kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

2019年参院選で山本党に票を奪われた政党は

 先の参院選で、山本太郎率いる元号を冠した政党(以下「山本党」)に票を奪われた政党の内訳には、与党(や日本維新の会)はほとんどなく、もっぱら既成野党だったとは多くの論者が指摘するとことであって、私もそれには異論は全くない。公明党への支持は盤石だし、自民党には過去の栄光(その栄光は日本という国または個々人の生活についてのものだ)にすがりつこうとする人々の支持が岩盤化していて、それらは容易には崩れないから、今回の参院選で山本党が自公や維新から票を奪えず、もっぱら他の野党から票を奪ったことを責めることはできない。もっといえば、票を奪われた他の野党が悪い。

 ただ、面白いと思うのは、論者の立場によって、山本党が奪った票の大半は立憲民主党からだったと主張する人と、3年前の参院選と比較して共産党の得票が激減していることを指摘する人とに分かれることだ。前者は山本党の支持者に、後者は本来共産党を支持していた人に見られる。

 前者の例を挙げる。『晴天とら日和』の7月23日の記事。

 

blog.livedoor.jp

 

 以下引用する。

 

●比較可能な政党で2017年衆院選と今回参院選の比例票を比較(単位:万)
 自民 1856→1755
 公明 698→648
 維新 339→487
 立民 1108→784😭
 共産 440→442
 れいわ 0→288
 社民 94→104

 ※与党は計150万票減。⇒当てはめると、維新が自公の票を奪った。
  立憲は324万票減。⇒当てはめると、れいわに票を奪われた。

 

 この議論は、特に与党に関する部分がかなり粗くて、実際には安倍晋三参院選を極力目立たなくして投票率を下げようとしたことが自公の比例票を直撃したとみられるが(公明票まで減ったのは、「比例は公明」を実践していた自民党支持者が寝てしまったためと考えられる)、2017年衆院選で立民に投票した浮動票のうち相当のボリュームが山本党に流れたことは間違いないだろう。

 

 一方、3年前の参院選と比較しているのは醍醐聡氏だ。

 

 

 醍醐氏のツイートからリンクされた時事通信の記事を下記に示す。

 

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019072100537&g=pol

 

無党派票、野党陣営で分散=立・共支持、れいわに流出-時事出口調査【19参院選

2019年07月21日22時32分

 

 21日投開票の参院選時事通信が行った出口調査によると、「支持する政党はない」と答えた無党派層比例代表での投票先は、自民党(個人名投票含む)がトップの25.5%を占めた。結党直後の2017年衆院選で首位だった立憲民主党は7.0ポイント減の21.0%にとどまった。「れいわ新選組」が9.8%を集めており、野党陣営内で票が分散した形だ。

 無党派層の支持で、自民は17年衆院選では立憲に次ぐ2番手(22.7%)に転落したが、首位を奪還した。3位は12.4%の日本維新の会。れいわが続き、共産党(8.7%)、公明党(6.8%)、国民民主党(6.2%)の順となった。
 自民、公明、立憲、国民、共産、維新はいずれも支持層の8~9割程度を固めた。ただ、立憲、共産の支持者はともに、他党に流れた比率として最多となる5~6%がれいわに投票した。

 18、19歳有権者の投票先は自民が41.0%を占め、16年参院選(40.1%)、17年衆院選(46.1%)に続きトップ。公明の10.8%と合わせ、与党で過半数に達した。立憲が2位の13.9%、れいわは4番手の7.4%だった。
 年代別で自民は20代、公明は10代で最も高く、若年層の与党志向が裏付けられた。一方、立憲は40代まで、共産は50代までの得票率が全世代の平均値を下回り、ともに70代以上の得票率が最高だった。
 男女別では、男性の40.4%が自民に投票し、女性の票を4.9ポイント上回った。女性からの得票が男性票を1ポイント以上上回ったのは公明と共産。
 調査は21日、各投票所で投票を済ませた有権者を対象に行い、3万3400人から回答を得た。無党派層の割合は31.7%、10代は2.2%。

 

時事通信より)

 

 記事の見出しが端的に示す通り、立民も共産も山本党に票を奪われたというのが正確なところだろう。先日この日記に、山本党が他の野党から奪った議席は立民1議席、共産1議席だろうと書いたが、メディアの調査結果からもそれが裏付けられた形だ。共産党についていえば、一昨年の衆院選で立民に奪われた票を取り戻すことができず、そのまま山本党に流れてしまった恰好だ。今回は選挙結果はたとえば朝日新聞の序盤情勢調査は共産の「躍進」、つまり一昨年の衆院選で立民に奪われた票をかなり取り返すであろうという予想だったが、選挙期間中にそれが山本党に流出してしまい、「躍進」を阻まれたものとみられる。

 しかし、この票の移動は比例区についての話だから、選挙区の票には影響していない。それどころか東京選挙区では山本党は立民にチャンスを与えた形だったが、立民自身がそのチャンスを逃したのだ。同党やその支持者たちは、その原因をもっと真剣に考えた方が良い。

 私の意見は、これも繰り返しになるが、たとえば橋本健二が『新・日本の階級社会』(講談社現代新書,2018)に下記のように書いた期待に立憲民主党が全然応えることができていないのが、同党が一昨年の衆院選で集めた票を逃してしまった最大の原因だろうと考えている。以下、『新・日本の階級社会』から引用する。

