kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

機械翻訳の訳文を載せた本を強引に出版してしまった「武田ランダムハウスジャパン」刊行の『アインシュタイン その生涯と宇宙』の悲惨

一瞬、武田邦彦か、さもなくば「アインシュタインの予言」の類のトンデモ話かと思ったが、そうではなかった。


書籍「アインシュタイン その生涯と宇宙 下」が機械翻訳だったため回収へ - GIGAZINE

読者からのタレコミによると、株式会社武田ランダムハウスジャパンが2011年6月に発売した「アインシュタイン その生涯と宇宙」上下巻のうち、下巻の内容になんと機械翻訳された部分が含まれており、回収騒ぎになってしまったようです。しかもこの件に関わった翻訳者がAmazonのレビューで事情を詳しく説明しており、普段はあまり表沙汰になることのないトラブルの中身がわかるようになっています。

そしてAmazonのレビュー欄では7月15日に「訳者からの事情のご説明」ということで以下のような説明が掲載されています。

私は本書の上巻の5-11章の翻訳を担当した松田です。この下巻の12,13,16章、特に13章を巡る、滑稽かつ悲惨な内部事情を知っている範囲でのべ、読者にお詫びをすると同時に、監修者と訳者の恥を濯ぎたいと思います。

本書の翻訳は数年前に監修者の二間瀬さんから依頼されました。私は自分の分担を2010年7月に終えました。翻訳権が9月に終了するので急ぐようにとのことでした。ところがいっこうに本書は出版されず、今年6月になり、いきなりランダムハウスジャパンから、本書が送られてきました。そして13章を読んだ私は驚愕しました。

私は監修者の二間瀬さんに「いったい誰がこれを訳して、誰が監修して、誰が出版を許可したのか」と聞きました。二間瀬さんは運悪くドイツ滞在中で、本書を手にしていませんでしたので、私は驚愕の誤訳、珍訳を彼に送りました。とくに「ボルンの妻ヘートヴィヒに最大限にしてください」は、あきれてものもいえませんでした。Max BornのMaxを動詞と誤解しているのです。「プランクはいすにいた。」なんですかこれは。原文を読むと、プランクは議長を務めたということだと思います。これらは明らかに、人間の訳したものではなく、機械翻訳です。

先のメールを送ってから、監修後書きを読んで事情が少し分かりました。要するに12,13,16章は訳者が訳をしていないのです。私は編集長にも抗議のメールを送りました。編集長の回答によれば12,13,16章は、M氏に依頼したが、時間の関係で断られたので、別途科学系某翻訳グループに依頼したとのことです。ところが訳のあまりのひどさに、編集部は監修者に相談せずに自分で修正をしたようです。12,16章の訳はひどいなりにも、一応日本語になっているのはそういうことだと思います。ところが13章は予定日までに完成しなかったらしく、出版期限の再延期を社長に申し入れたが、断られた編集長は、13章の訳稿を監修者に送ることもせずに、独断で出版したらしいです。重版で何とかしようとしたようです。出版を上巻だけにして、下巻はもっと完全なものになってからにすればよかったのに、商業的見地からは、上下同時出版でないとダメだそうです。

二間瀬さんは社長に、強硬な抗議文を送り、下巻初版の回収を申し入れました。社長も13章を読んでみて驚愕したようです。そして回収を決断しました。

自動車のリコールがときどき問題になります。そして社会的指弾を浴びます。しかしあれは発売時点では欠陥に気がついていなかったはずです。ところが本書の下巻は、発売時点で、とても商品として売れるものでないことは明らかでした。本書下巻を2000円も出して買った読者は、怒るに違いないと、二間瀬さんに指摘しました。またアマゾンで書評が出たら星一つは確実だとも述べました。

本書の原書は名著です。私は自分の担当の部分を訳して、とても勉強になりました。ですから本書は日本の図書館に常備されるべき本だと思います。ところがこの13章の存在のため、もし初版が図書館に買い入れられたら、監修者と訳者の恥を末代にまで残すことになります。より完全な下巻の完成を期待しています。


機械翻訳のレベルがどれぐらいひどいかは同じくAmazonに2011年7月4日分で以下のようなレビューが投稿されています。

それぞれ400ページを超す上下2巻の大著であり,注目の新刊だが,下巻の翻訳がすごいことになっている。

「彼は,時には,やかましくこっこっと鳴って,終わりに全体の出来事が「最もおもしろい」と断言した。」(p.39)

「ボルンの妻のヘートヴィヒに最大限にしてください。(そのヘートヴィヒは,彼の家族に関する彼の処理,今や説教された頃,彼が「自分がそのかなり不幸な回答に駆り立てられるのを許容していないべきでない」と自由に彼に叱った)。以上は,彼が目立つべきであり,彼女が言ったのを「科学の人里離れている寺」に尊敬します。」(p.41)

アルバート・アインシュタインの爆発するようなグローバルな名声と芽生え始めたシオニズムは科学の歴史の中でもユニークで,どんな分野にも,本当に,顕著であった出来事のため一九二二年春に集中。一種の大規模狂乱を喚起して,ツアーしているロックスターをぞくぞくさせるへつらいを押す東とmidwestern合衆国を通る壮大な二ヶ月の行列式書。世界は,以前一度も見たことがなくて,おそらくユダヤ人のための再びそのような科学的有名人のスーパースター,また,たまたまヒューマニスティックな値の優しいアイコンであった人,および決してどんな生きている守護聖人も見られないつもりだった。」(p.45)


以上原文のママ。やはりアインシュタインの本は私には難解すぎるようだ・・・???

極めつけはp.61.。 

「驚異的な場面だったが,それはクリーブランドで超えられていた。数数千が,訪問代表団と会合するためにユニオン列車車庫に群がった,そして,パレードは二〇〇台の酔っぱらっていて旗の包茎(ママ)の車を含んでいた。


なにか,ダリとかシュールレアリズムの絵画のような情景であるが・・・。


なお、機械翻訳のまま出版されるというのは極めて珍しいケースなので、ある意味、出版界の歴史に名を刻んでしまった貴重な本になってしまい、逆に今は中古本が高値になるという事態になりつつあります。


ひどい話だが、私が目を疑ったのは引用文の末尾にある、「機械翻訳のまま出版されるというのは極めて珍しいケース」というくだり。機械翻訳をベースに人間が手を加えて翻訳文を完成させるという作業なら、出版業界では日常茶飯事として行われているということなのだろうか。その場合、本にクレジットされている訳者とは、いったいどんな仕事をした人ということになるのか。


もし私の邪推が当たっているなら、出版業界の劣化は相当に進んでいることになる。


[PS]

蛇足だが、最近は「アインシュタインの予言」というと、平沼赳夫も信じてしまった天皇に関するトンデモ話ではなく、下記ブログ記事で紹介されている話を指すことが多いらしい。
http://d.hatena.ne.jp/warabidani/20100501/p1