故安倍晋三が共感を隠せなかったロシアの独裁者・プーチンには、複数の政敵暗殺にかかわったのではないかとの疑惑がある。その手段は主に20世紀のミステリ作家アガサ・クリスティが好みそうな「毒殺」だった。少し前に読み終えた下記の本には、そういえばプーチンが政敵の独裁に関わった疑惑の話はあまり書かれていなかったように思う。本の後半ではプーチンの独裁政治に対する批判的な論調が強かったけれども。
ロシアは言論の自由が保障された国では全くない。醍醐聰氏の一連のツイートに私は注目した。
①「専制か民主かという価値観で世界を分断してはならない」という主張がある。一見もっともらしいが、どっちもどっち論の亜種である。欧米の政治文化を「民主主義」と呼ぶことには私も異論がある。だからといって、露中と欧米の政治文化の質の差を指摘するのを「分断」とみるのは誤れる相対化である。
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月7日
② なぜなら欧米と露中では社会の血液ともいえる言論の自由、特に政権を批判する自由に明確な違いがあるからである。露中の場合、政権批判は長期の身体拘束、さらには生命の危険さえ覚悟しなければならない。欧米でも言論の不自由があるが、その理由は弾圧と言うよりも、忖度・委縮が主である。
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月7日
③ ちなみに、国境なき記者団が公表した報道の自由度ランキング(2022年版。計180ヵ国)によると、上位5位のうち4ヶ国は北欧諸国。ドイツ16位、イギリス24位、フランス26位、アメリカ42位、日本71位である。他方、ベラルーシ153位、ロシア155位、中国175位となっている。
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月7日
④ 銃で護身するのを肯定する風潮を断ち切れないアメリカ、選挙結果に納得できないからと支持者に議会襲撃を煽るトランプが今なお、かなりの支持を得ているアメリカを民主主義社会と呼ぶのは不似合いである。であれば、欧米を「法治主義国家」と呼ぶことに私は違和感はない。
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月7日
⑤ 今、強調しなければならないのは、露中の支配下では健全な政権批判が窒息させられていること、国連憲章さえ意に介さない露中の専制大国主義が、今日、世界平和の最大の脅威となっていること、ロシアの覇権主義的隣国侵攻を止めるには、同国において健全な政権批判が不可欠だということである。
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月7日
⑥ そう考えると、露中と欧米の政治文化の質の落差を重視することを躊躇う理由はない。言論の自由がない国は孤立すると思い知らせるのを躊躇うのは有害だからである。ロシアにウクライナ侵略で成功体験を与えないことは、専制主義の代償がいかに大きいかを中国に学ばせるうえでも不可欠である。
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月7日
ことに上記2件目のツイートに「露中の場合、政権批判は長期の身体拘束、さらには生命の危険さえ覚悟しなければならない」と指摘している点が重要だ。また3件目のツイートで言及されている国境なき記者団が公表した報道の自由度ランキングで、日本はかつては10位だったが、自民党(安倍晋三)が政権に返り咲いてから順位を急落させた。
醍醐氏は、安倍晋三暗殺を承けてもツイートを発信した。
同感。
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月8日
人の死は平等な扱いであるべき。しかし、死はその人の生前の行いを清算するものではない。条理から言うと、安倍氏の疑惑隠しのための公文書改ざんに加担させられることへの良心の呵責から自死へと追い詰められた赤木俊夫さんの死を私は悼む。 https://t.co/9mVVbUMGC6
まったくだ。何が「卓越したリーダーだった」だ。ふざけるな。既に始まっている急激な日本の没落には、2010年代の安倍政権の政治が大きく寄与した。それが歴史的な審判を受けるのはこれからだ。
醍醐氏は、下記志位和夫のツイートをリツイートした上で、これを批判している。
(名古屋で記者団に)回復を願っておりましたが、安倍元首相のご逝去の報に接し、たいへんに残念です。心からの哀悼の意を表します。
— 志位和夫 (@shiikazuo) 2022年7月8日
言論を暴力で封殺した蛮行は、民主主義に対する挑戦であり、深い憤りをもって糾弾します。この蛮行が民主主義が最も尊重されるべき選挙中に行われたことは許せません。
志位氏へのRt
— 醍醐 聰 (@shichoshacommu2) 2022年7月8日
市井の人間の暴力だけが民主主義への挑戦ではない。権力者による少数意見黙殺、公文書改ざん、国民への奉仕者であるべき公務員の私物化(赤木俊夫さんはその犠牲者)こそ、民主主義への最大の挑戦である。この点に触れず、念入りな哀悼だけでよいのか? 横並びの優等生話法は辟易だ。
