kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

中公新書から中北浩爾『日本共産党』、黒木登志夫『変異ウイルスとの闘い』が発売された

 まだ買ってもいないので読書ブログではなくこちらで。

 

 

 読売系になってしまってから久しい中公新書だが、最近は新書本では中公を買うことが多い。

 中北浩爾『日本共産党』は相当分厚いらしい。黒木登志夫『変異ウイルスとの闘い――コロナ治療薬とワクチン』は弊ブログで何度も引用した『新型コロナの科学』(2020)の続篇で、以前から2022年刊行予定だと著者が明言していた。最低この2冊は買わないといけない。

 ここ5年ほどの間に、共産党史のうち戦前については、1960年代の松本清張『昭和史発掘』(文春文庫)の一部と昨日(5/23)読み終えたばかりの立花隆日本共産党の研究』(講談社文庫)、戦後すぐの伊藤律の件については1990年代の伊藤律自身による『伊藤律回想録―北京幽閉二七年』(文藝春秋1993)、それに渡部富哉『偽りの烙印 - 伊藤律・スパイ説の崩壊』(五月書房1993, 1998改版)などを読んだ。

 立花本を読んだばかりなのでそれを踏まえて言うと、最初期の共産党は人を疑うことが少なすぎて特高につけ込まれてスパイMこと飯塚盈延に実権を握られるなどの失敗をしてしまった。すると今度は、スパイでない人間までスパイに見えてしまう疑心暗鬼に陥ってしまった。この場合第一義的に非難されるべきは共産党に対する弾圧であるのは当然だ。

 そのような理不尽な弾圧を受けていたのであるから、リンチ事件で罪一等どころか罪を大幅に減じられて当然なのに*1立花隆の連載に対してリンチそのものをなかったことにした1970年代の共産党も誤った過剰反応をしてしまったといえる。立花が自説を補強するために、当時共産党副委員長だった袴田里見の著書『党とともに歩んで』(1973, 初出は『前衛』連載1966-68)からリンチ事件に言及した箇所を引用すると、それまで同書を党員に一読を勧める学習参考文献としていた共産党は一転して袴田に自己批判を『赤旗』に発表させた上で同書を絶版とし、これが1977年末の袴田除名の遠因になったとのことだ*2。翌1978年初め頃の『週刊新潮』の新聞広告でよく袴田の名前を目にした記憶は今も鮮明だ。この件など、70年代の共産党のリスクマネジメントがいかに拙劣だったかをよく示している。あの事件は傷害致死には当たるか可能性があるけれども特高の苛酷な弾圧下では止むを得なかったとの弁明をすれば多くの人は納得したと思われるのに、なまじ事件そのものを全否定しようとしたために45年間もの同志だった宮本顯治と袴田里見の罵り合いと袴田の除名劇を招き、自ら傷口を広げてしまった。その結果共産党内では今も「宮本顯治=偉人、袴田里見=悪人」という位置づけになっているのかもしれないが、そんなものは党外の人間にとっては何の説得力もない。

 そして戦後の共産党については、渡部富哉氏や加藤哲郎氏らによる資料発掘によって、伊藤律のスパイ説が誤りであったことがほぼ完全に明らかにされた。しかし共産党は未だに伊藤律の名誉回復を行っていない。渡部氏の本が出た1993年には、伊藤律をスパイと決めつけた野坂参三自身がソ連のスパイであったことが週刊文春に暴かれた。野坂は同志の山本懸蔵をソ連に密告し、山本はスターリンに粛清されてしまったのである。1993年当時当時100歳で、誕生日を『徹子の部屋』で祝ってもらったばかりだった野坂は、自らへの除名処分について「残念ながら事実なのでこの処分を認めざるを得ない」と語った(1992年12月28日付朝日新聞夕刊)。

 しかし以上の経緯にもかかわらず、共産党は未だに伊藤律の名誉回復をしていない。ましてや本当にスパイだったかに疑義があるらしいリンチ事件の犠牲者・小畑達夫など、今後100年経ってもスパイ説の見直しなど行われないのではなかろうか。

 伊藤律関係では高世仁氏のブログにいくつか記事がある。伊藤律の次男・淳氏の著書の紹介と訃報を報告した高世氏のブログ記事、及び2020年1月に「ちきゅう座」に載った渡部富哉氏の文章へのリンクを以下に張っておく。

 

takase.hatenablog.jp

 

 上記の本は私も図書館で借りて読んだ。読書記録を見ると2017年10月22日読了。

 

takase.hatenablog.jp

 

 上記ブログ記事によると、伊藤淳氏は2019年9月7日に亡くなられたようだ。

 

chikyuza.net

 

 以上、共産党シンパだった松本清張を除いて、戦前から戦後間もなくの共産党については同党に批判的な立場で書かれた本を主に読んできた。中北氏の中公新書はそれらとは全く趣を異にするものだろうと予想するが、共産党の歴史がどう盛り込まれているかには興味津々だ。

 最後に蛇足だが、本記事からリンクを張った高世仁氏は、某人によって「珍右翼」なるレッテルを貼られて以前から攻撃され続けている。某は最近では弊ブログの攻撃にも熱心だが、私の見るところ「珍右翼」とのレッテルは某自身にこそふさわしい。なぜなら某は極端なまでの権威主義者であって、下手なネトウヨなんかよりもよっぽど右翼的と思われるからだ。私はこの人士を稀に見る醜悪な心性の持ち主であるとして心底から軽蔑している。このことは以前にも書いたが、高世氏のブログにリンクを張ったことをきっかけとして改めて申し述べておく。

*1:なぜなら、党執行部に特高のスパイがいるような異常事態がなければ、周り中がスパイだらけに見えてしまう疑心暗鬼は起こりようがないからである。

*2:立花隆日本共産党の研究(三)』(講談社文庫1983)234頁。