脱原発と言えぬ菅: 反戦塾 より。
あれっと思うタイトルだが、記事の中身はタイトルから受ける印象とは正反対だった。短い記事なので全文を引用する。
脱原発と言えぬ菅
毎日新聞は21日、26、27両日にフランス・ドービルで開かれる主要国首脳会議(G8サミット)でエネルギー政策に関する発言として、「原発の安全性を向上させたうえで継続利用する方針を示し、日本が<脱原発>に転じたとの見方を払拭する」という概要を報じた。 同紙の言う概要とは次のようなものである。
4本柱は(1)原子力の安全性向上(2)再生可能エネルギーの推進(3)石油、石炭など化石燃料の二酸化炭素(CO2)排出量削減(4)省エネ・節電。特に再生可能エネルギーを基幹エネルギーに加える方針を強調する。化石燃料のCO2排出量については、日本は石炭をガス化するなど最先端の削減技術を持つため、普及を促進する。
これで見る限り<脱原発>ではないか。どこに「払拭」するための文言があるのかわからない。かりに現存稼働中の原発以外に新増設するという可能性を言うのでなければ、記者の用語に対するあいまいさか不勉強であろう。もうひとつの可能性は、概要にはないニュアンスを発言するという、経産省役人あたりの背景説明で記事を作ったのか、ということである。ベトナムへの原発輸出を約束したので破談にしたくないという、いやな予感は前からあった。
しかし、同紙の別の面で海江田経産相が、記者会見で次のように語ったという記事がある。
「事故まで日本の原子力技術は世界一安全だと思っていた。しかし、事故を踏まえて高度化された安全性が確定していない。その間は(原発輸出は)足踏み状態にならざるを得ない」
その間に、競争相手だった中国、韓国、ロシア、フランスなどがその地位を奪うだろう。買い手も、原発の新増設が日本でさえ始まらないのに、「買いましょう」というお人よしがあるはずがない。どうせ日本は、「脱原発」にならざるを得ないのだ。なぜならば日本国民は、今回の事故で放射能のこわさを知り、安全神話への不信感をつのらせた。これから、原発立地歓迎などという自治体は、猛烈な反対でまず出てこなくなるだろう。
原発の停止や、経営切り離しをいやがっているように見える電力会社も、実は脱原発派なのだ。これからますます増えるであろう建設費・地元対策費や、万一の場合「補償額に制限は設けない」などといわれれば、民間企業である限り原発を引き受ける会社がなくなる。おいしい部分がなければ、原発はお荷物なのだ。
前回、欧米各国の新エネルギー開発が進んで原子力を上回り、発電コストもトータルで原発に対抗できるようになったことを書いた。アメリカはシェールガス利用の有効性確認以来、原発に関心をなくしている。原発が一番ふえそうな中国でさえ、新設は風力の方が多いと聞く。
このように、「脱原発」を宣言しても誰も驚かないし、逆に「払拭」してみせても、笑われるだけで日本に何の実利もない。むしろ、現存原発廃炉までの安全対策、核廃絶まで含んだ放射能処理技術などに経験を生かし、変わるべきエネルギーの開発で先頭に立ちます、と宣言したほうが国内外にとってどれだけいいかわからない。
払拭論が、仮に与野党内の守旧派政治家、一部官僚、財閥系財界の思惑に根差すようなものであれば、菅首相はこれをキッパリ切り捨てなくてはならない。それがないから、浜岡原発停止を発表してもあの程度の支持で止まっているのだ。
記事を全文引用したのは、ここで取り上げられている毎日新聞記事を読んだ時の私の感想と寸分の違いもなかったからだ。毎日新聞の元記事は下記。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110521ddm002030142000c.html
菅直人首相が26、27日にフランス・ドービルで開かれる主要国首脳会議(G8サミット)で行うエネルギー政策に関する発言の概要が20日、分かった。東京電力福島第1原発事故を受け、太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及を推進するなど4本柱で構成。原発の安全性を向上させたうえで継続利用する方針を示し、日本が「脱原発」に転じたとの見方を払拭(ふっしょく)する。
発言は26日昼(日本時間同夜)のG8のワーキングランチの冒頭で行われる。4本柱は(1)原子力の安全性向上(2)再生可能エネルギーの推進(3)石油、石炭など化石燃料の二酸化炭素(CO2)排出量削減(4)省エネ・節電。特に再生可能エネルギーを基幹エネルギーに加える方針を強調する。化石燃料のCO2排出量については、日本は石炭をガス化するなど最先端の削減技術を持つため、普及を促進する。【大貫智子】
私も「『原発継続』表明へ」という見出しを見て色めきだったが、記事を読んで、「なんだ、これだったら緩やかな『脱原発』じゃないか」と思ったのだった。
毎日の大貫記者は、原発を新設しなければ今後どんどん耐用年数に達して運転を停止する原子炉が増えることを書いていない。そして、即時原発を全停止するのでない限り、「原子力の安全性向上」をしなければならないのは当然だ。共産党でさえ同じ主張をしている。志位委員長は、原発事故直後に「即時原発を全部止めるのは現実的ではない」と言っていた。浜岡原発にしたって、止めたから安全対策に兆の金をかけることなどないなどと、一部の能天気な「反原発」派は主張しているが、現に運転を停止してた東京電力の福島第一原発4号炉が深刻な事故を起こしたことを認識していないのだろうか。そんなバカなことを言っているから、震災前にさんざん原発推進派にバカにされてきたのだ。原発は、一時停止どころか廃炉に持っていくまでの期間にさえ、安全性確保のために金をかけなければならない、とんでもない「金食い虫」なのである。原発が「低コスト」だなんてとんでもない。原発ほど金のかかる発電方式はない。これこそ、中曽根康弘や故正力松太郎など、過去の人間が現在や未来の人間に押しつけた余分なコストなのである。
以上の事実をふまえれば、「『脱原発』に転じたとの見方を払拭する」という毎日新聞の記事がいかにトンチンカンなものかがわかるが、私も『反戦塾』のブログ主のましまさんと同様、
概要にはないニュアンスを発言するという、経産省役人あたりの背景説明で記事を作ったのか
と勘繰った。ベトナムへの原発売り込みの件までは頭に浮かばなかったけれど。
ブログ記事の結びの部分、
払拭論が、仮に与野党内の守旧派政治家、一部官僚、財閥系財界の思惑に根差すようなものであれば、菅首相はこれをキッパリ切り捨てなくてはならない。それがないから、浜岡原発停止を発表してもあの程度の支持で止まっているのだ。
にも全面的に同感で、特に赤字ボールドの部分は、このところずっと私が思っていることそのものだ。私自身も、もしマスコミに「菅内閣を支持しますか」と聞かれたら「支持しない」と答えるが、内閣不信任案の提出について聞かれたら「支持しない」と答えるし、それでも万一不信任案が可決された場合、どのような政権に代わってほしいかと聞かれたら、与野党の脱原発派が作る政権を望むと答える。もちろん「自公」や小沢一郎を加えた「自自公」は論外だ。私が言う「与野党の脱原発派が作る政権」にはもちろん左翼政党も含まれるが、それだけでは数が足りないから、保守の一部新自由主義勢力が加わることをこの際容認する。しかし、いついかなる場合でも小沢一郎に付き従うような無定見の政治家は加えない。