私は朝日新聞を購読しているけれども、新聞の長期連載の記事を読むのが苦手で、「プロメテウスの罠」も以前単行本が出て以来、そのうち単行本になってから読めばいいやと思ってあまり目を通さなくなっていた。だから、下記の第2巻に収録された記事も、読んだ記憶がある部分はほんの少ししかなかった。
- 作者: 朝日新聞特別報道部
- 出版社/メーカー: 学研マーケティング
- 発売日: 2012/07/03
- メディア: 単行本
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だから、第9章で六ヶ所村の核燃再処理工場の件が取り上げられていたことも知らなかったが、昨年読んだ鎌田慧の大作ルポルタージュを読んで知った人名や事柄が出てきた。
六ヶ所村の記録――核燃料サイクル基地の素顔(上) (岩波現代文庫)
- 作者: 鎌田慧
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/11/17
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六ヶ所村の記録――核燃料サイクル基地の素顔(下) (岩波現代文庫)
- 作者: 鎌田慧
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そして、核燃再処理工場が争点になった1991年の青森県知事選についても取り上げられていた。
核燃反対派は、1989年の参院選青森選挙区で議席を獲得した。核燃サイクル推進派の知事・北村正哉の前年の失言が遠因になったが、土井たか子の「山は動いた」という名言で記憶されるこの参院選で、なんと自民党は現職を公認せず、他の候補を公認する「保守分裂選挙」になっていたことを、この記事を書くためのネット検索で知った。そういう敵失にも助けられたとはいえ、核燃反対派の無所属候補は現職にダブルスコア、自民党候補に4倍近い差、共産党候補に対しては10倍以上の差をつけて圧勝したのだった。核燃反対派は、翌1990年の総選挙でも社会党公認候補2人を当選させ、自民党前職2人を落選させた。その前の1986年の総選挙(参院選とのダブル選になった)でなんと自民党が7議席を独占した青森1区(定数4)と同2区(定数3)から、自民党前職2人を引きずり下ろし、自民5、社会2の議席配分になったのだった。
そして迎えた1991年の知事選も再び保守分裂選挙になった。「保守本流」にして青森県元知事の倅である現職の参院議員・山崎竜男が議員辞職してまで「核燃推進派」現職・北村正哉の対抗馬に立ったのだった。山崎は「核燃凍結」を訴えた。それとは別に革新系の核燃反対派も立候補した。
これも本とは関係なくネット検索で知ったのだが、山崎は参院選に初当選する前の1965年参院選で、自民党現職の津島文治に無所属で挑んで負けている。そして1968年の参院選でやはり自民党現職の笹森順三に挑んで今度は勝ち、当選後自民党入りした。自民党では船田派、田中派を経て宮沢派に属したが、中曽根政権時代の1986年には現職でありながら自民党公認をもらえず、無所属で選挙に臨んで自民党公認の脇川利勝を大激戦の末破っている。そんなわけで、無所属で自民党候補と何度も戦った候補であり、保守王国の青森では革新政党の候補では勝負にならず、保守分裂選挙が常態だったらしい。
1989年と90年の国政選挙で「核燃反対派」は勢いを得ていたから、この保守分裂選挙は「核燃反対派」にとっては大チャンスだったはずだ。
ところが、「核燃推進派の現職危うし」と見られたこの青森県知事選に、東北電力だけでなく、東電、関電、北電、中部電など、各地の電力会社が現職・北村正哉の応援にかけつけたのだった。「核燃凍結」を訴えた保守本流の山崎竜男は、選挙前に東北電に「選挙不出馬説」を流されたり、自民党のいろいろな人から出馬を取りやめるよう働きかけを受けたとのことだ。
結局、選挙は事前の予想に反して現職の北村知事圧勝に終わった。保守分裂選挙に敗れた山崎陣営は、この選挙を「全体主義的ファシズム」と評し、「憲政史上例の無い干渉選挙が平成三年二月の青森県知事選で行われた」と総括したという。
ところが、この史実を記述した「プロメテウスの罠」の記事には大きな手落ちがある、そう私は思った。それは、そのような「全体主義的ファシズム」の選挙を行った張本人である、時の自民党幹事長・小沢一郎の名前を記事に出していないことだ。私がこれまでに読んだ本で1991年の青森県知事選に触れたどの本にも、小沢一郎が現地入りして強烈な締めつけを行っていたことが書かれていたというのに。
なぜ、朝日新聞の「プロメテウスの罠」は小沢一郎の名前を出さなかったのか。今、「国民の生活が第一」の代表として「脱原発」を訴えている小沢一郎には、この青森県知事選に関する説明責任があると思うが、例によって小沢は口をつぐんでいる。そんな無責任を許さないためにも朝日は小沢一郎の名前を出すべきではなかったか。
この第9章は、せっかくの好内容が、小沢の名前を出さなかったことで「画竜点睛を欠く」うらみが残ってしまった。それが惜しまれる。