衆参の補選及び再選挙と名古屋市長選について、長野と北海道は特に何も書く必要はないだろう。選挙戦の前から結果はわかりきっていた。焦点は広島と名古屋であって、偶然かどうか、両方の選挙は同じくらいの得票差だった。
まず広島再選挙の得票数は下記の通り。いずれもNHKによる。
▼宮口治子、諸派・新。当選。37万860票。
▼西田英範、自民・新。33万6924票。
▼佐藤周一、無所属・新。2万848票。
▼山本貴平、NHK受信料を支払わない方法を教える党・新。1万6114票。
▼大山宏、無所属・新。1万3363票。
▼玉田憲勲、無所属・新。8806票。
出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210425/k10012996961000.html
一方、名古屋市長選の確定得票は下記の通り。
▼河村たかし、無所属・現。当選。39万8656票。
▼横井利明、無所属・新。35万711票。
▼太田敏光、無所属・新。1万3804票。
▼押越清悦、無所属・新。8162票。
出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210425/k10012997021000.html
河村の得票数39万8656票は、前回2017年の市長選*1での45万4837票から5万6千票ほど減っており、対立候補は前回が19万5563票だったのが今回は35万票を超えた。投票率は42.12%で、前回の36.90%を5.22%上回ったという*2。
広島再選挙と名古屋市長選の共通点は、ともに犯罪にかかわっている。広島の河井夫妻の選挙違反事件は既に同夫妻が逮捕されて現在裁判が行われている。また名古屋のリコール偽造書名事件ではまだ本丸(河村たかし本人及び高須克弥)の立憲には至っていないし今後も本丸まで行き着けるかどうかは微妙だが、疑惑の市長本人が4選を目指して立候補するという暴挙に出たのが今回の選挙だった。
広島では罪を犯した側において、どうやら支持層が寝てしまったために「野党共闘」の候補が自民党候補に3万4千票程度の差をつけて勝った。前記自民候補の敗因の指摘は朝日新聞の前田直人記者によるものだが、妥当な分析だと思った。
参院広島再選挙の投票率33.61%は東京の区長選並みに低いですが、低投票率の要因にはふたつあり、①内輪ばかりで盛り上がり、無党派層が投票にいかないケース②事情があって特定の組織が動かず寝てしまい、動員がきかないケース。今回は無党派層の含有率が高かったようなので、②だろうと思います。
— 前田 直人 (THE ASAHI SHIMBUN) (@Nao_Maeda_Asahi) 2021年4月25日
しかし名古屋市長選はそうならなかった。有権者が寝ていたのは、むしろ河村がダブルスコアで勝った前回の選挙であって、今回はさすがに河村に退場を促す声が一定程度あり、それが4万8千票差というある程度の「接戦」につながった。
とはいえ投票率は5ポイント程度増えただけだ。
悲惨なのは中日新聞の出口調査結果*3に見る各党支持層の投票動向だ。党の方針に反して河村に投票した人間が異様に多く、党の方針に従った人たちが多かったのは公明党と共産党だけだった。しかし公明党支持層の17%程度と共産党支持層の22%程度が河村に投票している。これが他党になると、立民47%、社民50%、民民52%、自民53%、某新選組60%、維新71%程度がそれぞれ河村に投票している。
余談だが、おそらく某新選組のサンプル数は10または20で、社民党のサンプル数は30ではないかと推測される。中日の出口調査ではなく、どっかの中日系テレビ局のニュースの画面が貼り付けられたツイートで見たのだが、某新選組の投票先のパーセンテージが10の倍数になっていて、社民党のそれは10ポイントを3分の1にした3.33%の倍数になっていたからだ。少なくとも名古屋市では、某新選組はそこまで弱くなっているとみられる。
仮に某新選組のサンプル数が10だとすると、うち6人が河村に、3人が横井利明に投票したことになるが、1人の投票行動が違っていたら河村5人、横井4人になっていたわけだ。だから今回の出口調査の結果から「某新選組の河村支持が際立って多い」ということはできない。いかにもn=10と思われるグラフから、某新選組はそこまで弱ったんだなという結論を導くことができるだけだ。もっとも、緩い支持層が離れていった結果現在残っている人たちの中には、かつてオザシンだった経歴を持つ「信者」が多いことは容易に想像がつくから、新選組支持者10人のうち6人が河村に投票したとしても何も驚くには当たらない。
だが、今回問題にすべきは、立民から自民に至るまで半分またはそれ以上が河村に投票するほど惰性力が強いことだ。
無党派層も、事前の世論調査で2割くらいしか横井に投票しないはずだったのが出口調査ではかなりの人たちが横井に投票したが、それでも54%ほどが河村に投票し、横井に投票したと答えたのは43%程度だった。
反河村側の敗因は、いかにも古い自民党色を蒼然とさせる候補を立ててしまったところにあったのではないか。衆参の補選及び再選挙にみられる通り、このところ自民党が忌避される傾向が全国的に強い。そこにもってきて歴史認識も河村と変わりない自民党右派の県議では勝ち目が薄かった。
某新選組の支持層などは減税がどうのと言っているようだが、河村が唱える減税は弊ブログや以前運営していた「きまぐれな日々」で散々批判してきた通り富裕層優遇の政策でしかない。某新選組支持層はそんなことも理解し得ないほど程度の低い人間ばかりしか残っていないように見受けられる。これも前から書いている通り、山本太郎は一度政界を退いた方が良い。
最後に広島の再選挙だが、長野の参院補選で玉木雄一郎がへそを曲げた経緯とは大いに異なり、立憲民主党と国民民主党が強力に組んだ。これは今回北海道2区で当選した松木謙公らとともに「小沢側近四天王」を形成する旧国民民主党の衆院議員・佐藤公治が立憲民主党にいて「結集ひろしま」の代表を務めていることと関連するだろう。小沢一郎はかつて保守分裂となった青森県知事選で核燃サイクル推進派の候補を応援して当選させたことがあるが(1991年)、今回の広島でもあの東電労組出身の民民の参院議員・小林正夫が宮口治子候補を応援するなどした。そのせいもあってか宮口候補が脱原発を訴えることもなかった。今回はそれでも自民党候補を倒したことに意味があるとは思うが、小沢系の暗躍などによるネガティブな側面も「野党共闘」にはあることを押さえておかなければならないだろう。