kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

朝日新聞の橋下徹インタビュー、中身全くなし

朝日新聞が一昨日(2/10)にもったいぶって1面で予告した橋下徹インタビューが11面に大きく掲載されているが、悲しいくらい中身がない。

引用する気力も萎えるほどスカスカなインタビュー記事だが、橋下が行政サービスをユーザーの選択に晒す、つまり市場原理を働かせると言っている時点で終わっている。市場原理になじまないから行政の範疇になるのだ。橋下の思想は手あかのついたサッチャリズムの変種に過ぎず、そんなものは小泉純一郎自民党右派の政治家たちがずっと追求してきたことだ。橋下の教育改革にしても安倍晋三平沼赳夫が熱心だった領域であり、そのせいか最近は安倍晋三も「橋下スリ寄り競争」に参戦してきている。

あとは「明治以来続いた社会システムや統治機構を変える」というお題目だけ。このくだりを読んでいて思い出したのは、最近来なくなったのだが、つい最近まで『きまぐれな日々』の常連だったある「小沢信者」の常套句だった。なるほど橋下のお題目は小沢一郎のそれとよく似ており、小沢が橋下にすり寄りたくなる気持ちもわからなくはないが、橋下の方がもはや格下の小沢など相手にしていないことは、橋下が小沢と強く結びついている河村たかしを切り捨てたがっていることからも明らかだ。

しかし、このインタビュー記事を読んでいると、橋下ブーム自体がバブルに過ぎないことがはっきりわかる。こんなバブルは早いとこ弾けさせてしまわなければならない。

「原発5基、予測超す劣化…運転延長基準に影響も」(読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120211-OYT1T00846.htm

原発5基、予測超す劣化…運転延長基準に影響も


 国内の商業用原発全54基のうち5基で、原子炉圧力容器の脆(もろ)さの指標となる「脆性遷移(ぜいせいせんい)温度(関連温度)」が、予測値を上回っていたことが読売新聞社の調査でわかった。

 炉が予測より早く脆くなっている可能性がある。予測値のズレは圧力容器の劣化の正確な把握が困難であることを意味するだけに、古い炉の運転延長に向けた国の基準作りなどに影響を与えそうだ。

 原発を持つ電力会社10社に関連温度などをアンケートで尋ね、取材で補足した。

 鋼鉄製の圧力容器は、原発の最重要機器だが、中性子を浴びて次第に脆くなる。関連温度が高いほど、衝撃に対する強度は低い。関連温度は対象に衝撃を与えて破壊する実験で推定するため、圧力容器本体での測定はできない。電力各社は容器と同じ材質の試験片を炉内に置き、数年〜十数年おきに取り出し実験している。
(2012年2月12日03時00分 読売新聞)


これは玄海原発1号炉で以前から問題とされてきた件だが、こんな記事が読売に載るとはとまず驚いた。

そして思ったこと。まずこの5基とはどこなのか。読売新聞本紙には書いてあるのか。

もう一つ。40年を超えて稼働している敦賀(日本原電)、美浜(関電)の各1号機や危険が指摘されている玄海1号機など一部の原子炉を切り捨てて他の原発の再稼働に結びつけようという意図が読売にあるのではないかという陰謀論。おそらくこの憶測は間違いで、記者は粛々と取材を行い、記事にしただけだとは思うが、読売の幹部がそういう動きに結びつけようとする可能性はある。

実際、浜岡原発の停止はそれと引き換えに他の原発を再稼働させようとする経産省とその意を受けた当時の経産大臣・海江田万里の方から当時の首相・菅直人に働きかけたものだといわれている。そのもくろみ通り海江田は玄海原発再稼働へと動いたが、菅に阻まれた。これが国会で海江田が泣いたり、海江田が民主党代表選で小沢一郎に担がれる理由になったと私は考えている。今にして思えば菅が海江田を阻んだことは大きかったが、代表選が「野ダメ」(野田佳彦)対海江田という原発推進派同士の戦いになったことは、国民に民主党への失望感を与える結果になった。

読売の報道を読んで思い出したのはそんなこんなのあれこれ。今回も、報道の意図はどうあれ、原発推進派がどんどん追い込まれてきていることは間違いないと思うのだ。

「西山事件」そのものより、蓮見喜久子元事務官のテレビ出演が毎日新聞にトドメを刺したのではないか

「外務省機密漏洩事件」は別名「西山事件」、西山太吉氏に言わせれば「日米密約事件」とのことだが、あの事件が毎日新聞社を一度倒産に追い込んだ(1977年)とはよく言われることだし、実際その通りだと思う。

