kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

吉井英勝『原発抜き・地域再生の温暖化対策へ』(新日本出版社)

原発抜き・地域再生の温暖化対策へ

原発抜き・地域再生の温暖化対策へ


共産党衆院議員の著者が東電原発事故前年の2010年に共産党系出版社から出した本。買ったのは一昨年だが、長らく「積ん読」だった。前の3連休(9/14〜16)に読み始め、今日読み終えた。買ってから読み終えるまで、かくも時間がかかった理由は、これは気合いを入れなければ読めない本だと思っていたからだ。東電原発事故発生後に雨後のタケノコのように出版された凡百の出版物とは重みが全く違う。

要約は私の手にはちょっと余るなあと思ってネット検索をかけてみたところ、アマゾンのカスタマーレビューに良いものがいくつかあったのでこれらを紹介してお茶を濁す。まずもっとも共感したレビュー。

圧倒的な情報量と考察の深さ 2011/5/27
By ワッフル


原子力発電の問題点を指摘した本は多いのですが、この本が一番網羅的かつ総合的に記述しています。著者は大学で原子核工学を専攻した国会議員です。所属政党の政策宣伝の部分もないとは言えませんが、気になるならそこだけ飛ばして読めば良いと思います。特に我田引水的には感じませんでした。

問題を起こした人物(いわば被告)がその行為の正当性を裁く(いわば裁判官の)「原子力村」の体質、アメリカの原子力ビジネスと日本への売り込み、様々な利権とそれに群がる政治家や企業や学者、財政を原子力施設に頼った自治体がずっと依存することになる「中毒状態」、地震津波の影響が以前から指摘されていたこと(しかも、この本は2010年の出版)、非常用ディーゼル発電機が稼働しなかった事故の例、四つのプレートの境界になる日本に発電所や廃棄物の貯蔵に適した立地がないこと、材料の照射損傷や冷却水配管の劣化が当然予想される問題であったこと、老朽化した福島第一原発浜岡原発の問題点、女川や柏崎の発電所地震の際にたまたま運良く大問題に至らなかったこと、JCOの事故が人災であったこと、他の本なら一つのトピックスを水増しして、あたかも自分だけの発見であると書きそうなことを、感情的にならず冷静かつ科学的に指摘しています。圧倒的な情報の量と考察の深さに感心します。

他の本を読まれた方もこの本と読み比べてみれば、著者が同じ問題をさらに深く捉えていることが理解できると思います。軽水炉で生み出される低品位のプルトニウムでも原爆が製造可能であること、六ヶ所村で進められようとしている再処理が確立しない技術のままの見切り発車であること、同じく科学者、技術者である高木仁三郎さんや小出裕章さんの本とはまた違った観点から原子力発電の問題を論じています。

他のレビューに「予言の書」とありますが、まさにその通りです。いや、予言などではなく、過去の事例と技術的検証から当然予想されていた問題だったのです。それを滅多に起こらないからと手付かずにしてきた行政の怠慢が今回の事故の原因だとも言えます。地震津波などの天災ではなく、場当たり的な行政と御用学者の起こした人災です。

この本は原子力に代わる代替エネルギーにも言及しています。北海道稚内市風力発電は同市の電力の需要の七割を賄っているそうです。また、単なる自然エネルギー礼賛ではなく、風力発電の問題と対策もきちんと述べています。他の本を既にお読みになった方にもお勧めしたい一冊です。


他に興味深いと思ったレビューを2点挙げておく。

もっと読まれていていい本 2012/4/12
By lucky_dog


 もう少し注目されてたくさん売れていて良い本だと思います。

 2010年の発行ですが、内部電源と外部電源喪失の危険性、送電線が自然災害で倒壊することはたびたび発生しているが、原発の場合は致命傷になりうるということ、など福島原発事故の経過を振り返ると的確な指摘が多くあります。
 主に浜岡原発関連の記述ですが、冷却用の取水口のトラブルとポンプの水没は危険であるという指摘は、同様のことをアメリカの元原発技術者のアーニー・ガンダーゼンが最近の本で書いていました。


 原子力発電の開発費用などについても数字が正確に記述されていて、資料的な価値も高いのではないでしょうか。
 あらゆる種類の代替エネルギー関連の政府支出の総額と、電気を全く生まない「もんじゅ」単体の維持費用が年間ベースでほぼ同額の200億円程度だとか、意外と世間には知られていないのではないかと思います。


 自分が読んだ限りの印象では、吉井氏は核エネルギーの将来性自体までも否定しているわけではないように思います。本書のあちこちに技術的に未完成とか、技術的課題が多いとかいった記述がみられます。恐らく現在の原子力政策と原子力産業は続けない方が良いという考えではないかと想像します。
 吉井氏は自然エネルギーだけでなく核融合なども関心をもっていらっしゃるようで、その分公平で正確で冷静な判断をされているのではないでしょうか。
 個人的に注目した記述が東芝のウエスティングハウス社買収についての分析です。アメリカはひょっとすると軽水炉は将来性がないと考えているかもしれず、軽水炉メーカーであるウエスティング社の価値が無くなる前に高値で日本メーカーに売り飛ばしたのかもしれない、という話です。アメリカの議員立法でトリウム溶融塩炉についての法律が提案されたといいます。トリウム溶融塩炉の本を書いている亀井敬史と分析がよく似ていて驚きました。