今回、たまたま安倍晋三自身がテロの犠牲になったが、安倍が行った民主主義の毀損は今後もこの国に住む人々の脅威であり続ける。それどころか参院選のさなか、それも投票日の直前に暗殺事件が起きたことによって、その脅威は増大しかねない。
「死はその人の生前の行いを清算するものではない」とは至言だ。
今回の安倍晋三暗殺に関しては、下記萩原一彦氏のツイートにも強く共感した。
「民主主義に対する挑戦だ」という人がいるけど、僕は民主主義が機能していないから起きた狙撃事件だと思っている。民主主義はあくまで言論による社会運営であり、話し合いが機能せずに暴力に訴える人間がいるということ自体が民主主義の機能不全の表れだと思う。
— kaz hagiwara(萩原 一彦) (@reservologic) 2022年7月8日
みんな、今は冷静に、そしてこれから、どんなに時間がかかってもこの国の民主主義をより良く機能させることが出来るように、根本的な部分から見直して、暴力ではなく、論理的や思考に基づいた議論がしっかり機能する社会を是非。
— kaz hagiwara(萩原 一彦) (@reservologic) 2022年7月8日
暗殺者は安倍氏の命を奪っただけでなく、今日の選挙運動を全党全面的に不可能にし、参議院選挙を妨害した。選挙運動は明日1日しか残されていないが、各党候補や党首はそれぞれテロに対する格別な警戒体制を強いられる。組織的か単独かにかかわらずこの事件は民主主義に対するテロリズムと言っていい。
— kaz hagiwara(萩原 一彦) (@reservologic) 2022年7月8日
総理大臣経験者の暗殺は1936年の2.26事件での高橋是清以来だった。下記毎日新聞記事に指摘の通り、戦後にはなかった。
安倍元首相銃撃 過去の政治家襲撃事件を振り返る
毎日新聞 2022/7/8 13:01(最終更新 7/8 19:06)
近年、政治家が襲撃された事件としては、2002年10月に民主党の石井紘基衆院議員(当時61歳)が東京都内の自宅前で右翼活動家に刃物で刺されて死亡した事件がある。07年4月には、選挙運動中だった伊藤一長・長崎市長(当時61歳)がJR長崎駅近くの選挙事務所前で、暴力団幹部に拳銃で撃たれ、死亡した。
首相経験者が襲撃されて死亡した事件は戦後に例がなく、戦前には伊藤博文元首相がハルビン駅で銃撃され、死亡した。このほか原敬首相が1921年に東京駅で刃物で刺されて死亡したほか、浜口雄幸首相は30年に東京駅で銃で撃たれた後、翌31年に死亡した。また、5・15事件(32年)や2・26事件(36年)でも犬養毅首相や首相経験者らが亡くなった。
戦後に首相や閣僚経験者、政党幹部が狙われたケースとしては、安倍晋三氏の祖父にあたる岸信介首相が60年に首相官邸で右翼活動家に刺されて重傷を負った。同じ年には、浅沼稲次郎・社会党委員長が17歳の少年に刺殺された。
近年では、92年3月に金丸信・自民党副総裁が栃木県内で講演後、拳銃で狙撃された。金丸氏にけがはなく、その場で右翼団体構成員が取り押さえられた。また、94年5月には首相を辞任した細川護熙氏が東京都内のホテルロビーにいたところ、右翼団体の構成員だった男性が天井に向けて拳銃を1発撃った。
90年1月には本島等・長崎市長が市役所前で右翼団体幹部に銃撃された。本島氏は左胸を撃たれたが、一命をとりとめた。【林田七恵】
出典:https://mainichi.jp/articles/20220708/k00/00m/010/131000c
安倍元首相銃撃 過去の政治家襲撃事件を振り返る | 毎日新聞
直接本人襲わなくても加藤紘一実家放火とか最近だと辻元清美事務所荒らしとかも
2022/07/08 14:15
故加藤紘一の実家が放火された事件は、第1次安倍晋三内閣が発足する前の月、第3次小泉純一郎政権末期の2006年8月15日に起きた。当時この事件に対するコメントを全く発さず、貝になっていたのが当時の首相・小泉純一郎であり、内閣官房長官・安倍晋三だった。また、放火事件を笑いものにしたのが稲田朋美だった。
その16年後に、86年ぶりの総理大臣経験者の暗殺事件が起きた。
しかし、「晋三死すともテロは死せず」になる恐れは大いにある。1930年に浜口雄幸が襲撃され、翌年死亡したあとにテロ事件が横行した。1932年の5.15事件では犯人の助命嘆願運動が大々的に起きた。つまり世論がテロを後押しした。1936年の2.26事件では大規模な犯人グループだった青年将校たちに世論は冷淡だったが、テロの代償として国家主義的な統制が強まった。そのあげくに1937年の盧溝橋事件を契機として故坂野潤治のいう「崩壊の時代」に突入した。
現在も、参院選で党首が独裁体制を敷く政党や、その極右版ともいうべきわけのわからない陰謀論に絡め取られた政党が比例区で複数議席を獲得するかもしれないと言われている。
そんな時に安倍晋三の神格化なんかをやられてはたまったものではない。
江戸西氏のツイートへのリンクも追加しておく。
言論を徹底して軽んじてきた人が、言論ではなく銃に斃れたとのはあまりにも皮肉というか、何というか……。だからこそ言論の価値を死守せねばという認識が共有されなければいけない
— \江戸西/ (@hitetsugisou) 2022年7月8日