しかし、前々から私が疑問に思っていたのは、毎日新聞の部数がもっとも大きく落ち込んだのは1974年であり、「西山事件」の起きた1972年ではなかったことだ。そのことから、毎日新聞倒産の真の理由は購読料値上げと石油ショックだと言われることもある。

私が見落としていたのは、「西山事件」で実は毎日新聞は二度大きなダメージを受けたことだった。一度目は西山氏と蓮見喜久子元外務省事務官の起訴状に「ひそかに情を通じ」と書かれた1972年。しかし、実はもっと大きかったのは1974年1月31日の一審判決の時だった。西山氏無罪、蓮見氏有罪という判決に世論は反発し、名文家として知られた朝日新聞記者・深代惇郎(1929-1975)の『天声人語』もそうしたトーンのコラムを書いた(1974年2月1日付朝日新聞)。蓮見元事務官は『週刊新潮』に掲載された「手記」をはじめとするいくつかの週刊誌に登場し、それどころかテレビのワイドショーにも出演した。

この蓮見氏の「テレビ出演」こそ大きかった。先月来、毎週日曜日の21時台になると当ダイアリーのアクセス数が目立って増えることからも明らかなように、テレビの影響力は絶大で、それは70年代の昔も2010年代の現在も変わらない。テレビに蓮見元事務官が出演したことが、毎日新聞に最大のダメージを与えたのではないかとの仮説を、いま私は立てている。


[追記](2012.3.4追記)

当記事とあわせて、下記5件の記事もご参照いただければ幸いです。

リアルのナベツネが「西山事件」で演じた役割(『サンデー毎日』2/19号のナベツネ「寄稿」より)

新聞のテレビ欄を見ると、今晩9時のTBSテレビ放送のドラマ『運命の人』第5話で、読日新聞記者・山辺一雄が主人公を訪ねるシーンがあるらしい。そこでリアルの渡邉恒雄ナベツネ)が『サンデー毎日』2月19日号に寄せた寄稿文から一部紹介しておこう。

「ゆすり、たかり記者のような描き方をされている」と怒るナベツネだが、この件に関してはナベツネの主張に分があり、昔から中曽根康弘と癒着していたナベツネ田中角栄にたかっていたはずがない。おそらく今後ドラマにも描かれるだろうが、リアルのナベツネは、西山元記者の裁判で被告人側の証人として法廷で弁護に立った。以下ナベツネの寄稿から引用する。なお、ナベツネは蓮見喜久子元外務省事務官の名前を意図的に出さず、ドラマの役名や伏せ字で表現している。

 何故、私が西山弁護のため、毎日新聞弁護士会合にまで出席し協力したかというと、その第一の理由は、西山君が釈放後、彼から三木事務官(原文ママ)との男女関係の始まり、その後の進行状況、さらに機密文書の受け渡しなどの実際の経過を詳細かつ写実的に聞いていたので、起訴状中の「ひそかに情を通じ、しつように申し迫り、これを利用して同被告人(三木事務官=原文ママ)をして外交秘密文書を持ち出させ、記事の取材をしようと企て…」とあることについて、疑問を持ったからである。

 私が西山君から聞いたところでは、西山君が帰宅しようとする三木事務官(原文ママ)を自社の車で送ったところ、彼女が「飲みたい」と言い、したたか酔った段階で「一休みしましょう」と連れ込み宿(今日のようなハイカラなラブホテルは当時はまだなかった)に誘い入れ、かつその後のベッドでの様子を詳しく私に報告した。

 何故それが重要かというと、彼女の方が積極的だったならば、検察のいう「ひそかに情を通じ、しつように申し迫り…」という件(くだり)が成り立たなくなるからだ。

(『サンデー毎日』 2012年2月19日号掲載 「私は『運命の人』に怒っている!」(読売新聞グループ本社会長・主筆 渡邉恒雄寄稿)より)


スポーツ紙や夕刊紙や東京新聞(2/10)の1面掲載コラムは「ナベツネがドラマ『運命の人』に激怒している」としか書かなかったが、実はナベツネの「寄稿」の核心は上記の引用部分にある。ナベツネは「ひそかに情を通じ」という検察の主張を否定しているのである。ただ、ニュースソースが西山太吉氏本人であるところが弱いとはいえるが。

さらにナベツネは、ある男が読売新聞社ナベツネを訪ねてきて、安川壮外務審議官(ドラマでは「安西審議官」)の前任の黄田多喜夫審議官の秘書をしていた時の三木秘書(原文ママ)と情交があったという告白を受けたという。その男がナベツネを訪ねた理由は、事件第一報で知った外務審議官を同郷で尊敬する黄田審議官だと誤認し、尊敬する黄田さんのために彼を失脚させた女性秘書のウラの顔を暴き、報復するためだったというのだ。

