kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

やはり「ダメダメ」ないまどきの原発本

読んでいる途中の本で、あまりにもひどい記述を見つけた。


テレビは原発事故をどう伝えたのか (平凡社新書)

テレビは原発事故をどう伝えたのか (平凡社新書)


下記の引用文は、フジテレビが昨年3月17日に放送した、東電原発事故に関するニュース番組を紹介したもの。

 その後も、フジテレビでは、さまざまなフリップボードを提示して、健康に害を及ぼすような放射線量ではないことを繰り返した。8時からのニュースでは、汲田伸一郎(日本医科大学教授)を迎え、東京新宿区の測定値1250マイクロシーベルトについて、発がんの恐れがあるのは10万マイクロシーベルト、人体の免疫力が低下する値が50万マイクロシーベルトであることを強調して、健康への直接的な影響はないことを指摘した。さらに10時台のニュースでも、加藤和明(高エネルギー加速器研究機構)をスタジオに招き、50万マイクロシーベルトではリンパ球の減少、100万マイクロシーベルトではだるさが顕在化、300〜500ミリシーベルトでは半分が死亡、700〜1000ミリシーベルトでは死亡、といった数字を出して、健康への影響はないことを力説した。

(伊藤守『ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか』(平凡社新書, 2012年)167-168頁)


この文章は何重もの意味でひどい。まず、文中にある「100万マイクロシーベルト」と「1000ミリシーベルト」は同じ値、すなわち「1シーベルト」のことである。こんな表記は、1メートルを「100万ミクロン」とか「1000ミリメートル」と呼んでいるも同然の、実にふざけた表記であって、それだけでもひどいものだと思うが*1、その上に明らかに数値が間違っている。即ち、「100万マイクロシーベルト」では「だるさが顕在化」する線量なのに、同じ値である「1000ミリシーベルト」では「死亡」する線量だと書かれている。これは後者の数字が一桁間違っているのであり、正しくは、3000〜5000ミリシーベルト、すなわち3〜5シーベルトで半分が死亡、7000〜10000ミリシーベルト、すなわち7〜10シーベルトで死亡、とすべきところである。

もしこの本に書かれている通りにフジテレビが放送したとすると、フジテレビ及び加藤和明が間違っていたことになる。そうではなく本の誤記なら著者及び新書の編集部の責任になるが、いずれにせよこんな初歩的な間違いに気づかぬまま本を出版してしまったお粗末さには呆れるほかない。これが昨今「粗製濫造」されている「原発本」のレベルなのだ。

さらにひどいのは昨年3月17日時点のフジテレビの解説だ。当時の新宿の測定値は「1250マイクロシーベルト」だったというが、もちろん正しくは「毎時」1250マイクロシーベルトだったのだろう。毎時1.25ミリシーベルト放射線を80時間浴びると累積の被曝量は100ミリシーベルト(0.1シーベルト)になり、発ガンのリスクが生じる線量になる。それなのに「健康への直接的な影響はない」などと平然と子どもだましの嘘を放送していたフジテレビのトンデモ報道もこれまたひどい。*2

この本には、この例に限らず、東日本大震災・東電原発事故の発生から1週間のテレビ報道を検証しており、当時いかにひどい「安全厨」に偏った報道がなされていたかを人々に思い出させる点では意義のある出版だったとは思う。

それだけに、上記に示したようなあまりにも初歩的な誤りを犯す軽率さは全くいただけない。

*1:もちろんこの点に関しては「ひどい」のは著者や出版社ではなくフジテレビである。

*2:赤線で削除した部分に関して、「ひどい」のはフジテレビではなく著者及び平凡社出版の方でした。http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20120330/1333117608 をご参照ください。