 著者と意見が異なる唯一の点が、石炭の国産化という話です。吉井氏は日本は元々石炭を国産化してエネルギー自給率が50%以上だったので、再度石炭の国産化を考えても良いと書いています。
 その場合、この石炭使用は炭素貯留技術を利用するという前提付ですが、エネルギーの自給というものを環境被害などのリスクを冒してまで追求する必要性があるか、少し疑問に感じました。
 なお、準国産エネルギーといわれる原発の燃料であるウラン価格が実は乱高下しているという、とても重要な指摘もこの本では記載されています。このことは、この本で何度か言及されている豊田正敏氏の「原子力発電の歴史と展望」にも書かれています。

トリウム溶融炉原発のくだりでは、「おっ、『小沢信者』が我田引水しそうな話だな」とか、「吉井氏は核エネルギーの将来性自体までも否定しているわけではない」ことに関しては、「『小沢信者』が『隠れ原発推進派』と言い出しかねないな」などと思いながら読んだのだった(笑)。

福島第一原発の事故をピタリと予言した凄い本。そして某政治学者の詐欺師っぷりを確信できる本。 2013/3/16
By Kevin・B・Jackson


筆者はもともと原子核工学を学んだ原発問題の専門家で、現在共産党の議員としてご活躍されている方です*1

本書は、1988年の当選以来の議員活動を踏まえた反原発本で、驚くことに彼は、1999年のJCO臨界事故が発生した当時、リアルタイムで現地に直行しており、事故当日に現場で事故の原因を調査した唯一の国会議員でした。

語り口調の読みやすい文体で、理系出身ならではの技術面における原発の欠陥と、問題の背景にある地方自治体の財源不足、東京電力をはじめとする事実の隠ぺい工作、安全を監視できていないチェック機関が説明されており、かなり質が高い入門書です。福島原発炉心溶融事故の危険性も本書(2010年発刊)で指摘しています。まさに予言の書ですね。

トロツキー共産党差別が大好きな政治学者T・K氏は自身の講演で「共産党は戦後一貫して原発推進派だった」と語っていましたが、彼の話のなかには吉井議員のことは一言も触れられていませんでした。

共産党放射能汚染をもたらさない安全技術の研究開発を、原子力の平和的利用として主張しているのですが、彼らに言わせるとそれが許せないそうです(温暖化を嘘と言い張る広瀬隆氏をカリスマ視しているわりには)。

加藤哲郎に限らず、共産党の貢献だけは絶対に認めようとしない反原発グループの異常な姿勢こそが震災まで反原発運動が国民に無視されていた何よりの原因ではないでしょうか?

彼らは現在、左派を自称しておきながら、震災後に急に反原発を唱えだした極右グループとも手を組んで活動していますけれど、こういう矛盾した行為が運動の沈静化につながるような気がして心配です。

私は某政治学者(加藤哲郎)ではなく、「小沢信者」が「脱原発」運動に撒き散らしている害毒を思いながらこの本を読んだ。


アマゾンカスタマーレビューの引用だけではなんなので、いくつかメモしておく。

まず、東電原発事故発足後に吉井元議員が予見していたとして注目を浴びた、停止した原発の危機冷却系を作動させるための外部電力が得られなくなる恐れの件。東日本大震災・東電原発事故の発生直後に放送されたテレビ朝日の『朝まで生テレビ』で、討論が今回の原発事故を「想定外の事故」として片付けられそうになった時、経済評論家の荻原博子が吉井元議員(当時は衆院議員)の予見を指摘して反論した。これに対し、討論に出ていた片山さつき(笑)が、吉井議員の指摘は津波による高波ではなく、引き潮の際の危険性を指摘したものであったと反論し、その後原発推進論者が好んで片山の尻馬に乗ったことがある。この件について私は、津波の際の引き潮の危険を予見した吉井氏が高波の危険を予見しなかったはずがなかろうが、とずっと思っていた。そしてその答えが本書にあった。以下引用する。

 また地震によって、もともと腐食や減肉のすすんでいた多数のバルブや配管類が折損することは、新潟県中越沖地震はもとより、これまでも何度も経験してきたことです。津波が発生する場合、高波の時に機器冷却系ポンプが水の中につかってしまう問題とともに、引き波の時に機器冷却系の給水口より水位が下になってしまって、崩壊熱を除去する水が得られなくなるものもあります。また、原発停止で、所内電力が得られなくなると代替するディーゼル発電機を動かすのですが、三台のうち二台がだめであったり、外部から引き込んでくる二次電源としての高圧線が送電鉄塔の倒壊で期待できなくなる問題を引き起こした原発もあります。事故は、「多重防護システム」で考えたとおりに進むものではありません。

