kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

朝日新聞(1/30)オピニオン面「春の闘い 何のため?」を読んで(上)

一部で、昨日(1/30)の朝日新聞オピニオン面に掲載された「春の闘い 何のため?」が話題になっている。

3人の論者の名前とインタビュー記事の見出しを上げておくと、山田久(日本総研調査部長)「賃上げでデフレ脱却を」、神部紅(じんぶ・あかい=首都圏青年ユニオン事務局次長)「非正規との共闘が先だ」、ビル・トッテン(ソフトウエア販売会社会長)「組合いらぬ会社が理想」。

山田久*1のは、経歴を見ると銀行出身のエコノミストのようだ。金融緩和と財政出動でデフレ脱却ができるかどうかはわからないが、多くの企業が賃金の底上げ(ベースアップ=ベア)をすれば、デフレは確実に終わると言っている。これは、多くの人が考えるところだろう。私もそう思う。

だから、きまぐれな日々 政権を奪回して所得税増税に豹変した安倍自民党政権だが で私はこう書いた。

最後に、今年の春闘についてだが、経団連や大企業は、安倍政権に協力するつもりなら、賃上げを奮発すべきだろう。普通は賃金は物価よりも遅れて上がるが、インフレターゲットによって仮に物価が上がっても、賃金が上がらなければ国民の生活は楽にならない。そもそも定期昇給を見送ったりすればインフレになるどころかデフレが強まってしまう。だから先駆けて賃金を上げておけと言いたいのである。物価が上がったのに給料が下がれば、暮らしの苦しくなった国民は安倍内閣の支持率を下げ、政府の税収も増えない。財界にとっても良いことなど全くないはずだ。

そのくらいのことも解さない財界であるのなら、「経営陣(財界)がアホやから仕事がでけへん」との誹りは免れまい。


上記の文章は、読み返してみるといささか舌足らずなので、少し補足する。

  • 定期昇給を見送る」ことは、いうまでもなく年功序列の賃金制度下にあっては「賃下げ」を意味する。
  • 定期昇給は行うが、ベースアップは見送る」のなら、賃金は上がりも下がりもしない。
  • 「ベースアップ(ベア)を行う」ことによって初めて賃金が上がる。

つまり、企業がベアを実施する判断を行えば、デフレは脱却できるし、以下は私としては全く歓迎しない事態だけれど、安倍政権の支持率が上がって参院選にも圧勝して長期安定政権になり、安倍晋三が念願としている憲法改定もできるかもしれない。

だから、あんまり敵(安倍政権)に塩を送るようなことはすべきでないかもしれないけれども、格差と貧困がこれ以上広がってはたまらないから、企業は賃上げすべきだと書いたのだ。

記事の最後の「経営陣(財界)がアホやから仕事がでけへん」は、江本孟紀*2の名言(迷言?)に引っ張られすぎた。「財界がアホやからデフレが脱却でけへん」と書いた方が、より真実を表すことになったに違いない。

山田氏のインタビューに戻るが、氏は、バブル崩壊以前の日本では、春闘では「企業の生産性が上がった分だけ、賃上げをしよう」という相場観が労使で共有されており、結果的に賃金は実体経済の流れをよく反映し、安定成長の要因の一つになっていたと指摘する。一方、現在の日本では、企業がグローバル競争への対応のために賃上げを渋り、労働者側も雇用確保を優先して賃上げ要求に及び腰。だから2000年代の景気回復機に、労働分配率が日本の適正水準とされる65%を下回っていて賃上げの余力があったのに賃上げできなかったという。

山田氏は、今必要なことは、「給料は下がるもの」という固定観念を突き崩すことだが、「給料は上がるもの」という状況を取り戻すには、経営陣は生産性を上げるために事業の仕組みを変え、働き手も必要なスキル転換や転職を受け入れる必要があると言っている。それには政府が介入して、職業訓練などで民間の取り組みを支援すると共に、主要産業ごとに賃上げについて労使が話し合う新たな場を設けることが望ましいとの氏の主張を読んで思い出したのは、「社民主義」と呼ばれることもある北欧諸国の施策だ。

一般的なイメージに反して、北欧諸国は厳しい競争社会であり、労働者に十分な賃金を払えなくなった企業は市場からの退出を余儀なくされる。この時、もちろん労働者は失業するわけだが、失業保険や職業訓練などのセーフティーネットが手厚いために、国民はそれを受け入れている。つまり、山田氏は「政府が介入して」という言葉で示唆するだけで明言していないけれども、山田氏が言うような政策を行うためには「サービスの大きな政府」が必要なのである。

