kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「山本太郎の党の支持者のかなりの部分が既成政党に絶望して選挙に行かなくなっていた」というのは本当に「事実」か

 コメント欄で、Twitterで相原たくや氏から私が受けている批判に対して反論してはどうかとのリクエストがあったので、そのうち1件について反論することにした。

 

 

 相原氏は上記ツイートで、「山本太郎の党の支持者のかなりの部分が既成政党に絶望して選挙に行かなくなっていたという事実」と書いているが、「事実」と断定するからにはそのエビデンス(証拠)を示さなければならない。それも、一つや二つの具体例ではダメで、統計的に有意な論拠を提示する挙証責任が相原氏にはある。しかし氏は論拠を示していない。

 以前、似たような件について堀茂樹氏と三春充希氏が論争したことがあって、この論争について堀氏に軍配を挙げた記事を今年8月18日に書いた。

 

kojitaken.hatenablog.com

 

 上記記事を参照されたい、で済ませてしまいたいところだが、思い直して上記記事の後半を再掲することにした。

 

 私は東京東部に在住しているので、東京西部よりは「本当に困っている人たち」や「消えてしまいたい、死にたい、そう思ってしまう」人たちが多いのではないかと思われる東京東部、その中でもそういう人たちの比率が高いのではないかと思われる足立、葛飾、江戸川の3区は他の区と比較して山本太郎元号党への投票率はどうなっていただろうかと思って調べてみた。

 

1manken.hatenablog.com

 

 上記リンクのブログ記事には、「れいわ新選組*1の支持層は、区内西部に偏っている」図も示されているが、東京23区各区の各党の得票率が、区全体の投票率とともに示されている。

 それを見ると、山本党の得票率が最少なのは足立区と葛飾区の6.2%*2で、次いで江戸川区の6.4%が続く。つまり、足立・葛飾江戸川区が23区中では山本党の得票率のワースト3なのだ。ちなみに足立区は公明党の得票率が23区中最多の17.2%で、江戸川区が第2位の16.3%、葛飾区が第3位の14.6%だ。この3区は立憲民主党が弱い区でもあり、立民の得票率のワーストは荒川区(ここも東京東部6区の1つだ)の14.0%だが、以下足立区14.2%、葛飾区14.3%、江戸川区14.4%と続く。ちなみにワースト5位も東京東部の墨田区の14.7%であり、立民の得票率が15%を下回っているのは上記5区だけだ。

 もちろん、東京東部の各区においても全国平均の4.55%よりは山本党の得票率が高いが、「本当に困っている人たち」や「消えてしまいたい、死にたい、そう思ってしまう」人たちの心を掴んだとは言い難い。少し前に朝日新聞のオピニオン面で菅原琢氏が指摘していた通り、山本党は政策を自由に選べるメリットがあるので、今後打ち出す政策によっては「本当に困っている人たち」や「消えてしまいたい、死にたい、そう思ってしまう」人たちの心を掴めるポテンシャルが他党より高いとは私も思うが、参院選でこうした人たちの心を掴んだから躍進したという結論を導き出すことは不可能だ。参院選投票率も足立区(46.4%)と江戸川区(47.0%)は5割を割っており、足立区は23区中最低、江戸川区はそれに次ぐワースト2位だ(葛飾区は51.2%で12位)。足立・江戸川両区ではこれまで通り公明党共産党に投票するか、さもなくば棄権するという投票行動をとった人が多かったのではないか。

 

 私には、下記ツイートが正鵠を射ているとしか思えない。

 

 

 私は上記引用文の記事からさらに、山本太郎及び彼の元号党に投票した人たちの一番のボリュームゾーンは、2014年衆院選では共産党に投票し、2017年衆院選では立憲民主党に投票したような、無党派層の中でも比較的アクティブな反安倍・反自民で、毎回の選挙には欠かさず投票している人たちであると推測している。本当に「既成政党に絶望して選挙に行かなくなっていた」人たちが山本太郎元号党に投票したのであれば、そのことが投票率の数字に表れていなければならないが*3、相原氏はそのようなエビデンスを示し得てもいない。

 なお、上記引用文中最後にリンクを張ったmichaさんのツイートは「本当に困っている」立場から発信されたといえる。もちろんそれは一例であって統計的な意味はないけれど。

 山本太郎も私自身もそういう立場にはないことは言っておかなければならない。

 そのことを山本太郎自身が率直に認めているエビデンスを以下に示しておく。下記は中島岳志が「Web論座」に書いた記事。

 

webronza.asahi.com

 

 以下引用する。

 

政治へのきっかけは原発事故

 

 山本さんが政治に関与し始めたきっかけは東日本大震災による原発事故でした。

 彼は、この時まで「何かあった時、自分は助かるかもしれない」と思っていたそうです。自分は芸能界で活躍する人間であり、税金も多く払ってきた。だから、他の人よりも優先的に助けてもらえるという「選民意識みたいなもの」があったと言います。

 しかし、これが一気に崩壊します。自分は切り捨てられる側の人間であると痛感し、「税金、高いなと思いながらも、そこそこな額を真面目に収めてきたのに切るんですか」と思ったと言います。(前掲『山本太郎 闘いの原点』)

 

出典:https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019061500001.html?page=3

 

 上記引用文にある『山本太郎 闘いの原点』(ちくま文庫, 2016)は私も今年8月に読んだ。読んだのは2019年8月10日の日付が印刷された第2刷であって、第1刷以降の山本太郎の記録が増補されている(今年の参院選で山本元号党が2議席を獲得したことも記録されている)。

 

www.chikumashobo.co.jp

 

 「選民意識」云々は上記文庫本の12頁、「税金、高いなと思いながらも、そこそこの額を真面目に収めてきた*4のに切るんですか」という言葉は13頁に出てくる。つまり本の冒頭部分だ。

 山本太郎は俗に言われる中卒ではなく高卒のようだがだが*5、早くから芸能界で認められたので、結構いい生活をしてきたのだ。だから「本当に困った人」の立場を身をもって知っているとはいえない。それはずっと定職を持ってきて今に至り、その間仕事に圧迫された経験は数多いけれども困窮体験は持たない私も同じなのだが。

 もっとも、このように率直に語ることができるところは、山本太郎に対して肯定的に評価できるというか好感を持てるところだろうとも思う。思うけれども、山本太郎の限界を示すものでもある。

 あと、山本太郎が今までに衆院選小選挙区制を批判した事例を、私は寡聞にして知らない。同じ意味のことを某所に書いたら、

山本太郎自身が典型的な3.11後に政治に目覚めた人ですから。90年代の政治改革がもたらしたことなどまるで知らないし知ろうともしないのでしょう。

とのコメントをいただいた(無断で公開してすみません)。そうかもしれない。山本太郎が「3.11後に政治に目覚めた」ことは、前記『闘いの原点』に率直に綴られている。

 この点に関しても、その「原点」から山本太郎はずいぶん遠ざかってしまったと思わないわけにはいかないのだが。いうまでもなく、国民民主党の電力系議員に対するいつぞやのコメントのことだ。

*1:引用文なので、原則としてNGワードとしている山本党の正式名称を記載した。

*2:四捨五入で同じ値になっているが、厳密にはどちらがより低いかまでは調べていない。

*3:たとえば、前回の選挙との投票率の増減と山本元号党の得票率との相関関係を示したデータなどを提示する必要がある。

*4:原文ママ。もちろん「納めてきた」の誤記。なおこの本の構成は木村元彦氏。

*5:「番組には出続けても、一応高校の方は退学にはならず」と前記『闘いの原点』122頁に書かれている。