kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「木綿のハンカチーフ」と「ヨナ抜き音階」

「荒城の月」シリーズから、いきなり「木綿のハンカチーフ」の話に飛ぶ。

「荒城の月」で、「はなのえん」の「え」についたシャープを取ることが、本当に旋律を日本的にしたのか、と考えているうちに、「ヨナ抜き音階」のことを思い出したからだ*1

1975年12月に発売され、太田裕美最大のヒット曲になった「木綿のハンカチーフ」は、しばしば「ヨナ抜き音階」で作られているといわれる。

歌の前半は、その通りだ。都会に出る若者の高揚感を表すかのように、「ド」から「ラ」まで、「ファ」を飛ばして音階を駆け上がり、一気に高い「ミ」に跳躍する*2。確かに「ヨナ抜き」だ。

だが、後半の、田舎に残された恋人が歌う部分は、「ヨナ抜き」ではない。「いえ」という否認で始まる、2つ目の「い」で、初めて「シ」が使われる。「わたしは ほしいものはないのよ」の太字部分では「ファ」が、「そまらないで えって」の「か」では再び「シ」が使われる。

都会に出て行く若者が「ヨナ抜き」で歌い、田舎に残された恋人が「ヨナ」を歌うのが面白い。しかも、「いいえ」とか「私」とか「帰って」というところで、「ヨナ」が出てくる。社会通念と逆である。

「ヨナ抜き」は、実は日本の伝統的な音階ではなく、大陸伝来の音階なのだ。国粋主義者城内実も「ヨナ抜き」はきっと許さないことだろう*3

もちろん、長音階短音階はヨーロッパの音階だが、「ヨナ抜き」とて大陸伝来。イギリス民謡*4に「ヨナ抜き」は多いし、ショパンの「黒鍵のエチュード」だって「ヨナ抜き」だ。

むしろ、「ヨナ抜き音階」から私がイメージするのは、明治以降に作られた童謡や唱歌、それに演歌である。しかし、韓国では「ヨナ抜き音階」は日本伝来の音階であるなどと誤解されていて、「倭色歌謡」などとして発禁にされた歌がずいぶんあったらしい。ま、韓国が「ヨナ抜き」を嫌うのは理解できなくもないが。

冗談はともかく、音階に出てくる「ファ」や「シ」には不安感を煽るものがあって、特に「ファ−シ」の音程は、中世のヨーロッパでは「悪魔の音程」といわれていたとか。だから、「木綿のハンカチーフ」において、「いいえ」、「私」、「帰って」で「ヨナ」が用いられたのは理にかなっているのかもしれない。特に、最後の「帰って」は痛切だし、結局若者は恋人の待つ田舎には帰ってこない。筒美京平がどこまで意識して作曲したかは知らないけれど。

ところで、この歌はやっぱり35年前の歌だなあと思う。今時、田舎から都会に出た若者が、簡単に「毎日愉快に過ごす」ことなどできないだろうからだ。

*1:本論は、「荒城の月」とは無関係である。「え」は短音階の第四音(山田耕筰版)またはその半音上げ(滝廉太郎のオリジナル)であるため。

*2:原曲はイ長調で書かれているようだが、「移動ド」で記述する。

*3:「ヨナ抜き 大陸」でググってみると面白い。

*4:イギリスは日本同様の島国であり、大陸ではないが。