山田氏は最後に、ベアは正社員だけが対象であり、非正規雇用が増えた現状では、ベアは必ずしも労働者全体の取り分を増やすことにはつながらない、今後は「賃金の総額を何パーセント上げるか」という基準の方が適切だろうと指摘する。その非正規について発言しているのが神部紅氏だが、記事が長くなったのでいったんここで切り、この続き(神部紅氏とビル・トッテン氏のインタビューについてのコメント)はのちほど書きたい。

山田氏のインタビューを読んで改めて思ったことを書くと、やはり産業界を正しく代表していない経団連は最悪だなあとか、政治改革と並行して行われた労組再編は両方とも日本の社会にとって百害あって一利なしだったなあとか、「アベノミクス」で円安に振れてマスコミをはじめとしてみんな大喜びしてるけど、あれってそんなに良いことなのだろうか、単に競争力が落ちてきた企業が温存されるだけなのではないかということ、などなど。いくら企業の業績が上がって「景気が良く」なったって、賃金が上がらなければデフレは絶対に脱出できないと思うんだけれども、間違っているだろうか。

最後に、本記事で引用した「きまぐれな日々」のくだりへの批評を含む同ブログへのコメント*3を紹介する。

先駆けて賃金上げるのはどうかと思います。インフレで利益が出たことをみて組合または雇用者があげるのがふつうだと思うのと両者の会話の足場や根拠がハッキリして対話がスムーズにいくので。
戦略的な雇用者なら既に利益があがったら賃金または賞与の約束をして労働者の働く誘因、経済学的にいうインセンティブを使ってるかもしれません。また利益量による調整が効く。そしてだからこそ急激な通貨供給による急激なインフレを懸念しています。


でなぜこの話からしたかというと、小泉政権またはアメリカ一辺倒や軍拡外交を訴える人は戦略も足場もあるのか疑問に思うからです。
主さんが書いているように小泉政権イラク派兵は、戦略的に考えてればこうなる口実をテロリストに与えるのは予想できました。皮肉を言いましょう、だってショウザフラッグしたんだもん全世界に向けて。


で本題は日本の国際収支の増益の戦略にも関わるという事です。現在の日本の足場根拠として12年度の国際収支が先月の新聞ダイジェストにのっており、貿易収支は弐兆の赤字、ソース違いますが地震による液化ガスを中東から前年の二割りましてと対中国輸出の悪化。黒字が出たのはは海外子会社からの配当や海外証券の利子に拠る七兆のお陰です。
もしかしたら今はアメリカからの配当金の割合が多いかもしれないが、要検証、日揮みたいな会社や三菱商事のような会社で今後国際利益を出していく可能性が高いということです。そして日本の国際社会に置けるイメージはそれに重要に関わる戦略的意味が増えてくるでしょう。
英米はシリアなどのように軍事力やアルカイダなどを軍事援助して市場を開拓しようとしていますが…。
混乱を求めている意味でテロリストコイツら本当に利害一致しているからたちが悪い。そしてイラクでは英米の大企業ばかりが復興資金を獲得しているんだから胸糞悪い。おっと失礼。


で再分配の話を絡めると、労働者に金が回る効果が怪しく成ってきている輸出産業の為に円安するよりも、円高で輸入材料を安く買って国内で消費財作っている産業や上の海外子会社の資金を増やす意味でもって円高を推進し、日本の労働者に金が回りずらいだろう事を考慮し、再分配政策を行うというのもあるんではないでしょうか。

2013.01.28 23:49 基礎固め 戦略と足場


記事の本論と関係があるのは最初の部分だけだが、他の部分も面白かったので全文紹介した。「インフレで利益が出たことをみて」賃金を上げるのがもちろん普通だけれども、気の利いた企業なら、安倍政権を浮揚させる意味でも今回は「インフレで利益が上がる前に」賃上げしたらどうですか、というのが私の提案です。労組が骨抜きにされてしまって賃上げを要求できなくなっている現状も念頭に置いています。

記事はここでいったん中断するが、先回りして書いておくと、某有名ブログ主が絶賛したとかいうビル・トッテンのインタビュー記事にある人物紹介欄を見ると、トッテンは来月『課税による略奪が日本経済を殺した』という本を刊行予定らしい。この書名を見ただけで私はのけぞった。河村たかし小沢一郎あたりの仲間ではなかろうかと思った次第。ま、もう既にトッテンに対する批判はなされているようだが。

*1:「久志」なら元阪急ブレーブスの大投手なので、変換候補に「山田久志」とばかり出てきて困る(笑)。

*2:江本孟紀が1981年に発した言葉は、「ベンチがアホやから野球がでけへん」。なお、「えもとたけのり」と入力してもこの男の名前は変換してくれなかった(笑)。

*3:http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1288.html#comment16036