(吉井英勝『原発抜き・地域再生の温暖化対策へ』(新日本出版社, 2010年)157頁)

片山さつきの「反論」とやら(笑)が完璧に破綻していることは明らかであろう。

この本は、2010年に出版されているので、民主党鳩山由紀夫政権下においても、2009年秋に、鹿児島の川内原発3号機増設問題で環境アセスメント報告書を発表した時に、当時環境大臣だった小沢鋭仁(現日本維新の怪)が経済産業大臣(旧民社の直嶋正行)に「環境対策として原発推進をはかられたい」と意見を表明したり、その直嶋正行「トップセールス」と称して各国に原発輸出を進めたりしたことも書かれている*2 *3

あと、カスタマーレビューにも少し触れられているエネルギー自給率の件。なんと日本政府はエネルギー自給率に関して、原料のウランをすべて輸入しているにもかかわらず、原発を「準国産エネルギー」だとして(2008年度の)エネルギー自給率を約18%だと強弁しているが、国際エネルギー機関(IEA)の手法で推計すると、つまり原発を(準)国産エネルギーと見なさないとすると、2008年のエネルギー自給率はなんと4%になる*4。食糧自給率どころの騒ぎではないのである。この数字が全原発が停止している現在どうなっているかは知らないけれど。ウランの価格も乱高下しており、本書95頁に載っているグラフを参照すると、2007年に酸化ウランの価格が136米ドル/ポンドの高値を記録したことがある。その後ウランの価格は下落したが、第2次安倍内閣が成立した時、日本の原発再稼働を期待して少し値上がりしたものの、その後また値下がりしたらしい。今後安倍政権が本格的に原発を再稼働するようなことがあれば、再びウランの価格が急上昇することもあるかもしれない(笑)。なお日本の電力会社は、人種差別政策をとっていた時代の南アフリカが不法占拠していたナミビアから、国連の制裁決議に違反してウランを買いつけるという悪行もなしていた。自民党政権がこれを黙認していたことはいうまでもない*5

本書のタイトルからも明らかなように、原発を止めて再生可能エネルギーに転換せよというのが著者の主張であるが、原発からは一切手を引けというのではなく、基礎研究は続けよと言っている。このあたりは「小沢信者」に多い「脱原発原理主義者」が小沢の「トリウム原発」推進論の件を棚に上げて「隠れ推進派」と言い出しかねないし、同じくタイトルにある「温暖化対策」についても、同じく「小沢信者」に多い「地球温暖化陰謀論者」には相容れないところであろう。私がこれらの点に関して「小沢信者」らの主張を全否定し、著者を支持することは言うまでもない。トリウム溶融炉原発に関しても、基礎研究であれば大いにやるべきであろう。小沢一郎の場合は基礎研究の勧めではなく実用化の提言をしていたとしか思われないが。

さらに本書は、核融合にも触れている*6。日本、EUアメリカ、ロシア、カナダ、中国、韓国などが共同で取り組む大規模な研究プロジェクトに、「国際熱核融合ITER(イーター)」というのがあって、日本の「原子力ムラ」がこれを六ヶ所村に誘致しようとフランスと取り合いをして負けたことがあったそうだ。これを名古屋大学池内了名誉教授が「エネルギー問題の解決という美名に隠れた巨大公共事業の継続としか思われない」(1999年4月5日付朝日新聞)と批判し、当時科学技術担当大臣だった町村信孝でさえ「地域おこし的観点が少し走りすぎている」(2001年3月1日、衆議院予算委員会分科会答弁)と言ったとのこと。これが日本のエネルギー行政の実態である。核融合発電などいつ実用化できるかも全くわからない基礎研究の段階の技術であることくらい、誰にだってわかる話だろうと思うが、常識が通用しないのが日本の行政であるようだ。

残念ながら著者は昨年末の衆院選に立候補せず国政から引退したが、本書を通読して、時に「理想論ばかりで現実的でない」と言われる共産党議員の主張の方が、自民党政府、官僚や産業界などが長年推進してきて、東電原発事故が発生して、汚染水問題を含む事故処理や廃炉の目処が全く立っていないにもかかわらず惰性で継続しようとしている政策なんかよりもずっと現実的である場合がある、その典型例が本書だと思った。巨大な惰性で進む行政の原発推進(維持)政策をいかに止めるか。今後、日本を再生させるための非常に大きな課題である。

*1:著者の吉井英勝氏は、2012年の衆院選に出馬せず引退した=引用者註

*2:本書57頁

*3:ただ残念ながら本書には小沢一郎菅直人の名前は出ていない。事実を指摘しておくと、民主党の政策をそれまでの「慎重に推進」から「積極的に推進」に改めた時(2007年)の民主党代表は小沢一郎であり、直嶋正行のあと、今度は総理大臣として自らベトナム原発を売り込みに行ったのは菅直人だった。

*4:本書61-62頁

*5:本書94〜99頁より

*6:本書197〜203頁