これらを受けてナベツネは、1974年2月16日号の『週刊読売』に、「××さん(原文ママ)『聖女』説にみる論理的矛盾−『西山事件』の証人として」と題した記事を書いた。ナベツネを訪ねた男については、下記の澤地久枝の著書の243頁「第十二章告白2」に登場するX氏と同一人物と見られるとナベツネは指摘している。


密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)

密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)


ナベツネは、この澤地氏の著書を下記のように絶賛している。

澤地著のこの件の取材分析は、通常の新聞記者では出来ないような周到な取材と分析、文章力で驚異的なものであり、尊敬に足ると思う。いわゆる「西山事件」の全体像を完全かつ正確に書いたのは澤地さんのこの書に尽きると思う。


一方でナベツネは下記のように西山元記者を批判している。

 しかし、ひそかに私の心にひっかかったのは、新聞倫理の基本である取材源の秘匿と取材情報の目的外使用の禁止の原則を西山君が踏み外したことであった。


これについても、この部分だけ切り取れば正論だ。但し、ナベツネは自らがやらかしたさらなる巨悪を完全に棚に上げている。


ナベツネをして西山氏弁護の行動をとらせたのは、ドラマに毎朝新聞政治部長・司脩一として登場する毎日新聞政治部長(当時)・上田健一氏との友情だったという。余談だが、この政治部長のモデルを現政治評論家の三宅久之であるとしているブログを複数見かけたが、これは誤りである。西山氏は日頃上司の上田氏のことを良く言わなかったが、にもかかわらず上田氏は部下をかばうために献身的に行動した、その立場にすっかり同情したというのがナベツネの言い分である。

以上のナベツネの主張を信用すれば、当時の日本政府(佐藤栄作政権)や検察は、沖縄返還に絡んだ日米密約を男女関係の問題にすり替えたのみならず、その「男女関係」の中身も捏造したことになる。つまり、ナベツネが指摘するように「ひそかに情を通じて」という起訴状の主張自体が崩れ去るのである。

ナベツネは、山崎豊子氏の『運命の人』の取材に協力してやったのに、小説に悪く書かれた上、テレビドラマで田中角栄からカネをもらったシーンを見て「完全に西山君に対する感情がブチ切れた」という。私は、原作については、ナベツネに対する世間一般の標準的なイメージから山辺一雄のキャラクターが造形されているなと思ったし、ドラマに至っては、原作にも書かれていないようなナベツネ、もとい山辺一雄が田中角栄、じゃなかった田淵角造から金をもらうシーンを作るなど、悪乗りしているなと思った。ドラマでは田淵と癒着した山辺沖縄返還協定の全文をスクープしたことになっていたが、原作では旭日(きょくにち)新聞のスクープとなっており、史実では(確認していないがおそらく)朝日新聞のスクープだったと思われる。だからナベツネが「激怒」したことに「理」はあるわけだ。ただ小説やドラマによるこれらの歪曲について西山元記者にわびを入れよ、というのはお門違いである。抗議は山崎豊子氏、『文藝春秋』編集部、それにTBSに対してなされるべきだろう。

もっとも、スポーツ紙や夕刊紙が大々的に報じた「激怒」の部分は自らの「寄稿」に注目を集めるためのナベツネ一流の演技であり、「実は『西山事件』では俺はこんなことをやったんだぞ」というナベツネの自己PRであるとともに、TBSや毎日新聞の宣伝も兼ねて恩を売るという、ウィンウィンの番宣記事だったのではないかと私は疑っている。西山元記者に「一言わびを入れよ」というのも、一度この件で電話くらいかけてこい、という西山元記者への親愛の情も込めたメッセージではなかろうか。

当ダイアリーのこの記事も、TBSやナベツネや読売新聞や毎日新聞の宣伝になってしまっているかもしれないが、ナベツネの文章が実に面白かったので紹介した。他にもいろいろ紹介したいくだりはあるのだが、長くなったのでこのあたりでやめておく。

ナベツネという男の才能はただものではないと改めて思った次第。惜しむらくは、この件以外でのナベツネのベクトルの向きが日本(及びプロ野球界)のためにならない方向に向いていたのではないかと思われることだ。


[追記]
ドラマを見たが、まさしくリアルのナベツネが「寄稿」に書いたストーリーだった。つまり、起訴状や従来の通説に反して、「三木(蓮見)事務官の方が弓成(西山)記者を誘惑した」という、西山元記者から聞いた話に基づくナベツネの主張に沿ってドラマが作られていた(山崎豊子の原作ではこのあたりははっきりとは書かれずにぼかされている)。これを見て、ナベツネの『サンデー毎日』への「寄稿」はやはり「番宣」だったとの確信をますます強めた。