kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

東電原発事故を「レベル8」に位置づけよという話が出ているが

http://enenews.com/nuclear-engineers-urging-iaea-to-create-level-8-on-ines-scale-for-fukushima

  • Nuclear engineers urging IAEA to create level 8 for Fukushima
  • Multiple source terms from multiple sources
  • 3 reactors with core melt accidents, likely meltdown through the vessels… Spent fuel pool accidents in 4 units


3基もの原子炉が炉心溶融を起こし、4つの冷却プールの事故を起こした東電原発事故は、「レベル8」相当だとして、原子核技術者たちが「レベル8」を新設し、東電の福島原発事故をこの範疇に入れよ、と言っているらしい。

昨日は、東電福島第一原発1号炉で、毎時4シーベルト放射線量が観測されたというニュースが報じられていた。「毎時4シーベルト」とは、1時間浴びると半数が死亡することを意味する。「死ーベルト」と記憶しておくと良いかもしれない。報道では4000ミリシーベルトと言っていたが、ミリは千分の一だから「4シーベルト」と表記した方が良い。原発事故発生当時には、マイクロシーベルト、つまり百万分の一で大騒ぎしていたのに、いまやここまできた。

これは、事態が急に悪化したわけでは決してなく、これまで現場に近寄れなくて明らかになっていなかった事実が次々と明るみに出てきたことを意味する。こういう現実があるのに、大酒をかっ食らいながら「原発事故収束、オレなら手がある」と称して「決死隊」を口にしたという人間がいかに愚かであるかは、この件だけでも明白だろう。原発事故が起きたときの総理大臣が、こんな「剛腕先生」ではなかったことは、日本国民にとって不幸中の幸いだった。毎時4シーベルト放射線が漏出しているところに「決死隊」が突っ込んだりしたら、多数の殉死者が出ることになったことは火を見るより明らかだ。この一例だけとっても、小沢一郎は政界を引退すべきだと思う。

しかし、日本国民はもはやこうした事態に慣れてしまって、バカバカしい政局の騒ぎに熱中するていたらくだ。


ところで、「レベル8」の話だが、「レベル7」までしか設定していない国際評価尺度が不十分であることは確かだ。


新版 原発のどこが危険か 世界の事故と福島原発 (朝日選書)

新版 原発のどこが危険か 世界の事故と福島原発 (朝日選書)


この本の16〜20頁に、国際評価尺度に関する記述がある。以下引用する。

国際評価尺度の欠陥


(前略)いまの評価尺度および評価体制には、無視できない欠陥が潜んでいる。

 いまの表示では、一般には事故・故障の大きさの相互比較ができない。事故・故障のクラス分け(レベル分け)とその大きさの間には、I-5のように、それぞれ10倍の差があることを明示すべきである*1チェルノブイリ原発4号機の事故は、史上最悪の事故ではあるが、原発で起こり得る最大の事故ではない。それよりもさらに一桁大きな事故も起こる。クラス分けにおいて、クラス7を上限とするのは適切な表現ではない。クラス7の上に、さらにクラス8、クラス9くらいまで考慮しておくべきではないか。

(桜井淳 『新版 原発のどこが危険か』(朝日新聞出版, 2011年=旧版は1995年発行) 16-19頁)


現在の「レベル7」の定義には、「数万テラベクレル(10の16乗ベクレルのオーダー)以上のヨウ素131に相当する量以上の長短寿命の核分裂生成物の放出」と書かれている。チェルノブイリは10の18乗から19乗ベクレルのオーダー*2の放出があったと見られているから、チェルノブイリ原発事故自体も「レベル9」あたりが妥当だ。

東京電力福島第一原発の場合、チェルノブイリ原発より一桁多い量の核燃料があった。同原発の1号機から3号機までの3基は、原子炉の中にあった核燃料のほぼ全量がメルトダウンしたと見られ、それがチョロチョロ漏出しているのを止めようにも止められない(あまりに放射線量が多過ぎて近寄れない)というのだから、「レベル8」どころか「レベル9」相当のチェルノブイリよりさらに悪い「レベル10」に位置づけるのが相当ではないかと思われる。

もちろん、これは「レベル8」新設を求めている技術者の思想とは違った話ではあろう。彼らは、隣接した複数の原子炉が同じようにメルトダウンを起こしたことを、チェルノブイリでは起きなかった事態であるとして重視しているのだろうと思う。

但し、一度に大爆発を起こして広範囲に放射性物質が撒き散らされたチェルノブイリと、チョロチョロ放射性物質が漏れ出ている福島第一原発では、汚染の分布が全く異なることを絶対に見逃してはならない。福島第一原発と比較すると「薄く広く」放射性物質がばら撒かれたチェルノブイリに対し、福島第一原発の場合は、原子炉の近傍に集中して、チェルノブイリとは比較にならないくらい高濃度の放射性物質汚染地域があって、おそらく何世紀のオーダーで人が住むことはできない。原発が建っている町に住んでおられた被災者の方々が、もとの住処に戻れる可能性はほとんどない。そう考えざるを得ない。残念ながらそれ以外の解釈は私にはできない。政府は気休めを言うべきではない。

ただ、福島県内であっても、原発からの距離があれば、決して人の住めない地域ではない。もちろん「ホットスポット」の問題はあるけれど。だから、いわゆる「リスク厨」が被災者のことなど何も考えずに、ただひたすら「やれ再臨界だ、逃げろや逃げろ」と叫んで恐怖心を煽るのは、「風評被害」を撒き散らすだけの愚かな行為だ。放射線は正しく恐れなければならない。

昨日報道された「毎時4シーベルト」の蒸気にしたって、ずっと以前から漏れていたのだ。以前には計測できなかっただけの話だ。それは、大気中の放射線量の時間変化を示すグラフを見ればわかる。昨日今日放射線量が急増したわけではない。最初から事故は非常に深刻だったということだ。

それなのに、震災直後に雲隠れして「安否不明」と揶揄された人間が「オレなら決死隊を突撃させて事故を収束させた」などと酔って大口を叩き、そんな人間を世の「反原発」を標榜する人たちの一部がもてはやすのだから、これほど人をバカにした話はない。剛腕親父やその支持者たちが「決死隊」を結成して、毎時4シーベルト放射線が出ている現場に出向いて、身体を張って復旧作業を行ってもらいたい。

*1:本には、事故・故障の大きさを10倍ごとに定義した「表I-5」が示されている。クラス1はクラス0の10倍、クラス7はクラス0の10の7乗倍すなわち1千万倍にしてクラス6の10倍、といった具合である。

*2:ちょっと調べた限りでは、約11エクサベクレルと見積もられていた。