかったと思う。
推測だが、安倍の頭にあったのはいかに参院選の存在感をなくし、投票率を下げるかだったのではないか。その最大の動機は、一昨年秋の衆院選で風に乗った野党第一党・立憲民主党の票を抑えることだ。
その点では狙いが当たり、立民は情勢選挙から予想されたほどには議席を伸ばせなかったが、投票率低下の影響は自民党をも直撃し、東北を中心とした10の一人区で「野党共闘」候補に敗れる結果となった。安倍は、投票率を下げて自民党の票まで削ってしまったのだ。その結果、大分で側近の礒崎陽輔が落選し、広島では宏池会の大物・溝手顕正を落選させて岸田文雄の顔を潰した。特に後者は、広島での2議席独占を狙って清和会系候補として送り込んだ河井案里が、結果的に溝手に対する刺客になった。安倍晋三や菅義偉は河井の応援に熱を上げていたこともあり、これは宏池会のみならず自民党の広島県連との間にも溝を作り、昔なら党内抗争の火種になったところだ。今なら安倍がふんぞり返ったままの態度をとり続けるのかもしれないが、広島選挙区の結果は、自民党の足腰や多様性をまた一段と弱めることになると思う。
もっとも、投票率が下がると公明党の議席が増えるわけで、公明党にとっては願ったりかなったりだった。自公が「野党共闘」に負けた10の1人区は、その公明党の比重が増す効果と自民党が自らへの浮動票を削る効果のうち、後者が余計に効いて競り負けた形だろう。
今回躍進したのは、公明・維新・山本(元号政党)・N国で、維新はもはや浮動票ではなく固定票に頼る政党になりつつある印象だ。山本党は特に終盤支持が伸びたが、2議席獲得には「特定枠」作戦の奏功がかなり効いた。あれには私も脱帽せざるを得ないし、この2議席は確かに「国会の風景を変える」だろう。同党の獲得議席が3議席以上になると逆に弊害が出るとも思っていたので、2議席は歓迎できる結果だ。N国の議席獲得は、いわゆる「ネトウヨ」が岩盤化してきた表れであって、ネトウヨも一種の「宗教」だから、低投票率ゆえに得た議席だろう。
問題は共産党だ。低投票率だったのに比例で4議席にとどまった。「野党共闘」は1人区10選挙区で当選者を出したが、それには共産党系候補は含まれていない。候補者を出さない選挙区では党勢が縮小するから、「野党共闘」は今のところ共産党にとっての収支はかなりの赤字なのではないか。また、先の大阪ダブル選挙で共産党が大阪自民党に「抱きつく」戦法をとってしまったことはかえすがえすも痛恨だった。あれで維新に勢いを与えたのが今回の参院選での維新躍進につながり、共産党が大阪で基礎票の多くを失った効果は、今回の大阪選挙区における現職候補の敗戦に表れた。
たとえば山口県とか和歌山県など、どんなに「野党共闘」をしたところで勝ち目がない選挙区においてまで「野党共闘」候補を立てなくても良いのではないか。
なお社民党は政党要件を維持した。しかしN国もNHKの開票速報で見ると得票率2.0%で、これは四捨五入の値だろうから2%を超えたかどうかはわからない。超えたとしたら同党も政党要件を獲得したことになり、これまた頭の痛い話だ。
いずれにせよ「投票率を下げる」安倍晋三の作戦は、この国の議会制民主主義を破壊する以外の何物でもないとして強く批判されなければならない。自民党の獲得議席は57議席で、皮肉にも安倍がメインターゲットに定めたに違いない立憲民主党同様、情勢調査結果の下限値に近い議席数にとどまり、いわゆる「改憲政党」は参議院の3分の2を割り込んだが、「自業自得」以外の何物でもない。
安倍にとっては「めでたさも中くらい」の結果だったに違いない。