 

bookclub.kodansha.co.jp

 

 もし格差社会の克服を一致点とする政党や政治勢力の連合体が形成されるなら、その支持基盤となりうる階級・グループはすでに存在しているといっていいだろう。アンダークラス、パート主婦、専業主婦、旧中間階級、そして新中間階級と正規労働者のなかのリベラル派である。これらの、一見すると多様で雑多な人々を、格差社会の克服という一点で結集する政治勢力こそが求められるのである。そのような政党が登場すれば、これらの人々の政党支持は激変する可能性がある。その可能性の一端は、二〇一七年一〇月の衆議院選挙での立憲民主党の躍進にあらわれたといっていいだろう。

橋本健二『新・日本の階級社会』(講談社現代新書,2018)301-302頁)

 

 私自身は立憲民主党の結党の時点から同党を醒めた目で見ていたから*1、一昨年の衆院選でも同党には投票しなかったし*2衆院戦後早々に「小池百合子さんの背中をまぶしく見ていた」とほざいていた蓮舫を入党させた時点で「こりゃダメだ」と悪い予感の的中に頭を抱えて現在に至るが(笑)、時事通信のグラフが示す通り、2016年参院選民進党への投票率が25.3%だった無党派層は、2017年では立民と希望の党投票率合計がなんと47.6%にも達していたのだった。それが今回の参院選では無党派層の立民と民民(国民民主党)への投票率合計は27.2%にまで減った。つまり、16年参院選→17年衆院選→19年参院選の変化を見ると、「オール民進」は17年衆院選で22.3ポイントも増やしたが19年参院選ではそこから20.4ポイント減らし、差し引きで16年参院選よりは1.9ポイント増加が残った。立民に対する幻想はほぼ雲散霧消したとみられる。私はこれを同党に働く力学(党に所属する政治家の思想信条や党のコアな支持層の志向)から判断して不可避の推移だと考えている。これを同党に対する批判の言葉でまとめれば、「立憲民主党は格差や階級の問題に向き合えていない」という言葉になる。

 その分山本党への支持が増えたのは必然ではあるが、16年参院選から17年衆院選への過程で「オール民進」への無党派層の支持が20ポイント以上も増えて、その分が今回減ったにもかかわらず、山本党への無党派層の支持は9.8%であって、増えたパイの半分も獲れていないとの見方もできる。山本党の体質に不安を覚える人がそれだけ多いという意味ではないか。私も同党の体質に不安を抱く人間の一人だが、そもそも政党名に元号を冠している時点で論外であって、この党名を維持している限り私がこの政党に投票することはない。

 たまたま橋本氏の『新・日本の階級社会』のページをめくってみると、下記の文章が目に入った。

 

 アンダークラスでは、平等への要求が排外主義へと強く結びついてしまっている。(前掲書241頁)

 

 このような志向を持つ人々が共産党を支持する可能性はなく、必然的に山本党支持に向かうだろうから、山本党はこのような支持者からの圧力を受けて動く可能性がある。山本太郎自身は必ずしも右翼でも排外主義者でもないようだが、政治を動かすのは指導者ではなく支持者だ。政治家は支持者が志向する政治しかできない。現段階の山本太郎は、情熱は人一倍あるけれどもまだ自身の思想信条が固まっていないように見受けられるから、変な方向性に動く懸念はなしとしない。

 たまたま『週刊新潮』を立ち読みしていたら、山本太郎は昨年末までは数理マルクス経済学者の松尾匡に傾倒していたが、最近では植草一秀に影響を受けているなどと書かれていた。記事の指摘が当たっているかどうかはわからないが、植草といえば10年前の政権交代期に小沢一郎一派御用達のエコノミストとして「小沢信者」たちの間で「三種の神器」の一つ(他の二つは小沢一郎鳩山由紀夫)として信奉されていた人間だ。しかし、それ以前の小泉純一郎政権の時代には、小泉に反発して安倍晋三にすり寄っていた。政治思想的には右翼民族主義色の強い人間だ。

 そういえば山本は最近ではリフレよりもMMTに傾斜しているが*3、どういうわけか日本では右翼民族主義色の強い人たちがMMTを推しているのも気になる。なお松尾匡は自身を「MMT派ではない」と言っているようだ。

 以上のように、格差や階級社会化に冷淡すぎたために党勢が頭打ちになった立憲民主党に対する批判は当然ながら必要だが、それとともに、油断していると変な方向に行きかねない山本党に対しても厳しい監視の目を向けることが欠かせないと思う今日この頃だ。

*1:小池百合子から「排除」された人たちも、最初は小池をあてにしてなびこうとしていた(小池を「日本のメルケル」と持ち上げた菅直人などイタ過ぎた)。私はそれに腹を立てていたから、彼らを心から応援する気にはなれなかったのだった。

*2:選挙区には立民の候補はおらず、希望の党の候補がいたが、当然ながらそいつにも投票せず、選挙区では共産党候補に、比例では社民党に投票してともに「死に票」になった。

*3:前述の植草一秀は、積極財政派だが反リフレ派とみられるので、この点でも最近の山本太郎の変化と整合的かと思われる。